第10話 イレギュラー(脚本)
〇古い競技場
キルアの名前が決まって2日後。
杏奈と沙利、キルアは町の
使われていない闘技場に来ていた。
杏奈「ふう、ないものを実物に__つまり、 具現化するのってほんっとに難しいね・・・」
沙利「ええ・・・ でも、魔術もそのようなものの 集まりなのよ?」
沙利「あなたは魔術以上のことをしているから バテてしまうのも仕方ないけど・・・」
沙利「キルアは私くらい魔術ができるように なってるんだから、頑張りましょう?」
そう言って、沙利は魔方陣を集中して
作り出している、キルアの方に目を向ける。
杏奈「だってキルアは〈機械人間〉だし・・・」
キルア「魔力の流れは沙利ちゃんたちと 変わらないんだよ?」
杏奈「ほんとにそれ言ってる!?」
魔方陣を虚空に消し、目を開けて
そう言ってくるキルアに、
驚愕の声をあげる杏奈。
沙利「そうね、〈機械人間〉が優れているのは 魔力ではなく身体能力だもの」
杏奈「た、確かに・・・」
杏奈「もう、分かったよ! 頑張ればいいんでしょ?頑張れば!」
沙利「ええ、そのいきよ、杏奈!」
キルア「うん!アタシも頑張るから、 一緒に成長しよう、杏奈ちゃん!」
杏奈「うん!」
杏奈の機嫌が直ったのを見て、
ほっ、と息をつく二人だった。
〇古い競技場
一時間後。
杏奈「はぁっ、はぁ・・・」
杏奈「もう、限界・・・」
魔力も底をつきそうになり、
地面に突っ伏す杏奈。
沙利「よく頑張ったわね 能力を知ってから約二週間で ここまでやったら上出来よ」
キルア(リティアが沙利ちゃんの修行は スパルタだって言っていた意味が 分かったような気がするな・・・)
そんな二人を見て、
キルアは人知れずそう思う。
杏奈「リティアは隣町の買い物、 もう終わったかな?」
杏奈が沙利に訊ねる。
今リティアは、杏奈たちが
修行をしている間、今日と明日の
朝昼晩のご飯の買い物を
しに行っているのだ。
週に2.3回、当番を交代にして、
買い物に行くのが杏奈たちの流儀だ。
何かあるといけないので、
キルアを一人にすることは
絶対にないように心がけている。
沙利「そうね 町の前まで迎えに行きましょうか」
キルア「うん!隣町の方には行ったことないから 楽しみだなあ・・・」
杏奈「そっか、キルアは大体家に いたりしてたもんね・・・」
キルア「うん! ささ、早く行こ!」
そう言って、杏奈たち三人は、
闘技場を後にした。
〇林道
杏奈「ここ、久しぶりに来るね・・・」
沙利「そうね 杏奈が蜂に襲われた時以来かしら」
杏奈「もう、沙利! それは言わない約束でしょ?」
沙利「あ、そうだったわね・・・ つい、口が滑ってしまって」
杏奈「ならいいけど・・・ キルアは聞いてないみたいだし」
杏奈の言ったように、
キルアは自分の周りに興味津々だ。
キルア「店が立ち並ぶような場所でもないのに なんだか楽しい雰囲気!」
キルア「小鳥たちのさえずりもよく聞こえて・・・」
キルア「ここ、アタシ気に入ったー!!」
杏奈「こんなにはしゃいでくれるなんて」
沙利「そうね あ、誰か来るわよ リティア、かしら?」
奥に人影があるのを見て、沙利が言う。
と__
リティア「みんな、逃げてくれ! とてつもない大きな魔力が、 こちらに迫って来ているのを感じる!」
羽を隠して、よそ行きの服のリティアが、
ダッシュでこちらに向かいながら、
杏奈たちにそう言う。
杏奈「大きな魔力?」
リティア「ああ・・・ 我や沙利でも魔術で戦ったら負けるような、 それくらいの魔力を持っている 相手を感知した」
キルア「・・・じゃあ、アタシが様子を見てくるよ」
リティアの発言に、
キルアがとんでもないことを言う。
杏奈「えっ!? キルアが行かなきゃ いけないことでもないし・・・」
キルア「アタシは沙利ちゃんの二倍の力の 魔術でいくら攻撃されても 耐えきれるくらいの耐性があるんだよ?」
キルア「それに、これはあくまで偵察 戦うことは避けようと思う」
キルア「それに、大きな魔力、その単語で 思い当たる人物がいるから」
キルア「アタシなりのけじめをつけたい」
リティア「・・・分かった だが、相手は得体の知れない者だ くれぐれも気を付けるのだぞ」
キルア「うん、絶対戻ってくるから、心配しないで」
そう言うと、キルアは風のごとく、
リティアが戻ってきた方向に
走って行った。
杏奈「大丈夫、かな 心配しないで、とは言ってたけど・・・」
リティア「ああ、あやつならきっと大丈夫だ」
杏奈「うん・・・ そう思うよね、沙利も__」
と、そこで杏奈は、あることに気づく。
杏奈「え・・・? 沙利は? あの子はどこに行ったの?」
リティア「なっ・・・!?」
辺りを見回すが、沙利の姿はどこにもない。
リティア「くっ、我らが話している間に、 キルアが追いかけて行った奴に 捕らえられた可能性が高いな・・・」
杏奈「それって・・・ キルアを無効にされるんじゃ・・・?」
リティア「いや、キルアは防御力に長けている 手も足も出せなくなるのは我とそなただ」
杏奈「そっか・・・! じゃあ、キルアが向こうに行ったのは 相手にとってはイレギュラー・・・?」
リティア「かもしれぬ・・・ 今は、その可能性を信じて見守るしか__」
と。
杏奈「うわぁぁぁぁ!?!?」
森から急に出てきた丸太が杏奈に当たり、
隣町の方角に飛ばされていく。
リティア「杏奈っ!!」
リティア「・・・〈勢い軽減〉!!」
だが、リティアが即座に魔術を使い、
二人が離れることは免れた。
リティア「大丈夫か、杏奈」
杏奈「ふうっ・・・ うん・・・」
杏奈「な、なんだったの? 急に丸太が・・・」
リティア「おそらく、沙利を連れ去った__ 隣町で感知した莫大な魔力を持つ者だろう」
杏奈「も、もしかして、あたしまで連れ去って、 リティアを1人にしようとしてたの・・・?」
リティア「ふむ、まあそうなるわけだが・・・」
リティア(我がヴァンパイアであることを知る者は 杏奈たち以外に この辺りにはいないはずだ・・・)
リティア(外に出るときは大体この姿だし、 魔力も感知されるような 真似はしていない・・・)
リティア「もしや、これを仕掛けているのは ”奴”なのか!?」
杏奈「り、リティア? どうしたの?急に叫んで」
思考を巡らして、
声に出してしまったリティアに
杏奈が心配そうに声をかける。
リティア「なんでも__」
リティア(いや、これは言わなかったらそれはそれで 杏奈たちに迷惑がかかってしまうな・・・)
リティアは、そう覚悟を決め__
リティア「さっきの、我とそなたを分散しようとした 行動でピンと来たのだが、」
リティア「我らをバラバラにしたのは、 3日前の夜、告白した 相手かもしれない・・・」
杏奈「えぇ!? だから、一緒にいるあたしも 違うところに連れて行って 二人きりにしようとしてた・・・?」
リティア「ああ__」
???「そう言うこと!小さい少女」
リティアが言い終わるより先に、
隣町の方から歩いてきた誰かが
杏奈にそう言った。
リティア「くっ、やはりお前は・・・!」
リティア「精霊の森に住んでいるエルフ、ライナ!!」
その少女に対して、リティアが叫ぶ。
杏奈「エルフ!? それに、精霊の森って 精霊しか住めないはずじゃ?」
杏奈が予想通りの質問をする。
ライナ「うん 僕は血がかなり濃い方のエルフだからね 精霊に近いから住める、 と言ったら分かるかな?」
エルフとは、精霊の血が薄まった者のこと。
その家系の500年前の先祖が
真の精霊だったとしても、
その500年の間に人間の血が
ひとつでも混じっていれば、
500年後の子孫の種族はエルフと呼ばれる。
人間の血が入っていない家系、
というのは本当に珍しい。
だから、彼女のような、
エルフでも人間の血が少なければ
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