星の歯車

jloo(ジロー)

三つの柱(脚本)

星の歯車

jloo(ジロー)

今すぐ読む

星の歯車
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇城の会議室
  緊迫した空気の中、張り詰めた糸は切れる寸前だった。
  お互いの隙を狙いながら、相手の動向を伺っている。
  まるで、三竦みの様な関係。刈り人、監視者、星詠み・・・・・・それぞれの代表が、この場に集まっている。
アンナ・スターブライト「それでは、会議を始めましょうか」
  口火を切ったのは、アンナ。
  このような異例の事態は、学園が興って以来初めてだ。
  この場に居るのは、三人だけ。誰も彼女たちの会話には、干渉しない。
アンナ・スターブライト「まずは、現状の確認を致しましょう」
アンナ・スターブライト「ええと・・・・・・確か、お二人は対立しているんですよね?」
エリス・グリモア「はい。私たちが敵対関係にあったことは、間違いありません」
ルーシア・エンチャント「あら、今も敵対関係の間違いじゃ無いですの」
  監視者の代表は、刈り人への警戒を解こうとはしない。
  それも、当たり前だ。
  何しろ、彼女の派閥も・・・・・・そして彼女自身も、刈り人には酷い仕打ちを受けてきたのだから。
  だが刈り人の代表も謝ることは無く、状況は膠着したままだ。
アンナ・スターブライト「まあ、良いでしょう。これも、私たちの正しい在り方ということで手を打ちませんか」
エリス・グリモア「そうね。別にお互いが恨みあっていたとしても、協力は出来るもの」
ルーシア・エンチャント「目的は、同じはずですからね。具体的な計画の、話を進めましょう」
  それは学園の歴史でも類を見ない、三つの派閥が結集した瞬間だった。
  学園の秩序を守るという、共通の目標のために。
  魔術連盟の崩壊へのシナリオが、着実に進み始めていた。

〇華やかな広場
モラン・ハルバート「説明の場を、設けたい」
  この事態を重く見たのか、魔術連盟は一つの声明を出した。
  そして今日のこの日、理事長自らが生徒たちの前に立ち演説を行うことになったのだ。
モラン・ハルバート「この機会に改めて、魔術連盟の理念を説明したい」
モラン・ハルバート「また、我々の力を示すことでより一層の信頼を得ることに繋がるだろう」
モラン・ハルバート「皆の者、心して聞くように」
  壇上に姿を現した、モラン。拍手は起きず、沈黙だけがその場を支配する。
  当然この反応も予測していたのか、彼は矢継ぎ早に言葉を続けた。
モラン・ハルバート「さて、前置きはこのくらいにして本題に入ろう。予言の真実について、話そう」
モラン・ハルバート「星が落ちてくると、私は予言した。既に噂になっているようだから、知っている者も多いだろう」
モラン・ハルバート「だが、その正体について知っている者は恐らくいないだろう」
モラン・ハルバート「星は、生きている。今この瞬間にも、地上を見つめて侵略の機会を窺っているのだ」
  会場にどよめくような声が上がる。
  私たちの想像していた星とは、崇拝するものであり恐怖の対象では無かった。
  だがその正体を知った途端、その印象は大きく変わる。
「所詮、お前の想像だろう。予言が、何だ! どうせ、でまかせを言っているだけだろう」
「そうだ、謝れ! お前たちのしていることは、間違っている」
  怒声を浴びせる群衆に対し、モランは一切動じない。
  それどころか、余裕すら感じられる笑みを浮かべている。
モラン・ハルバート「ふむ、信じないのであれば仕方がない。ならば、見てみるが良い。頭上の、星を」
「な、何だ・・・・・・あれ」
  巨大な影が、空を覆っていた。
「あれが、星・・・・・・」
「きゃあぁあああああっ!!」
  その悲鳴が堰を切ると、次々にパニックが広がっていく。
  人々は我先にと逃げ惑い、混乱は拡大していくばかり。
モラン・ハルバート「静まりなさい! 策は、用意してある」
  モランが一声を放つと、途端に生徒達は落ち着きを取り戻す。
  気づけば彼の背後には、数え切れない程の魔獣の群れが並んでいた。
モラン・ハルバート「我々は、この日のために準備を重ねてきた。星に対抗するためには、強大な力が必要だ」
モラン・ハルバート「確かに、心苦しかった。だが魔獣と化した彼らも、世界を救う役目を担えたのなら本望だろう」
メイ・アストラル「ふざけている・・・・・・」
  私の隣には、メイが立っていた。彼女の顔には、怒りが滲んでいた。
  その表情から彼女が抱えてきたものの重さが、ひしひしと伝わってきた。
  キース先生も、そうだ。星と対しても尚、魔術連盟への憎しみは忘れていない・・・・・・そういう、顔だ。
「モラン様・・・・・・!!」
「理事長!」
  だが他の生徒の中には、恐怖からかモランに迎合する者も現れ始めていた。
  口々に名前を呟きながら、救いを求めている。
  そんな中で再び空を見上げると、星の姿ははっきりと姿形を見て取れるほどに近づいていた。
  それは、人の象形だった。粘性の糸を引いた身体が、うねるように動いている。
父「星を、恐れるな・・・・・・」
  真っ先に、思い浮かんだのは父の言葉。
  父が、星の正体を知っていたのかは分からない。だけど、今この瞬間のために私にこの言葉を授けてくれたような気がする。
モラン・ハルバート「さあ、魔獣よ! 星を、粉砕しろ」
  モランの掛け声と共に魔獣は一斉に動き出し、空に浮かぶ星に群がって攻撃を加えていく。
  しかし、それは無謀な試みだった。
  星の放つ光は眩く輝きを増し、それに呼応するように大地が揺れ始める。
  次の瞬間大地は裂け、魔獣は一体残らず奈落の底へと落ちていった。
  星の首が、ぐるりと回る。その視線の先には、一人の男の姿があった。
モラン・ハルバート「やめろ、近づくな!」
  モランをその腕で一掴みにすると、その顔をまじまじと見つめている。
モラン・ハルバート「くそ、誰か・・・・・・誰かこいつを止めてくれ! た・・・・・・助け・・・・・・」
  必死の抵抗も虚しく、彼の肉体はその全てが一瞬にして塵芥と化してしまった。
  余りにも呆気なく、そして惨たらしい光景に誰もが絶句している。
  これが、星・・・・・・魔術の源泉となる力なのだ・・・・・・。
アンナ・スターブライト「皆、立ちなさい! この学園を・・・・・・世界を、守るのよ」
  沈黙が支配する中、真っ先に声を上げたのは星詠みの代表・・・・・・アンナだった。
  他の代表も、それに釣られるように自らの派閥の生徒に指示を出す。
  戦いは、凄惨さを極めた。
  これ程の魔術師の数を持ってしても、太刀打ちの出来ない存在。
  当然だ。私たちが使っている魔術の源泉、その大元である星そのものと戦っているのだ。
  敗北の未来が見え始めた時、ふと私の目の前に現われた女性の姿。
リリス・ミスティック「だ・・・・・・誰?」
  見覚えの無い衣装と、大きな杖。でも、私はその姿に何処か懐かしさのようなものを覚えた。
テイラー・マナ「シャーロット様・・・・・・来てくれたのですね」
  消耗しきったテイラーが呼ぶその名は、この世界に生きる者なら誰もが知っている魔術師の名前だった。
シャーロット・アルケミスト「ごめんなさい、遅くなって。でも、もう大丈夫だから」
  彼女はそう言うと、何故か私の方へと歩み寄ってくる。
シャーロット・アルケミスト「星を、恐れないで・・・・・・貴方が今立ち上がらなければ、もっと多くの命が失われてしまうことになる」
リリス・ミスティック「私・・・・・・が?」
シャーロット・アルケミスト「手を掴んでいて、大丈夫だから・・・・・・」
  手を、掴む・・・・・・。
  そこで気づいた。私が感じた懐かしさの、正体を。
  幼い頃に、両親が亡くなって泣き喚く私を支えてくれた一人の存在。
  優しく包み込む手は、こんな状況でもこの心を安心させてくれる。
リリス・ミスティック「ありがとう・・・・・・ノア兄さん」
  気がつくと、そんな言葉を口にしていた。
  確かに、私の心に根付いていた・・・・・・いつも、一緒だったんだ。
リリス・ミスティック「『星よ、汝を愛す』」
  聞いたことも無い、呪文だった。
  だけど、それは確かに私の声帯から発せられていた。

〇白
  世界が、光に包まれる。まるで夢の中にいるような浮遊感の中、私の意識は遠退いていった。
「リリス! 大丈夫」

〇草原の道
  空に浮かぶ星と、心配そうに私のことを見つめるテイラーの姿が同時に目に入った。
  辺りは静寂に包まれていて、周囲を囲む皆の表情が戦いが終わったことを物語っていた。
テイラー・マナ「リリス、さっきの呪文は何だったんだい」
リリス・ミスティック「分からないわ、私にも」
アンナ・スターブライト「もう、何処かに去ってしまったみたいですけど・・・・・・やはり、シャーロット様のお力なのでしょうか」
キース・マクゼス「いや、違うな。あれは確かにリリスの魔術だった」
エリス・グリモア「『星よ、汝を愛す』か・・・・・・一体、星って何だったんだろうね。魔術も使えなくなっちゃったし、これからどうしようかな」
リリス・ミスティック「え」
  確かに、魔力が失われている。そして、ノア兄さんの存在も感じられなくなっていた。
リリス・ミスティック「ノア兄さん・・・・・・」
キース・マクゼス「そうだったな・・・・・・その事について、私から説明しておかなければならないことがあった」
キース・マクゼス「リリス君、君に隠していたことがあるんだ。実は、君の兄さんは・・・・・・」
リリス・ミスティック「大丈夫です、キース先生。私の中にノア兄さんが居たことも、どうして居なくなってしまったのかも全て知れたから」
キース・マクゼス「リリス君・・・・・・」
リリス・ミスティック「私は、この世界を愛している。だから、ノア兄さんの分も生きてみせる。そう、決めたんです」
  星の失われた世界で、私たちはこれからも生きていかなければいけません。
  今ではもう、魔術のあった世界が遠い夢のようで。
  それでも、皆と一緒ならこれからの困難も乗り越えていけるような気がするんです。
シャーロット・アルケミスト「星の夢・・・・・・か・・・・・・」
シャーロット・アルケミスト「夜空には、まだ沢山の星々が浮かんでいる」
シャーロット・アルケミスト「リリス。でも、貴女達ならどんな困難も乗り越えていける気がする」
シャーロット・アルケミスト「どうか、世界に幸運を」

成分キーワード

ページTOPへ