処刑の前日(脚本)
〇牢獄
レイ=レビュラ「おーい!看守!」
レイ=レビュラ「最後の晩餐だってのに、酒も無いのか!?」
目の前には豆のスープが一皿あるだけ。
レイ=レビュラ「せめて死ぬ前の日ぐらい、豪勢なメシを食べたいもんだ・・・」
レイ=レビュラ「チキンの丸焼きとかな!」
廊下に向かって叫ぶが、自分の声がこだまするだけ。
レイ=レビュラ「クソッ・・・」
いつも同じスープ。
この緑色の豆を煮た赤いスープはお世辞にも美味しいとは言えない。
レイ=レビュラ「やっぱりマズいな・・・」
コツコツ・・・
廊下から誰かが歩いてくる足音が聞こえてくる。
レイ=レビュラ「お?看守いるんじゃねーか」
足音は檻の前でピタリと止まった。
レイ=レビュラ「あれ?あんた、いつもの看守じゃないな」
ワン=ジャオ「はじめまして ワタシ、ワン=ジャオと申します」
ワン=ジャオ「明日、アナタの処刑を担当する者です」
レイ=レビュラ「処刑? アンタが俺を殺すってことか?」
ワン=ジャオ「はい、そうなりますね。 明日はよろしくお願いします」
何なんだコイツ・・・
レイ=レビュラ「処刑人が何の用だ?」
ワン=ジャオ「ご挨拶に参りました」
レイ=レビュラ「ご挨拶? そんなもんされても俺は明日には殺されるんだろ?」
レイ=レビュラ「アンタに!」
ワン=ジャオ「ええ、ですのでご挨拶に伺いました」
ワン=ジャオ「ワタシは長年この仕事を務めてまいりましたが、」
ワン=ジャオ「今まで一度も処刑した人間の名前を忘れたことがありません」
ワン=ジャオ「アナタのお名前は?」
レイ=レビュラ「・・・レイ、だ。 レイ=レビュラ」
ワン=ジャオ「レイさん! よろしくお願いします」
なに嬉しそうにしてんだ、変なやつ。
ワン=ジャオ「レイさんは、何故死刑に?」
レイ=レビュラ「アンタ、なにも知らないのか?」
ワン=ジャオ「ええ、すみません」
ワン=ジャオ「この仕事をするとき以外、ここには来ないもので」
妙な処刑人もいるもんだな。
レイ=レビュラ「じゃあ、知らない方がいい」
ワン=ジャオ「何故ですか?」
レイ=レビュラ「だいたい分かるだろ 死刑囚にろくなやつはいないさ」
ワン=ジャオ「ワタシ、好きなんですよ、 おしゃべりが!」
ワン=ジャオ「ぜひともお聞かせ願いたい!」
処刑人は目を輝かせながら聞いてきた。
レイ=レビュラ「おかしなヤツだな」
レイ=レビュラ「まあ、いいか。 どうせ明日まで暇だしな」
〇荒廃した街
レイ=レビュラ「クソッ、なんで!」
その日、俺は西国の歩兵として前線に駆り出されていた。
レイ=レビュラ「衛生兵! 早くコイツを治してくれ!」
その日の戦いは勝利と言えた。
敵の拠点を陥落させたからだ。でも、
レイ=レビュラ「まるで地獄じゃねーか・・・」
レイ=レビュラ「チクショー・・・ 早くウチに帰りてぇよ」
奪った拠点には死体の山。
敵か味方かも判別できないほどだった。
「へへへ・・・ コイツは上ものだぜ!」
「殺したあとの一発はサイコーだな〜」
レイ=レビュラ(・・・なんだ?)
半壊状態の家屋から、怪しげな会話が聞こえてきた。
ゆっくりと近づくと、
そこには残酷な光景が広がっていた。
レイ=レビュラ「お、おい、テメェら! なんてことを!!」
兵士1「はぁ?」
兵士2「誰だ、テメェは」
レイ=レビュラ「なんてことしてんだ! 民間人に手を出したのか!」
生首が一つ、足元に転がっていた。
切り口からは鮮血が溢れ出ていた。
兵士1「おいおい、戦争中だよ〜、今は」
兵士1「死体が増えたって誰も気にしやしないさ〜」
兵士2「民間人でも敵国の人間だ」
兵士2「俺たちの祖先も同じことをされてたんだぞ」
兵士1「そうだよ〜?」
兵士1「そうだ! お前もやってみろ!」
兵士1「スカッとするぞ〜」
男は自身の持っていた剣を俺に渡してきた。
刃には、まだ暖かい血がべったりと付着していた。
兵士2「おら、コイツでやってみろよ!」
もう1人の男が部屋の奥から女性を引っ張り出してきた。
女性の目はうつろで、抵抗する素振りもなかった。
顔の傷、青いあざ、はだけた服。
一目で何をされていたかわかった。
兵士1「ほら〜、やっちゃいなよ!」
兵士2「コイツには十分楽しませてもらったからな〜」
ケタケタと笑う男たち。
そして、女性のうつろな目が訴えかける。
俺は剣を握る手に、血が滲むほど力を込めた。
〇牢獄
ワン=ジャオ「それで、どうしたのですか?」
レイ=レビュラ「それからは正直あまり覚えてねぇ」
レイ=レビュラ「でも、感謝されたのは覚えてる」
レイ=レビュラ「東国の言葉は分からねぇが、何度も頭を下げてたよ」
ワン=ジャオ「では、民間人を解放したのがアナタの罪ですか?」
レイ=レビュラ「ああ、それと・・・」
ワン=ジャオ「味方殺し・・・ですか」
レイ=レビュラ「そうだ」
レイ=レビュラ「きっと東国だったら英雄みたいに扱われるだろうな!」
レイ=レビュラ「ハハハ!」
ワン=ジャオ「英雄ですか・・・」
ワン=ジャオ「戦争に英雄なんているんですかね?」
レイ=レビュラ「うーん」
レイ=レビュラ「たしかに、 英雄なんていねぇのかもな」
レイ=レビュラ「いるのは人殺しだけだ」
レイ=レビュラ「でも、俺は自分のしたことを、間違ってたなんて思わねぇ」
レイ=レビュラ「だから明日は、よろしく頼むよ」
ワン=ジャオ「ハハハハ!」
ワン=ジャオ「面白いお方だ!」
ワン=ジャオ「これから自分を殺そうとする人間によろしくだなんて!」
ワン=ジャオ「この国は惜しい人間を失くすことになるな!」
レイ=レビュラ「ああ、まさしくその通り!」
レイ=レビュラ「死ぬ前に酒の一つでも呑みたかったけど、アンタと会話できてよかったよ」
レイ=レビュラ「わざわざ前日に顔合わせなんて、おかしなヤツだと思ったが、」
レイ=レビュラ「おかげでちょっと気が楽になった」
ワン=ジャオ「アナタは殺すには惜しい。 惜しすぎる!」
ワン=ジャオ「だから・・・」
ドゴン!!
レイ=レビュラ「え?」
ワン=ジャオ「さっさと出ますよ、ここから」
処刑人は拳一つで、独房の檻を凹ませた。
レイ=レビュラ「ちょ、ちょっと待て!」
ワン=ジャオ「ワタシもアナタと話ができてよかった!」
ドゴン!!ドガン!!
ワン=ジャオ「アナタはたしかに人を殺した」
ワン=ジャオ「だが・・・」
ついに2人を隔てる檻が崩れ去った。
ワン=ジャオ「アナタは彼らにとっての英雄です」
レイ=レビュラ「え・・・?」
ワン=ジャオ「悪いのは人ではなく、戦争そのものだ」
ワン=ジャオ「ワタシと一緒にこの戦争を止めてくれないか?」
レイ=レビュラ「・・・アンタは一体?」
ワン=ジャオ「ただの人殺しですよ」
ワン=ジャオ「英雄なんてほど遠い」
ワン=ジャオ「でも、平和を求めてる」
ワン=ジャオ「共に立ち上がりましょう!」
ジャオは右手を差し出してきた。
俺はその手を取り、立ち上がった。
処刑の前日、死刑囚が1人、姿を消した。
「戦争に英雄なんていない」ってセリフが好きです。
そうなんですよね。
でも、弱っていた彼女にとって、彼は英雄だったのかもしれないと思いました。
最後、二人で抜け出したところが爽快でした!
戦争は人間が犯す過ちです。しかし、いつの時代も人間の心が正義であれば希望はある。戦争を終わらすのはこの二人が必要だ。頑張れ!
平和のために、平和な世界をつくるために人殺しをする。きっとそれは自分がどっちサイドについたかだけの違いで、自分を正当化しているだけじゃないのだろうか、、。何が悪で何が正義なんだろう。そんなことを考えながら読みました。でもやはり人の心を考えない人殺しは生きていてはいけないと思うから、このふたりが平和な世界をつくることができますように。。。