さしすせそな女(脚本)
〇オフィスのフロア
雄太「モテたい」
多香子「え?」
多香子「今、何て言ったんですか? モテたい?」
雄太「聞こえてんじゃん」
多香子「いえ、モテるための努力を何もしてないポンコツが何を言っちゃってるのかなって ちゃんちゃら可笑しくて聞き返しちゃいました」
雄太「ぐっ」
雄太「あー、急にモテないかなー」
多香子「ポンコツが」
雄太「・・・」
多香子「どうしたらモテると思います?」
雄太「そんなの知ってたら今頃モテモテだよ」
多香子「レクチャーしましょうか?」
雄太「え?」
多香子「二千円で」
雄太「金取るのかよ」
多香子「もちろんです 情報に対価を支払うのは常識です」
多香子「逆に無償で教えを請おうという時点でそりゃあモテないわなという感じです」
雄太「すげー言われんじゃん!」
多香子「それにお金を支払うことでより真剣に取り組むようになります」
雄太「・・まぁ、確かに」
渋々と二千円を渡す雄太
雄太「そういや二千円札ってあったね」
多香子「ほとんど沖縄でしか出回ってないらしいですよ」
雄太「へー」
多香子「・・・」
雄太「・・・」
勢いよく手を叩く多香子
多香子「はい 失格」
雄太「え?」
多香子「モテる=イケメンだと思ってませんか?」
多香子「財力も才能もないポンコツがイケメンに対抗するほぼ唯一の手段が、話術です」
雄太「絶対、俺のこと陰でポンコツって呼んでんな」
多香子「何気ない会話にうんちくやユーモアを織り交ぜる魅力的な話術があれば、モテます」
雄太「おぉ」
多香子「以上」
雄太「ん?」
多香子「レクチャー終了です」
雄太「おい! モテるための話術を教えてくれよ!」
多香子「それは別の話です」
雄太「ずりーよ! 二千円返せ!」
多香子「セコい男ももてません」
雄太「くっ」
手を突き出す多香子
多香子「特別にもう少し付き合ってあげます」
渋々とまた二千円を渡す雄太
多香子「二千円札の話題は中々良かったので膨らませてみましょう」
雄太「そうは言っても・・」
多香子「何か二千円札に関する知識はありませんか?」
雄太「うーん・・」
多香子「ほら、何かありません?」
雄太「えっと」
多香子「何かしらあるでしょ?」
雄太「ちょっと待ってよ! 今考えてるんだから!」
勢いよく手を叩く多香子
多香子「会話にタイムはありません スピードが重要です」
雄太「わかってるけど・・」
多香子「言い訳する男もモテません」
雄太「ぐぅ」
雄太「あ! はいはい!」
多香子「どうぞ」
雄太「二千円札って西暦二千年に発行されたんだよね だから三千年には三千円札が発行されるかもね」
多香子「・・・」
雄太「どう、ですか?」
多香子「さすがですね」
雄太「え?」
多香子「知らなかったー すごいです」
雄太「マジ?」
多香子「センス良いですね そうだったんだー」
雄太「いや、そんな褒められると・・」
勢いよく手を叩く多香子
雄太「!?」
多香子「今のが男を褒めるさしすせそ、です」
雄太「さしす、え?」
多香子「さすがー 知らなかったー すごーい センスいー そうだったんだー」
多香子「女性は興味ない話をとりあえず褒めるとき、このさしすせそを使います」
多香子「これを言われたらまだまだだと思って下さい」
多香子「では」
雄太「・・・」
雄太「イケメンに生まれたかった」
余計な描写を省くことで、スムーズな展開が素晴らしいです。タイトルの伏線回収は、短編ながら流石だと思いました。是非今度は『さ行』以外の作品も見てみたいです。
話術やコミュ力って必要ですよね。
面白かったです!
多香子は雄太を好きなのに気づいてもらえなくてドSプレイなのかと思ったらそうでもないのかな?彼女は彼女で男性を嫌な思い人させる「たちつてと」(=大したことない、違う、つまんない、適当に、とんでもない)も覚えた方がいいかもですね。それプラス「ポンコツ」も。