バレット・ルーレット

ラム25

矜持という名の弾丸(脚本)

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〇洋館の玄関ホール
リョウ(俺は今日、死ぬかもしれない)
  アメリカ、ラスベガス。
  一人の黒髪の男が静寂に包まれたカジノに足を踏み入れる。
  ラスベガスのカジノは24時間営業されているが、この日は違った。
  2人の男の戦いに決着をつける、そのために特別に貸切にされたのだ。
  黒髪の男・・・
  リョウは不気味なほどに静まりかえったカジノでエレベーターに辿りつくと、ボタンを押し、最上階へ向かう。
リョウ(長かった、ここまで、実に長かった)

〇エレベーターの中
リョウ「・・・」
  最上階へ向かう途中、リョウは過去を振り返った。
  そして頭の中に流れるのは忌まわしい記憶だった。
  しかしそれを清算する。

〇謎の扉
リョウ(このドアの向こうに奴がいる)
  リョウはドアを静かに開ける。

〇カジノ
  ドアを開けると金髪碧眼の端整な顔立ちの男が奥で、ゆったりした姿勢で赤ワインをグラスで揺らしている。
カミル「早かったな。 悪いが君の分のワインは用意してないんだ」
リョウ「構わない。 俺は下戸だ」
カミル「そう言えばそうだったか」
  このへらへらと笑うカミルこそ、今日、リョウと対戦をする男だ。
  この二人の間にはただならぬ因縁があった。
  そして今宵、どちらかが破滅する。
カミル「競技は何が良い? 僕はトランプでシンプルに終えたい」
リョウ「いかさまを仕込むのも楽だろうからな」
カミル「不本意極まりないな。 まあだったら他に何か駆け引きのある物を──」
リョウ「いや、ルーレットがいい。 俺たちの命運が駆け引きすらなく完全に運で決まる・・・ ある意味相応しくないか?」
カミル「だが、僕は君と──」
リョウ「よせ。異論はないな?」
カミル「・・・ああ」

〇闇カジノ
  そして二人は最上階の中央にある、巨大なルーレットの前に並び立つ。
カミル「ルールはどうする?」
リョウ「シンプルに偶数か奇数か当てた方が勝ちにしよう。 5回勝負だ」
カミル「・・・だが、僕と君の因縁がこんな運だけで清算されて君は本当に納得出来るのか?」
リョウ「何度も言っているだろう。 始めるぞ。 俺は奇数に賭ける」
  そして、リョウはルーレットを回した。
  一流のディーラーはルーレットの出目を正確に当てられるというが、リョウはその域には到底達していない。
  そして出目は・・・・・・18。偶数だった。
カミル「君も幸先が悪いねぇ。 だが奇数か偶数かなんて1/2でしかない。 僕は偶数に賭けるよ」
  そう言い、ルーレットを回すカミル。
  そしてカミルは椅子に座ると、落ち着き払った様子でそれを眺める。
  ボールが懸命に転がりつづけている様を目で追いつつ、ふとカミルが語る。
カミル「懐かしいな。 こうして一緒にゲームをするのは」
リョウ「何年前の話だろうな」
カミル「さあな。 僕と君は実力がほぼ拮抗してたが最後に勝つのは君だったな」
リョウ「たかがコンピュータゲームの話だ」
カミル「僕は悔しかったよ。君に勝つために僕は・・・ おや? 16か・・・」
  いつの間にかルーレットの目が出ていた。
  カミルの予想通り偶数が出た。
リョウ「次は俺の番か。 俺はあくまで奇数に賭けよう」
  そしてリョウは静かにルーレットを回す。
  その出目は7。
  奇数だった。
カミル「さて、僕の番か」
  そしてカミルはルーレットを回すと、椅子に座って指を組み、顎へ運ぶ。
カミル「昔話と言えば、僕と君が共同で作った会社・・・Mapleは実に伸びたな」
カミル「スマートフォン、タブレット、パソコン・・・それらのシェアを独占している」
リョウ「あぁ、俺もお前もあそこまで伸びるとは予測出来なかった。 ・・・同時に社長の座を追い出されるとも」
カミル「あれは不慮の事故だったと認識している。 天才の意向を理解できなかった凡人が起こした、ね・・・」
  二人はルーレットに視線を下ろす。出目はカミルの予想通り8、偶数だった。
カミル「はは、僕も運がいいね」
リョウ「・・・そうか、見抜けたぞ、お前のイカサマのトリックが」
カミル「イカサマ? なんのことだ?」
リョウ「ボールに磁気を帯びせ、ルーレットの出目を調節する・・・それがお前のやり口だな」
カミル「どういうことだ?」
リョウ「恐らく、靴だな。 お前はボールと靴に磁気を帯びせ、椅子に座って足の向きを微調整することでボールを操っていた」
リョウ「気付いた理由は3つある。 1つはお前はルーレットを回す度に椅子に座ったこと。 連動しているのだろう」
リョウ「お前がボールを回したときに過去の話をしたのも意識を逸らすためだな」
リョウ「2つ目は俺が似たイカサマをかつて考えたこと。 その時は磁力を椅子と連動させるという発想がないため制御出来ず使えなかったが」
リョウ「3つめは──」
カミル「いや、もう良い。 正解だ。 椅子と靴を調べれば分かることだ、認めるよ」
  リョウの言うとおり、カミルはボール、椅子、靴、トランプ、ダーツ・・・あらゆる物に細工を施していた。
リョウ「つまり、負けを認めるということだな?」
カミル「あえて運の要素が強いゲームをすることで、僕をイカサマに走らせ、イカサマを暴く・・・ 悔しいが・・・完敗だ」
リョウ「・・・そうか」
  こうしてしがらみに捕らわれた二人の運命の対決は決着がついた。
リョウ「カミル、負けたからには条件を呑んで貰う。 たとえそれがお前にとって死に等しかろうと」
  カミルはこの世の終わりのような表情を浮かべることもなく、素直に聞き入れた。
カミル「あぁ、条件は守る。 今後僕は君の・・・」
カミル「・・・いや、兄さんのプリンを勝手に食べない」
リョウ「おい、アイスとヨーグルトは?」
カミル「あ、あぁ、食べないよ兄さん! だから拳を下ろしてくれ!」
  こうしてラスベガスのカジノで一夜限りで開かれた兄弟喧嘩は静かに幕を閉じた・・・

コメント

  • めっちゃシリアスに見えてこのオチ(笑)
    共同で作った会社の話とかなんだったのかと…
    オチ知ってから読むとまた面白いですね。

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