缶(脚本)
〇黒
「おえっ」
〇清潔なトイレ
大越 還奈 (おおえつ かんな)「ケホッ の、飲んでないよね きのう・・・」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「? なに?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「缶・・・ 缶、だ。 やっぱ、飲んでたのかな」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「? ラベルが貼られてないや 蓋もないし」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「・・・」
無機的な銀の凸面鏡は、還奈の心をうつすように彼女の顔を歪ませる
大越 還奈 (おおえつ かんな)「なんなのか、これは」
〇異世界のオフィスフロア
大越 還奈 (おおえつ かんな)(『青森の廃神社、「神隠し」の謎!』 『神の怒りか!?怪奇「神隠し」事件!』)
大越 還奈 (おおえつ かんな)(『秘密結社の日本支部は「廃神社」にあり!?』)
大越 還奈 (おおえつ かんな)「いやいや、やりすぎか」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「ふあ、、 朝は冴えんな カフェイン、カフェイン、と」
大越 還奈 (おおえつ かんな)(シュガー♩ ミルク♪ ガムシロップは〜〜 ──いらんな)
大越 還奈 (おおえつ かんな)「ズズ・・・」
大越 還奈 (おおえつ かんな)(まだ、、 胃液の味が残ってる)
同僚くん「還奈さん」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「ん? なに?」
同僚くん「廃神社の取材、どうでした? やっぱ「出」ました?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「いや〜、ね? 「河童を信じない人の元に河童は出ない」ってゆうか」
同僚くん「ありゃ じゃあ、ネタなし?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「別に私もリアリストってわけじゃないけど どう怖がればいいのかわかんないっていうか」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「霊感もないし、「霊」みたいなものの実感がわかんないっていうか」
同僚くん「よくオカルトライターできますね」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「だねぇ ま、民俗学やってたからこの仕事は結構気に入ってるんだけど」
同僚くん「まあ、少なくとも悪いことがなくてよかったです」
同僚くん「「いわくつき」のやつだと本当にヤバいやつありますからね」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「そうだねぇ 何にもなく・・・て」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「・・・うん」
同僚くん「そんじゃ」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「あっ、ちょっと待って」
同僚くん「?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「缶・・・ 吐き・・・ うーん、いや〜・・・」
同僚くん「??」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「・・・ラベルが貼ってなくてさ、 そんで蓋もなくて、 そんなアルミ缶、存在すると思う?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)(ああ、 そういうのが聞きたいんじゃないんだよ)
同僚くん「ふむ もしそんなものがあるとしたら」
同僚くん「それは──」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「それは?」
同僚くん「宇宙人のアーティファクトでしょう!」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「アーティ、なに?」
同僚くん「過去にも宇宙人が地球の人工物を模倣して作ったと思われるものがあるんです! 僕がこの前書いた記事でもそのことについて──」
(中略)
〇黒
異変はその後も終わらなかった
毎朝起きるたびに吐き気を催し、血の気が下がるとともに嘔吐をすると、缶が喉から出てくる
缶の外見は変わらず銀色の「のっぺらぼう」
でも、缶によって違う部分もある
缶の底面には律儀なことに「賞味期限」と「製造日」が印されていた。
「賞味期限」は吐いたその日、「製造日」はどれも多少の差異はあるが、自分の誕生日の少し後の月日が印されている
それぞれ何に対する数字なのか不明だが
「カウントダウン」とかでは無いのは慰めだった
〇異世界のオフィスフロア
その後病院で検査を受けるも異常ナシ
お祓いも、気乗りはしなかったが一応してもらった
大越 還奈 (おおえつ かんな)「それでも変わらず 今朝もゲーッよ」
同僚くん「医者もダメ、お祓いもダメ やはり宇宙人の仕業では・・・?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「そんで、ポジティブに考えることにしたわ これをネタに記事にしてしまえ、とね」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「蓋のないアルミ缶なんて偽造不可能だし」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「これが宇宙人の仕業にしろ神の仕業にしろ、やられっぱなしは癪だかんね。 せいぜい利用さしてもらいますわ」
同僚くん「蓋のないアルミ缶くらいなら、3Dプリンターとか、画像加工で簡単に作れるんじゃないですか?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「・・・」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「たしかに」
同僚くん「うわっ! 大丈夫ですか!?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「えっ? うわー!!コーヒー落とした!?」
下を見ると
私が持っていたはずのコーヒーが、手から抜け出して溢れていた
大越 還奈 (おおえつ かんな)「くっそー! 「また」落とした!! さっきもスマホ落としてヒビ入ってさー!!」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「絶対、缶のせいだよ〜 これから起こる不幸は全部コイツのせいにしてやるからな!」
同僚くん「これが「缶」ですか? 本当だ。蓋もラベルもない」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「洗ってるから 触っても大丈夫だよ」
同僚くん「はい どれどれ」
同僚がアルミ缶を触り、色んな角度から眺めている
何を探してるのかは知らないが、その目線は研究者みたいに真剣だ
渡しておいてなんだが、自分が吐き出したものを異性の知人が眺めている状況は少し目を伏せたくなる
背徳感に近い気分
同僚くん「これ、中には何もないんですかね?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「え?」
同僚くん「あ、振っても音しない 空き缶か」
同僚くん「むう 中身がないとしたら、ますます意味がわからないな」
アルミ缶はそのあと彼に譲った。
彼曰く、関連のある資料がないかネットか書籍で調べてみたいとのこと
私はその後、特にいつもと変わらず仕事を行い、帰宅した。
〇清潔なトイレ
大越 還奈 (おおえつ かんな)「う〜 うっぷ」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「おえっ」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「ふ〜 はいはい、出た出た」
横の棚から手早くビニール手袋を取り、吐き出した缶を掴む
カランッ・・・
大越 還奈 (おおえつ かんな)「えっ」
音が
軽く、小さいものの音が聞こえる
「缶」の中から
大越 還奈 (おおえつ かんな)「えっ なんっ、なかったじゃん 今まで・・・」
ゾッと粟立つ。
そしてその後は、開けてはならないような、開けねばならないような、矛盾した感情に掻き立てられた
大越 還奈 (おおえつ かんな)「か、缶切り どこ?台所にあったっけ?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「・・・ ハサミでいいか」
開いた
大越 還奈 (おおえつ かんな)「・・・」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「歯── 奥歯、だ」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「!」
その時初めて・・・
自分の口から感じる違和感に気づく
大越 還奈 (おおえつ かんな)「うそ・・・ うそだ、これ」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「これって 私の・・・」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「わっ」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「ああ、あいつか びっくりした・・・」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「もしもし!? あの、ちゃっとヤバいこと起こって」
「還奈さん?大丈夫ですか?」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「大丈夫、じゃ、ない その、えっ、うう」
「えと・・・まず、落ち着きましょう、深呼吸してください」
大越 還奈 (おおえつ かんな)「あう、 ごめん」
「まず、僕から話しますね。 まあ、こっちもいい話ではないんですけど」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
有機物から無機物が出てくる違和感のおぞましさと連続性の恐怖…すごい。身を削って生きていくとはまさにこのことか。作者さんが毎朝缶を吐き出して、中からホラー作品を取り出して、作品を創作している姿を想像してしまいました。
こわ、こわ、怖かったですーー!!😱