読切(脚本)
〇廃列車
時はXX年、世界は核の炎に包まれた。
あらゆる生物は絶滅した。
しかし、人類はまだ死に絶えてはいなかった。
咲「な〜んて事にならなかっただけましだけどさぁ?」
脳内で某北斗を彷彿とさせるナレーションをした少女は
ボロボロになったガードレールの柱に軽く腰掛け、先程廃屋の瓦礫で切った太ももに手当を施す。
咲「嫌になっちゃうなぁ〜、銃に食糧、その他物資全部重い!こんなの疲れちゃう!」
心底嫌そうな顔で白く透明感のある太ももにガーゼを巻き付ける。
咲「はぁ〜あ、戦争が起きる前の高校生は放課後にショッピングとかしてたって言うのに」
咲「私達は進行してきた敵国の兵と撃ち合いっこかぁ・・・」
おぬこ様「なぁ〜ん」
少女が空を仰ぎながら愚痴を垂らしていると、何処からか猫の声が聞こえてきた。
咲「おやおや、珍しいねぇ」
咲「野良の子だよね?」
咲「かぁわいいなぁ〜!」
ここ最近全く見なくなった猫に、少女のテンションが一気に上がり、先程の疲れた顔が嘘のように笑顔になる。
おぬこ様「なぁ〜ん」
咲「よしよし、いい子いい子」
咲「そうだ!」
無警戒ですり寄ってくる猫に、少女はガードレールの下に生えていた猫じゃらしを摘み取ると、猫の眼前に持ってくる。
咲「猫じゃらしじゃぞ〜?ほれほれほれ〜」
猫の目の前で猫じゃらしを降ると、猫はじっとそれを見つめ初め、右前脚を軽く上げると猫じゃらしにパンチを始めた。
咲「いいねぇ、捕まえてごら〜ん?」
猫の反応に、少女は猫じゃらしを緩急を付けながら猫じゃらしを扱う
その動きに猫は完全にスイッチが入り、おしりをフリフリと持ち上げ、俊敏な動きで獲物を追う。
咲「ざんね〜ん」
咲「あっぶな!」
間一髪猫の一撃を躱すと、更に激しく猫じゃらしを振るう
そうして少女が猫と戯れていると、通信機から通信が入る
「もしもし、咲?」
咲「ん、真白?どうしたの?」
真白「ちょっと物資の補給したいんだけど一人だと不安だから手伝ってくれない?」
咲「え〜、今野生のおぬこ様と戯れてるのに〜」
真白「マジ?ちょっと先にそっち行くわ!」
咲「あっ」
真白「何?!」
咲「逃げちゃった・・・」
真白との通信に夢中になっていると、猫は猫じゃらしを咥えてどこかへ消えてしまうのだった。
咲「しょうがない・・・」
咲「今から合流するから場所教えて?」
真白「いつもの小屋を待ち合わせね」
真白「それにしても」
真白「あ〜あ、うちも見たかったなぁ・・・野良猫」
咲「ついてないねぇ〜真白」
真白「こうなったらとことん付き合って貰うからね」
咲「え〜程々にしてよ〜?」
核戦争程悲惨で過酷でもなく、昔の日本程平和でもないが、これが今の私達の日常
いつか、いい意味でも悪い意味でも失われる大切な日常だ
野良猫との触れ合いですらテンションが上がって笑顔になるちょっとしたイベントだという事実が、彼女たちの日常がいかに殺伐としたものであるかを物語っていますね。「核戦争ほど悲惨ではないが以前の日本のような平和もない」という説明も、リアリティがあるだけに胸に迫るものがありました。
この殺伐とした世界のとある日常の中に、何とも愛らしいおぬこ様が登場して遊ばれなさるとは!この対比、この空気感、イイですねー!
過去の充実していた生活から一変してしまっても、彼女たちはなんとか前を向いて日常を過ごしている様子が少し痛々しくも感じました。猫はどの時代でも癒やしの存在ですね。