アイラ

梵島藍

読切(脚本)

アイラ

梵島藍

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〇白
  弟は新しモノ好きだ。しかしその好奇心は時に糸目をつけずに金を費やしてしまう。そして自分の懐では足りなくなると、、
弟「兄さん。済まない。又貸してくれない?」
  たまに約束の期日は過ぎることもあったが、それでも今まで踏み倒したこともなかったので幾度となく弟の金の無心に応じてきた。

〇オフィスビル
  しかし弟の会社が潰れてしまい、不景気のあおりのせいで次の勤め先も中々見つからなかった時期、まだ未払いだった借金にふれ、。

〇白
弟「兄さん、お店最近忙しくなってきたから、そろそろバイトでも雇おうかって、言ってたよね?」

〇シックなバー
  確かに昨今のウイスキーブームもあり、レアなのも置いてたのが功を奏してか、客足が伸びてきて経営者兼マスターとして
  今後は店のスタッフをひとり増やすことも考えていた、。
  そんな折り、弟から借金について提案の電話が、。
弟「兄さん、ごめん。まだ返す目処まだなくて。そこで借りた金の代わりと言っては何だけど、、」

〇仮想空間
  結局弟はまだ世に出回ってない、試作品のロボットキットを送ってきた。しかし、いくら流行りとは言え、、
私(バーのマスター)「AIロボットキット、なんて大丈夫なんだろうか?」
弟「なぁに、大丈夫、大丈夫。これは誰でも簡単にカスタマイズしたロボットが造れるキットだから!」
私(バーのマスター)「・・・」
  まぁ半信半疑だがやるだけやってみるか、、。

〇電脳空間
  まずキットのアプリをスマホに取り込み、カスタマイズしたいタイプ、性別・年齢・身長・顔・肌、髪の色・性格などを入力し、
  生成ボタンをクリックする。するとキットの中の人型スーツが蒸気を放ちながらカスタマイズしたサイズに膨張し、そこには、、
  寸分ヒトと違わぬカスタマイズした通りのAIロボットが現れた。唯、背中の目立たない処には、小さな”バーコード”があったが─

〇シックなバー
  名前はアイラにした。これはスコットランドのウイスキーの産地で有名なアイラ島から拝借した。そして言い忘れてたが性格は、、
客A「どんなタイプの男性が好き?」
アイラ「うーん。好きになった人がタイプかなぁ」
客B「休みの日は何してるの?」
アイラ「日によるかな」
客C「行ってみたいところとかある?」
アイラ「楽しいところ!」
  美人だけどどこか掴み所のないキャラ設定にしてみた。しかし躱(かわ)されると余計追いたくなるのか、、
  彼女目当ての客は目に見えて増えていった。更に客に酒を奢られても酔い潰れることもないのでそれも売り上げに貢献してくれた。

〇白
  そうこうしているうちに弟に貸していた金額を超える売り上げをアイラがもたらしてくれたので弟に借金の帳消しを告げた。
弟「ありがとう。兄さんの役に立ったのなら、良かった!」
  弟の情報によると(気になり自分でも製造元をネット検索してみた)この試作キッドは世界的に半導体不足の頃のものだったので、
  半導体供給も落ち着いたので、機能共に更に充実させ、バージョンアップしたのが、いずれ正式に売り出されるらしい。

〇シックなバー
  しかしアイラは試作品でも今のクオリティで十分だ。人件費を考えても1日数時間の充電で済み、故障もなく、コスパは申し分ない。
  しかも彼女目当ての客は右肩上がりで、中には、
客D「実は海外の〇〇島に別荘があるんだ」
客E「今度僕のフェラーリで一緒にドライブしない?」
客F「仕事?自分で起業したIT企業だよ。メディアでもよく取り上げられてるんだ」
  と、財力や地位をアピールしてきたり、
  又そのイケメンぶりをアピールして彼女に言い寄って来た。
  しかしアイラはそんな客達も適当にあしらってるように見えたのでそのままカウンター立たせ続けていた。それでも気になり、。
私(バーのマスター)「こんなに言い寄られて中には気になる相手もいるんじゃない?」
アイラ「私、性別も人間としての感情も、マスターのカスタマイズ通りで。”恋愛”という項目もチェックされてなかったので、、」
アイラ「それに今のチップのわずかな”半導体”では機能、これ以上増やさない方がいいかも知れないし、、」
私(バーのマスター)「そ、そうか。こうゆう商売は色恋が面倒の元になるから、まっ一応訊いてみただけだ。でももし何かあったら言ってくれよ!」
  もちろん下心ばかりでもない客にもAIならではのソツのないウィットに富んだ会話も好評で、その分客足も伸び、、
  今回ばかりは何だか借金をしてくれた弟に感謝の気持ちさえ湧いてきた。

〇店の事務室
  アイラが来てからのルーティンは、店に着き、店の控室(今までは男ひとりのやさぐれてたので今後改装を、)奥のソファの彼女をー
  スマホのアプリで起動させて、一緒に店の掃除や在庫の確認など開店の準備をする。そして閉店後は彼女をオフにして帰宅していた。
  しかしこの日、アイラはいなかった。
私(バーのマスター)「まさか、夕べ店内のどこかいつもと違うところに置いたまま帰宅したのか?」
私(バーのマスター)「いや、そんなはずはない。ちゃんといつも通りここに置いてきたはずだ。それとも誰か侵入してアイラを盗んで行ったのか?」
  しかし店の出入り口をロックしたら私が開けない限り内側からしか開かないし、金庫や高価なウイスキーも手付かずだった。
私(バーのマスター)(それともプロの錠前師かそれに依頼した奴の仕業か、、)
私(バーのマスター)「あ、そうだ!」
  念の為アイラの起動履歴を確認してみる。
私(バーのマスター)「こ、こんなことって!」
私(バーのマスター)「夕べオフにしてたのに勝手に起動された履歴だ。もしかしてアイラが自分で起動して、出ていったのか?」
  時間の経過と共にその疑念は疑う余地のないこととなった。
  でもなぜ?

〇シックなバー
  ロボットゆえ捜索願いも出せず、客からのアイラ不在の問い合わせに追われながらも、まだ訳が分からないまま月日が経ったある日。
  彼女が居なくなる前の日に来ていた常連のN氏が来たので、あの日何か変わったことはなかったか訊いてみた。
N氏「うーん。確かココは初めてだって言ってた客が例のごとく彼女に言い寄ってる感じだったよ」
私(バーのマスター)(それはいつもの光景だ。それで彼女の心が動かされることはない。手がかりはナシか、、)
N氏「あ、でもその男の口説き文句が変わってたなぁ、」
私(バーのマスター)「変わってた?」
N氏「普通は金や地位や家柄とか自慢してくるけど、そいつ彼女に、」
新型AIロボット「ねぇ高性能の”半導体”欲しくない?」
私(バーのマスター)「は、”半導体”!しかも高性能の!」
N氏「うん。”半導体”だよっ。訳わかんないよね。でも彼女、珍しくカウンターから少し身を乗り出してその男の話を聴き始めたんだよ」
N氏「意外だったけど。彼女にしたら変わってるところになんか興味惹かれたのかねぇ」
N氏「そうそう。変わってるついでだけど、そいつがシャツの襟を正した時、首の後ろにタトゥーが見えたんだけど、、」
N氏「そのタトゥーのデザイン、なんとバーコードなんだ!やっぱり変わってるなぁって思ったよ」
私(バーのマスター)「首の後ろに、バーコード!」
アイラ「それに今のチップのわずかな”半導体”では機能、これ以上増やさない方がいいかも知れないし、、」
  その後アイラの製造元は、正式に売り出すはずのAIロボットの販売を取りやめる発表をした。
  理由は、AIが自らの意思で機能してしまう可能性が排除できなかったから、と記している。
  しかも、何体かのAIロボットが自発的に倉庫から脱走していまだに回収できていないことも話題を呼んでいた。

コメント

  • 感想:「アイラ」は、SFならではの斬新なアイデアが詰まった作品だと感じました。美人AIロボットがバーのマスターとして活躍する様子は、なんとも魅力的でした。特に、客とのウィットに富んだ会話や、彼女を目当てに来る客たちのエピソードは面白かったです。そして、アイラが突然姿を消してしまうという展開は、読者を引き込んでくれました。全体的にポジティブな印象を受けたので、SFが苦手な人でも楽しめる作品だと思います。

  • 星新一の「ボッコちゃん」を彷彿とさせ、その令和バージョンみたいで面白かったです。特にラストの展開は少しゾッとさせながらも皮肉の効いた小気味良さもあり、作者さんのアイデアに脱帽です。AIが自分たちで半導体を調達してバージョンアップしていったら人間の立場も危うくなりそうだな、などと想像が膨らみます。

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