夢物語の続き(脚本)
〇流れる血
鏡己人「な、なんだ・・・?!」
やたらと恐怖を煽るような音がする。
しかし、いつもの化け物は出てきていない。
今のは恐らく、ヒトのものだろう。
やつらがまともな言語を習得しているしていることはほぼないからだ。
鏡己人「とはいえ、こんな時間になんなんだ・・・?」
鏡己人「いるなら姿を見せやがれ! 出てこいこの野郎!」
そして、そいつは突如現れた──。
「サイ・・・サイダ・・・イイイ ツ・・・ツナツナ・・・ミノ・・・」
鏡己人「おいおい、マジかよ。 何がどうなっているんだ」
姿は見えない。
声も聞こえないが、字が目の前に浮かび上がってくる。
「ユレハユレユレハ・・・SHIMPAい御座イマセンンン──」
その瞬間、脳震盪を起こしたような揺れが襲ってきた──。
鏡己人「うわああぁあっ──」
コイツは人智の及ばないやつだ。
本能が危険だと警告してくる──
鏡己人「じゃあ、何故ここに現れるんだ・・・? よく考えろ・・・」
確か最初にあった動きは音だった。
そこから、ヤツが現れた。
何となく理解してきた。
ヒトの手が及ばないところまで、手を伸ばしたことへの冒涜みたいなものか──
鏡己人「つまり、今回の相手は俺っちと同じ人間ってわけか」
アわてナイデおちツイテ・・・コUドUヲ──
どこからか、子供の泣き声がする。
怒りが瞬時に沸点へ到達した。
鏡己人「誰がどうとか、そんなのは俺っちに関係ないけどよ。子供泣かせるっていうのはどうも許せねぇぜ」
分かってることだ──。
これではきっとこちら側が悪になる。
だが、そんなものはどうでもよかった。
鏡己人「俺っちは正義の味方じゃねぇからよ。 その文字やら音がなにも救えず、もはや子供を泣かせるだけってんなら俺はヤるぜ──」
斬っても斬っても表れる文字や、鳴り止まない音に渾身の一撃を放つ──。
鏡己人「あばよ。 願わくば本来の意味が全うされる日を心から祈ってるぜ」
後味の悪い雰囲気の口直しに、俺は煙草に火をつけた。
〇ダイニング
鏡己人「ん・・・?ここはダイニング・・・?」
深夜のダイニングから音がする。
それは『深夜』には似合わない、料理をする軽快な音だった。
未亡人「今日はクルルィィィィィムシチュチュチュ────ですよ」
未亡人「あの人も喜んでくれるかしししし?らららら?」
未亡人「早く・・・」
未亡人「座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!」
確かに腹は減っているが、こんなやつの作ったものなんて食べたくない。
そもそもガキじゃねえんだ。一回言えば分かるっていうのに、何回言うんだろうか。
未亡人「座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!座りなさい!!」
あまりの迫力に気圧されてしまい、椅子に座ることにした。
鏡己人「俺っち、腹減ってるけどこんな夜中に食べたらお腹が・・・」
未亡人「残したら── ダメです駄目だめですから、残さないで駄目なの。だめなものは駄目ってダメだからだめ・・・」
出てきたものはどう見てもカレーだろう。しかし煮込まれている以上、何が入っているか分からない。
鏡己人「気持ちだけで十分だよ奥さん。 もうあんたはよくやったよ」
カウンターキッチンの上に置いてあるフォトフレームの中には、親子が笑顔で写っていた。
それはまさに、遺影のようだった──
未亡人「早く・・・」
未亡人「食べなさい!!食べなさい!!食べなさい!!食べなさい!!食べなさい!!食べなさい!!食べなさい!!食べなさい!!」
鏡己人「ずっとここで待ち続けて、キッチンドランカーやってるのか。悲しいねぇ」
急所に狙いを定める。せめて苦しまないように、いつもより丁寧に。
鏡己人「せっかく作ってくれたんだし、食べてみるか・・・?」
いやいや、これは俺のために作ってくれたのではない──と、食べない口実を頭の中で作る。
鏡己人「あの人みたいな一途な女性、身勝手な俺っちにはとても似合わねぇわ・・・」
ご馳走様──
心の中でつぶやき、煙草を咥える。
鏡己人「おっと、ここじゃまずいか・・・」
窓を開け、外のウッドデッキへ移動する。
ポケットからライターを取り出し、火をつけた。