崩壊した家族とその再生の軌跡

yoyoyo

エピソード1(脚本)

崩壊した家族とその再生の軌跡

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〇アパートのダイニング
  俺こと、本庄遊馬の家族は崩壊している
  現在、母親と自分と、二人の妹の四人暮らし。だが、俺以外の三人には問題がある
  いや、もしかしたら、自分自身にも問題があるのかもしれない
  自分のことも分からないほどに、我が家は壊れていると思う
本庄 果歩「兄。おはよう」
本庄 遊馬「おはよう、果歩」
本庄 果歩「お腹空いた。ご飯ちょうだい」
  妹の果歩――彼女は所謂引きこもりである。学校に行けなくなってから、すでに半年ほどの月日が流れていた
  学校をさぼっているわけではない。行けなくなっただけの理由があるのだ。だから家族は誰も果歩を責めない
  無理に学校に行かせるような真似はしないのだ
本庄 遊馬「用意はしてるから、後は自分で洗ってくれよ」
本庄 果歩「分かってる。いただきます」
本庄 有紀菜「・・・・・・」
本庄 遊馬「おい有紀菜。朝帰りなんかして、何考えてんだ」
本庄 有紀菜「・・・・・・」
本庄 遊馬「おい!」
本庄 有紀菜「うっせーな! てめえに関係ねえだろ!」
本庄 遊馬「か、関係あるに決まってるだろ! 俺はお前の兄妹で──」
本庄 有紀菜「兄妹で変態のシスコンってか? いちいち鬱陶しいんだよ、私に関与すんな!」
  もう一人の妹、有紀菜。有紀菜は学校にも行かず、今も朝帰りのようだ
本庄 有紀菜「ちっ」
本庄 遊馬「あ、ちょっと待て・・・」
本庄 遊馬「くそっ・・・どうすればいいんだ」
  以前は真面目だったはずなのに
  いつしかあんな風になってしまった
  いつしか――なんて言ってはいるが
  理由は全て分かっている・・・
  そう
  全部、あいつの所為だ──
  ――クソ親父の所為だ
本庄 佳代子「あれー? 有紀菜いなかった?」
本庄 遊馬「母さん・・・・・・有紀菜は朝帰りして、すぐに出ていったよ」
本庄 佳代子「そう。ま、そのうち帰ってくるでしょ」
本庄 遊馬「っ――帰ってくるって、母さんがそんなだから」
本庄 佳代子「あーあー、うるさい。静かにして。黙ってて」
  酒臭い・・・
  朝っぱらからまた飲んでるのか・・・
  母親は酒に溺れ、年がら年中酒浸り
  最近はシラフな状態など見たことない
  医者にかかれば、確実に依存症と診断されるであろう
本庄 遊馬「・・・・・・」
  引きこもりの妹にグレた妹
  それから、アルコール依存症の母親
  我が家は完全に狂っている
  狂って、壊れて、ただ血の繋がりだけがあるだけで
  家族として機能していない状態にある
  誰も支え合わない。誰も助け合わない
  家族の形をした、偽物の家族だ

〇教室
  我が家がどれだけ壊れていようと、日常は続いていく
「本庄、お前、学費を納めていないみたいじゃないか」
本庄 遊馬「あ、すいません・・・来週には振り込みます」
「頼むぞ。親御さんにしっかりするよう伝えておいてくれ。お前のところは毎回じゃないか」
  学費をまともに払う金なんてない
  うちには金が無いから

〇テーブル席
本庄 遊馬「ありがとうございましたー!」
  金が無ければ金を稼ぐしかない
  受験のシーズンは近いのだけれど、俺には関係のない話だ
  大学に行く余裕なんて、一切ないのだから
本庄 遊馬「いらっしゃいませー!」
  くそっ・・・
  くそっ・・・
  なんで・・・
  胸のうちを黒い感情が支配する
本庄 遊馬「いらしゃいませー・・・」
本庄 遊馬「って、紅葉じゃないか」
笹日紫喜 杠葉「なによー、折角幼馴染が来てあげたのに、嬉しくないの?」
本庄 遊馬「ははは、嬉しいよ。ありがとう」
  彼女は笹日紫喜紅葉
  小さな頃からの友人、幼馴染だ
笹日紫喜 杠葉「・・・・・・」
  幼馴染である紅葉は、俺の家のことは全部知っている
  だから何も聞かない
  だから気軽に付き合うことができる
笹日紫喜 杠葉「ねえ、今日は何時に終わるの?」
本庄 遊馬「夜の十時までだよ」
笹日紫喜 杠葉「今日も法律ギリギリまで働いてるんだ」
本庄 遊馬「ギリギリまで働かないと、ギリギリだからね・・・」
笹日紫喜 杠葉「ギリギリ・・・そうだよね」
本庄 遊馬「・・・・・・」
  悲しそうに笑う紅葉
  彼女は俺の全てを知っている
  だから何も聞かない
  だから何も言わない
  必要以上に踏み込もうとはしてこない
  それがありがたい
  そして──
  腹立たしくも思えてしまう

〇ビルの裏
本庄 遊馬「お疲れ様でした!」
「おう! また明日頼むな!」
本庄 遊馬「はい!」
笹日紫喜 杠葉「なんだか嬉しそうだね、遊馬くん」
本庄 遊馬「ああ、今日はバイト代が入ったんだ」
本庄 遊馬「ようやく果歩にまともな食事を食べさせてやれるし」
本庄 遊馬「学費を払うこともできる」
  大した額の金額ではないが
  確かな安堵感が胸を駆け抜ける
笹日紫喜 杠葉「そっか・・・」
笹日紫喜 杠葉「・・・・・・」
笹日紫喜 杠葉「あのさ、遊馬くん」
「おい」
本庄 遊馬「え?」
「そうだよ、お前だよお前」
  俺たちの前に、見知らぬ男が現れた
  ガラの悪い、不良らしき男だ
本庄 遊馬「な、何か用ですか?」
「用があるっていうか・・・・・・頼みがあるんだけど」
本庄 遊馬「頼み・・・?」
笹日紫喜 杠葉「遊馬くん、行こ」
本庄 遊馬「あ、ああ」
  話しかけてきた男性の不穏な空気。それを読んだ俺たちは、その場を逃げ出そうとした
  だが
  男には仲間がおり、気が付けば俺たちは数人の男たちに取り囲まれてしまっていた
笹日紫喜 杠葉「え、あ・・・」
  俺は咄嗟に、紅葉の前に立つ
本庄 遊馬「な、何が目的ですか?」
「だから言っただろ? ちょっと頼みがあるって」
本庄 遊馬「どんな頼みですか?」
「金、貸してくんね?」
  全身の血の気が引く
  金――こいつらは金を要求しようとしている
  金の無い俺に
  ギリギリの生活を送っている俺に、そんな余裕なんてあるはずがない
  そもそもこれは、カツアゲだ
  犯罪だ
  震える足、カラカラになる喉
  しかし俺は勇気を振り絞って、拒絶の言葉を吐き出すことにした
本庄 遊馬「無理です! 俺、貧乏で・・・金なんてありません!」
「あっそ。じゃあ金はいらないから・・・」
「そっちの女の子、くれよ」
笹日紫喜 杠葉「ひっ?」
本庄 遊馬「か、金は大事だけど・・・」
本庄 遊馬「それも断ります!」
「だったらーー痛い目に遭ってもらおうかな」
「悪いのはお前だぜ? こっちの提案、全部嫌々言うんだからよ」
  男たちの嘲笑
  俺は紅葉を守り、男たちに好き勝手殴られ続けていた
  だがその時、俺のカバンを漁っていた男が、中から給料袋を取り出す
「おいおい、金あるじゃん。なんで早く言ってくれないんだよ」
「勘違いして暴力なんて振るっちゃったじゃないか」
本庄 遊馬「か、返してくれ・・・」
「・・・・・・」
「これで勘弁してやる」
「女にも手を出さねえから感謝しろ――よっ!」
本庄 遊馬「ガッ!」
笹日紫喜 杠葉「遊馬くん! 遊馬くん!」
  僅か数分のことぐらいだと思うが、俺は気を失っていたようだ
  意識が覚醒すると、涙を浮かべ叫ぶ紅葉の姿が目に映る
笹日紫喜 杠葉「遊馬くん! 良かった・・・・・・もう目を覚まさないと思ったんだよ」
本庄 遊馬「・・・・・・」
本庄 遊馬「うるさい」
笹日紫喜 杠葉「・・・え?」
  腹の底から溢れ出す
  言葉に言い表すことができない感情
本庄 遊馬「うるさいって言ってるんだよ!」
  止まらない
  感情を止められない
本庄 遊馬「お前に心配されても嬉しくないんだよ! 俺のこと分かってるなら、もう放っておいてくれ!」
本庄 遊馬「なんで・・・」
本庄 遊馬「なんで俺ばかりこんな目に・・・」
  涙が止まらない
  壊れた水道のように、自分の感情も涙も止める術がない
笹日紫喜 杠葉「遊馬くん・・・」
本庄 遊馬「家がメチャクチャで、貧乏で、不幸で・・・」
本庄 遊馬「その上なんで金を取られないといけないんだよ!」
本庄 遊馬「どうやってこれから生活すればいいんだよ!」
本庄 遊馬「あああ・・・・・・」
  感情を爆発させ、同国する俺
  夜空に俺の泣き声が吸い込まれていく
鹿児咲 清美「ひっく・・・」
鹿児咲 清美「泣き声が聞こえたと思ったが・・・」
鹿児咲 清美「まさか男だったとはな」
本庄 遊馬「・・・・・・」
  酔っ払いの坊主
  胡散臭い印象しかない最悪の出逢い
  だが、この鹿児咲清美との出会いが──
  俺と、俺たち家族の再生の始まりだとは
  この時の俺は、知る由もなかった
鹿児咲 清美「少年、悩み事なら聞いてやるぞ」
鹿児咲 清美「どうだい? ん?」

コメント

  • 遊馬が不憫すぎて心が傷みました。
    家族があんな感じだったら一番まともな遊馬に
    しわよせが全部行ってしまうからとてつもないストレスですよね。
    そのうえバイト代を奪われるなんて辛すぎます。
    早く報われますように。続きが気になります。

  • 昨今はヤングケアラーの問題などが取り沙汰されることが増えました。恵まれない家庭環境で救われない日々を送る中高生は想像以上に存在するのかもしれません。とにもかくにも、鹿児咲との出会いによって本庄家に一筋の光明が差し込むようで良かったです。

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