殺し屋一家は殺さない

餅-mochi-

殺さない殺し屋(脚本)

殺し屋一家は殺さない

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〇応接室
  帳(とばり)一家──
依頼者「金ならいくらでも出す! だからあの女を殺してくれ!」
帳 重樹「なるほどな・・・」
  千年以上前、国家を“適切に運営”するために生まれた、殺し屋一族──
依頼者「あいつが苦しむなら殺し方はなんでもいい!」
帳 野子「そう・・・ ただその前に」
  彼らは現代にも存在し・・・
帳 野子「このデータを見て頂戴」
帳 野子「個人的怨恨で殺しを依頼した人が、 その後どんな感情になったかのグラフよ」
依頼者「・・・は?」
帳 重樹「虚しさ62% 後悔30% 喪失感7% 一方、達成感は1%にも満たない」
帳 重樹「復讐による殺人が幸福を もたらさないと裏付けるデータだな」
依頼者「え?え?」
帳 野子「そして・・・」
帳 野子「これはアメリカの大学が出した 確かなエビデンスに基づくデータだけど」
帳 野子「恨んでいる人を殺すよりも旅行の方が 8.5倍のリフレッシュ効果があるそうよ」
帳 重樹「決して安くはない依頼料、 全て気分転換のために使えば」
帳 重樹「どれほどの気分転換が望めるかは、 少し考えればわかるな?」
依頼者「お、おお・・・」
帳 重樹「それでも財産を投げ打って依頼するか?」
依頼者「・・・なんか自分が間違ってるような気がしてきた」
依頼者「一度考えさせてくれ」
帳 野子「もちろん ゆっくり考えると良いわ」
  現代の帳一家は、
  殺しのスキルが完全に衰え・・・
  依頼者の殺意をなくすことに専念していた!
帳 野子「楽勝だったわね」
帳 重樹「どうだ澪、勉強になったか?」
帳 澪「いやなるかよ」
帳 野子「何?ちゃんと見てたの!? 初めて立ち合わせたのに!」
帳 澪「いやもっとヒリヒリする会話が 聞けると思ってたの!」
帳 澪「なに? あのキモいデータで押し切るプレゼン!」
帳 重樹「おいなんてこと言うんだ」
帳 重樹「あれは、徐々に殺しの需要もスキルも 減少してきた先代が集めた」
帳 重樹「超貴重なデータで・・・」
帳 澪「だから!」
帳 澪「なんで需要もスキルも減ってるのに 殺し屋続けるんだよ!」
帳 澪「普通に働け!」
帳 野子「澪、 あなたにはわからないかもしれないけどね」
帳 野子「お母さんたちはいつか、 殺しの需要が戻る日が来るって思ってるの」
帳 重樹「その時にウチがいなかったら大混乱だぞ」
帳 重樹「その未来が来ないために続けてるんだよ」
帳 澪「なんだその、」
帳 澪「いつかヒゲが流行るかもしれないから 脱毛しない、みたいな理屈」
帳 重樹「とにかく、お前もいつか継ぐんだから」
帳 重樹「お父さんとお母さんの仕事ぶりを見て、 技術を磨いておくんだぞ・・・」
帳 野子「あら!もうこんな時間!」
帳 野子「お父さん! 3時間後の依頼人のプレゼン考えないと!」
帳 重樹「ああそうだったな!」
帳 澪「・・・」
帳 澪「俺、これ継ぐの・・・?」
帳 澪「てかこれ仕事?」
  3時間後──
帳 重樹「つまり、ライバル企業の従業員を殺せと・・・」
東川「彼さえいなくなれば、 雛川薬品は研究をストップせざるを得ない」
帳 澪「・・・」
東川「つまり、我が社が権利を独占できる・・・」
帳 野子「ずいぶん正直に言うのね?」
東川「隠したってしょうがないわ」
東川「それにあなたたちも 仕事がしやすいでしょ?」
帳 重樹「なるほど・・・」
帳 重樹「だがこのデータを見てくれ」
帳 重樹「1993年の調査によると ライバル企業の要人を暗殺すると・・・」
東川「あ、結構よ」
帳 重樹「え?」
帳 澪「止められた!?」
東川「あなたたちが依頼の決定まで 慎重に運んでくれるのは知っているわ」
東川「本当に殺す必要があるのか、 こちらに考え直す機会をくれてるんでしょ?」
帳 澪「すごい良いように捉えてくれてる・・・」
帳 野子「え、ええ 選択を誤って欲しくはないから」
帳 重樹「我々も殺人狂ではないからな 人が死なないに越したことはない」
帳 澪「乗っかるなよ、ご厚意に」
東川「でも問題ないわ これは役員たちが検討を重ねた末の総意」
東川「私はただの伝達役だから」
帳 野子「・・・」
東川「それに」
帳 澪「え!」
東川「こちらの用意は済んでいるわ あなたたちはただ、実行すれば良いだけ」
帳 重樹「ふむ・・・ 議論の余地はないようだな」
東川「話が早くて助かるわ」
帳 野子「交渉成立ね」
帳 澪「えええ!どうすんの!?」
帳 澪「依頼受けちゃったよ!?」
東川「頼んだわよ」
帳 重樹「心配はいらない ただ、やり方はこちらに任せてもらう」
帳 野子「あと、結果に関わらず返金はしないわ まあ失敗なんてあり得ないけど」
東川「問題ないわ それじゃ」
  ガチャ
帳 重樹「じゃあスケジュ・・・」
帳 澪「受けちゃってるじゃん!」
帳 重樹「何慌ててるんだ 受けることもあるだろう」
帳 野子「あれだけ用意されてたらね」
帳 澪「マジで!? じゃあ、本当に・・・」
帳 澪「殺すってことだよな・・・?」
帳 重樹「ちょうどいい」
帳 重樹「澪、今回の現場についてくると良い 俺たちの仕事を見せてあげよう」
帳 野子「じゃ、私は標的の身辺調査を始めるわね 久しぶりに忙しくなるわ・・・」
帳 重樹「俺も鍛えておかないとな・・・」
帳 澪「おい嘘だろ・・・」
帳 澪「父さんも母さんも 本当に殺し屋だったのかよ!」
帳 澪「でも・・・」
帳 澪「これ受け取ってるし・・・ 本気なんだよな・・・」

〇応接室
  2週間後──
帳 重樹「準備はできたな」
帳 野子「ええ」
帳 澪「あれから色々考えた」
帳 澪「いくら殺し屋でも、本当に殺した時に 俺は彼らを受け入れられるだろうか・・・」
帳 重樹「よし時間だ!いくぞ!」

〇ゆるやかな坂道

〇公園のベンチ
帳 重樹「あれがターゲットの曽田一郎だな・・・」
帳 野子「間違いないわ」
帳 野子「彼は必ずこの路地を通る そしてこの時間、人通りはない」
帳 澪「・・・」
帳 重樹「行くか」
帳 野子「あなたはここで見てなさい」
帳 澪「あ、ああ・・・」

〇ゆるやかな坂道
曽田 一郎「・・・」
  ザザッ──
曽田 一郎「!!!!」
帳 重樹「・・・」
曽田 一郎「な、なんだあんたたちは!」
帳 野子「・・・」
帳 重樹「突然すいませ〜ん!」
帳 野子「雛川薬品の曽田博士ですよね〜?」
曽田 一郎「そ、それがなんだ・・・」
帳 重樹「あ!申し遅れました! 私たちこういうものです〜」
曽田 一郎「え?」
曽田 一郎「井の頭製薬って・・・あの?」
帳 野子「ええ!再生医療研究の!」
帳 重樹「ちょっと曽田さんに秘密の話があって・・・」
帳 野子「こんな場所ですみませんね〜」

〇公園のベンチ
帳 澪「え?どういうこと? 何で別人のフリ?」

〇ゆるやかな坂道
曽田 一郎「あ、ああ 井の頭さんのとこの方が私に何か?」
帳 重樹「いや私たち、 難病の治療法研究してるじゃないですか?」
曽田 一郎「ええ 素晴らしい功績を上げていますね」
帳 野子「しかしあと一歩のところで 研究が難航してまして・・・」
帳 重樹「率直に言います」
帳 重樹「曽田博士、 我が社で研究をしてくれませんか?」
曽田 一郎「え!?」

〇公園のベンチ
帳 澪「は?何の話!?」

〇ゆるやかな坂道
帳 野子「博士が雛川で 重要な役職にいるのは知っています・・・」
帳 野子「だけど、我が社の方が手腕を発揮できる!」
曽田 一郎「そんな突然・・・」
帳 重樹「もちろん、報酬も今より多くお出しします 何よりウチの研究者は皆・・・」
帳 重樹「人類の未来のために働いている──」
曽田 一郎「!!?」
帳 重樹「雛川薬品も素晴らしい会社です しかし、良いところだけではないですよね?」
曽田 一郎「そ、それは・・・」
帳 野子「老舗ゆえのしがらみ、 研究よりも利益優先の体制、なにより・・・」
帳 野子「ライバル企業との軋轢」
曽田 一郎「ぐっ!」
曽田 一郎「・・・」
曽田 一郎「すべて知っているようですね」
帳 重樹「あなたが抱えている思い、 我々なら全て解決できますよ」
曽田 一郎「そうですか・・・ 確かに我が社には問題が多い」
曽田 一郎「特にライバル企業・星製薬との軋轢では 身の危険すら感じることもありました」
帳 野子「お辛かったですよね・・・」
曽田 一郎「・・・わかりました」
曽田 一郎「その話、お受けします!」
帳 重樹「ありがとうございます!」
帳 野子「では詳しい話は後日、本社で・・・」

〇公園のベンチ
帳 澪「こ、殺すんじゃないの!?」
帳 澪「あ、帰した」

〇ゆるやかな坂道
帳 重樹「上手くいったな・・・」
帳 野子「当然よ」
帳 澪「ちょっと!」
帳 重樹「おお澪、見てたか?」
帳 澪「いやわかんないんだけど! 殺しは!?」
帳 重樹「は?」
帳 野子「何言ってるの? 私たちにそんな技術ないわよ」
帳 澪「でででもじゃあ!」
帳 澪「ヤバいでしょ! 勝手に関係ない会社の名前使って!」
帳 重樹「ははは!安心しろ」
帳 重樹「井の頭製薬も 是非曽田博士を受け入れたいと言ってる」
帳 野子「私たちが勝手に言ってたら 何にもならないわよ」
帳 重樹「じゃ、これで依頼完了だな」
帳 澪「つ、つまり・・・?」
帳 重樹「ああ、俺たちの仕事はな」
帳 重樹「依頼をいかに殺さずに解決するか。 それだけだ」
帳 野子「これで、 星製薬からはライバルがいなくなって、 博士も良い環境で働ける」
帳 野子「全部解決ね」
帳 澪「よ、よかった〜 俺、マジで人殺すのかと思った・・・」
帳 澪「あ!でもあっちは大丈夫なの!?」
帳 澪「金返せとか言ってこない?」
帳 重樹「問題は解決してるからな 今まで俺らはノークレームだ」
帳 重樹「そんなことより、 お前もこれをやれるようになるんだぞ」
帳 澪「え!?」
帳 野子「当たり前でしょう? 何のために現場見せたと思ってるの?」
帳 澪「ま、マジかよ・・・」
帳 重樹「じゃあ帰ったら、今回俺たちが 裏で何してたか教えてやるか!」
帳 野子「ほとんどここだからね 私たちの仕事は」
帳 澪「わ、わかったよ・・・」
帳 澪「まあこの仕事なら・・・」
帳 澪「やってもいいか・・・」
  こうして俺は・・・
  殺さない殺し屋一家の後継ぎとして
  働き始めることになった・・・

コメント

  • いかにして人を殺さずに依頼者の望みを満たすか。口で言うのは簡単だけど、根回しと準備に相当なスキルと時間を要しますよね。澪にはぜひともこの家業の跡取りになってもらって、立派な「殺さない殺し屋」になってほしいものです。

  • 一般的に想像する殺し屋というイメージから、とてつもなく程遠いタイプの仕事をされているこのご夫婦のファンになってしまいそうです。世直し屋と名前を変えてほしいです!

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