あなたの料理は食べたくない(脚本)
〇田舎の病院の病室
その部屋に入ると、ふわっと甘い匂いがした。
みちこ「あら、海斗、今日も来てくれたの?」
海斗「もちろんだよ、母さん」
海斗「身体の調子はどう?」
みちこ「調子いいわ」
お母さんは、体が悪く、ずっと入院をしている。
命には別状ないと医者は言うが、なかなか退院することはできない。
みちこ「確か、そろそろ学校のテストよね?」
みちこ「あんまりムリしちゃだめよ」
海斗「よく知ってるね、ありがとう」
みちこ「花と弘人は元気かしら?」
海斗「元気だよ」
みちこ「良かった、今週末はよろしくね」
海斗「今週末?」
みちこ「本当は私も行きたかったんだけど、」
みちこ「お医者さんに止められちゃって」
海斗「待って、今週末って何があるの?」
みちこ「あら、花と弘人の運動会があるらしいわよ?」
海斗「え、そうなの!?」
海斗「ってか、母さん、入院しているのにどこでそんな情報知って・・・」
あぁ。
甘い匂いは、窓際に添えられた花が原因だった。
その花を買う人を、僕は知っている。
海斗「父さん、今日も来たの?」
みちこ「ええ」
海斗「仕事は!?」
みちこ「営業帰りだそうよ」
みちこ「仕事が上手くいかなくて、お客様に怒られたから、」
みちこ「早く帰宅できたって笑ってたわ」
海斗(いや、それ笑い事じゃないって)
みちこ「運動会のお弁当は海斗が作るのかしら?」
海斗「僕が料理担当だからね」
海斗「父さんは包丁を持つと自分の指を切るし、」
海斗「花と弘人は、火を使わせるにはまだ小さすぎる」
みちこ「いつもありがとう」
みちこ「弘人は、ミートボールが好きよ」
みちこ「花は、にんじんが嫌いだから、入れないであげて」
そう言ってお母さんは僕の頭を撫でた。
でも、お母さんは知らない。
弘人は唐揚げの方が好きになったし、
花はにんじんのソテーなら食べれるようになった。
そして、僕は頭を撫でてもらって喜ぶほど、もう子供じゃないことに。
それにしても、なんで花と弘人は運動会があることを教えてくれなかったんだろう。
危うく、二人の有志を見逃すところだった。
〇おしゃれなリビングダイニング
海斗「ただいまー」
弘人「エーン」
海斗「!?」
海斗「弘人、なんで泣いてるの!?」
花「お兄ちゃんは気にしなくていいよ」
海斗(あーあ、また花が弘人を泣かせたんだなぁ)
海斗(双子なのに、よく喧嘩するんだから──)
花「別に何もないよね?」
花「ね、弘人?」
弘人「怖いよう、わかったよぉ・・・」
弘人「花ちゃんの言う通りにするから」
海斗「何があったかよくわからないけど、仲良くしてね・・・」
海斗「とりあえず食事作るから待ってて」
海斗「そういえば父さんは?」
花「パパは帰ってきたけど、また会社に行ったよ」
海斗(父さんは忙しい部署にいるらしいからなぁ)
だから、基本的に家事は僕がやっている。
まぁ、父さんが不器用で家事音痴ってのもあるけど。
〇おしゃれなリビングダイニング
弘人「わー! オムライスだ!」
海斗「こほんっ」
海斗「まず、二人に訊きたいことがあります」
弘人「?」
海斗「今週末、何がありますか?」
弘人「!」
花「・・・」
海斗「運動会があるよね?」
海斗「なんでそれ言ってくれなかったのかな」
「・・・」
正男「ただいまー」
海斗「父さん、おかえり」
正男「あれ、どうしたの、みんなでそんな神妙そうな顔して」
正男「ほら、明日の朝ごはん用にドーナツ買ってきたぞ」
海斗「父さん!」
海斗「朝ごはんにドーナツは糖分取りすぎで体に悪いって!」
海斗「しかも、すでに明日の朝ごはんの材料買ってあるから!」
正男「そんなこと言っても美味しそうだったんだもん」
正男「それに、海斗は試験が近いんだから、朝ごはん作るより勉強しなさい!」
弘人「わーい!ドーナツ大好きー!」
海斗「もう、せっかく栄養偏らないように献立考えてるのに・・・」
〇男の子の一人部屋
海斗「父さんは、ああやって気を遣ってくれたけど、確かにちゃんと試験勉強しなくちゃな」
海斗「えっと、数学からやろうかな・・・」
海斗「いや、夜で頭が働かないから、暗記科目?」
海斗「そういえば、明日は朝ごはん作らなくていいから、ゆっくり寝よ」
海斗「アラームも止めとこ」
海斗「えっと、マッカーサーが日本に来たのは、スー・・・zzz」
〇男の子の一人部屋
海斗「やば!こんな時間!」
海斗「遅刻だ!」
〇スーパーマーケット
海斗「はぁ」
海斗「やっと1日が終わった」
海斗「今日は遅刻回避するために猛ダッシュして、」
海斗「朝から疲れたなぁ」
海斗「でも、スーパーで鶏肉が安売りだった!」
海斗「嬉しい!」
〇おしゃれなリビングダイニング
海斗「ただいまー」
花「何それ」
海斗「明日の運動会の材料だよ」
海斗「メニューはねぇーーー」
花「いらない」
海斗「え?」
花「いらない、私、」
花「コンビニでつくられた人工的な味のする」
花「塩分過多なものが食べたい」
海斗「ガーン」
海斗「だ、だめだよ!」
海斗「コンビニ弁当は栄養が偏ってるし」
海斗「運動会は手作りのお弁当をみんなで囲んで食べるって風習がーーー」
花「弘人もそう思うよね?」
弘人「・・・うん」
海斗「ガーン」
〇男の子の一人部屋
海斗「ショックで試験勉強が手につかない」
海斗「毎日ご飯作ってたのに、そう思われてたなんて!」
海斗「あぁ、でも、」
海斗「せっかくの大イベントなんだから、手料理作りたいな」
海斗「よし!明日は運動会で丸一日勉強できないし、今日英単語全部覚えておこう」
海斗「あれ、明日のために、ビデオカメラの充電したっけ?」
海斗「レジャーシートは綺麗だっけ?」
海斗「三脚どこにしまったっけ?」
〇おしゃれなリビングダイニング
海斗「最悪だ!!寝坊した!あぁ、だらしなさぎる」
海斗「あ、机の上に、父さんからの手紙がある」
海斗「「ごめん海斗、仕事でトラブルあって呼び出されたから、運動会はよろしく」か」
海斗「花と弘人は先に出たのかな?」
海斗「なんで起こしてくれないんだ!」
海斗「どうしよう、今から料理してたら完全に運動会に遅れる」
海斗「・・・」
海斗「二人はコンビニ弁当食べたいって言ってたし、」
海斗「コンビニで買うか・・・」
〇グラウンドのトラック
海斗「花がんばれー!」
海斗「弘人!さすが足早い!」
アナウンス
「次はお昼休憩です」
アナウンス
「みなさま、楽しいひと時をお過ごしください」
弘人「お兄ちゃーん!来てくれたの!?」
花「・・・」
海斗「当たり前だよ!ってか起こしてよ!」
花「寝坊したのは自分じゃん」
海斗「ひどい」
海斗「とりあえず、お昼食べよっか」
海斗「コンビニの弁当になっちゃったけど、ごめんね」
花「あー、このしょっぱすぎる焼き魚おいしい」
海斗「確かにおいしいけど、健康には悪いんだからね!」
花「お兄ちゃんのは、ヘルシーすぎる」
海斗「ひどい」
弘人「そういえば、パパは?」
海斗「父さんは、仕事が長引いてて来れないみたい」
海斗「その分、このビデオカメラに二人の頑張っている姿を収めておくよ」
弘人「そうなの?」
弘人「次、家族と一緒に走る二人三脚だよ?」
弘人「僕と花ちゃん、同じレースになってるけど」
海斗「僕とお父さんがいないと、二人が走れないってこと!?」
海斗「何でそんな順番に・・・。まぁいいや、どうしよう」
花「・・・」
花「弘人が走んなよ」
弘人「!」
花「私、犬じゃないから走るのとか興味ないし、弘人がお兄ちゃんと走りなよ」
弘人「やったー!」
海斗(花って言葉悪いけど、兄弟想いなんだよな)
〇グラウンドのトラック
海斗「ぜーはーぜーはー・・・」
海斗「死ぬほど頑張って、2位になった!やったね弘人!」
弘人「1位じゃなかった、くやしい」
海斗「!?」
弘人「来年はもっと練習して一位になりたい!」
海斗「うん、頑張ろうな」
正男「弘人、海斗ペア、おめでとう」
海斗「父さん!」
正男「遅くなってごめんな」
正男「でも、二人の果敢な走りを見れて、お父さん感激」
正男「花と声をあげて応援しちゃったよ」
正男「そして、思わず迎えにきちゃった」
正男「ところで、今日は海斗のお弁当じゃなかったんだな」
正男「お父さん海斗の唐揚げ楽しみにしてたのに」
海斗「ははは・・・」
正男「あんなに弘人も楽しみって騒いでたのになぁ」
海斗「え!?」
正男「おっと、また怒りん坊のお客様から電話だ」
正男「困ったかまってちゃんだ、はは」
海斗「弘人、唐揚げ、楽しみにしてたの?」
弘人「・・・」
海斗「だっていらないって」
弘人「花ちゃんがそう言えって」
海斗「え?」
弘人「お兄ちゃん、勉強で忙しいから、朝ゆっくりさせようって」
弘人「運動会の日も、ぼくらのために運動会に来てもらうんじゃなくて」
弘人「ゆっくり休んでほしいから」
弘人「運動会あること言うなって言われて・・・」
海斗「・・・」
弘人「でも、来てくれてよかった、一緒に楽しめてうれしい」
海斗「弘人・・・」
海斗「僕もだよ」
〇通学路
海斗「いやー、二人ともめっちゃかっこよかったよ!」
弘人「来年はもっとがんばるね!」
海斗「よし、今日はいっぱいご馳走作るぞ!」
そう言った時、花が少し嬉しそうにしたのを、僕はちゃんと見ていた。
海斗「僕の手料理でも、もうちょっと塩気足したら、」
海斗「コンビニの弁当より美味しくなるかな?」
花「どうだろうね」
花「ま、時々はヘルシーなのも食べたい時もあるよ」
花「時々だけど」
弘人「僕はお兄ちゃんの料理大好きー!」
正男「おーい!」
海斗「父さんだ!」
正男「最後まで見れなくてごめんな!」
正男「帰ったら、ビデオカメラで撮った映像の鑑賞会しようよ!」
正男「また、ドーナツ買ってきたから、食べながら見よう!」
海斗「父さん! ドーナツは糖分が多くて・・・」
海斗「まぁ、今日はいっか」
海斗がいい子すぎて泣けますね・・・
幸せになってほしいです!!
そして、花が不器用だけど家族想いの良い子ですごく可愛いなぁと、キュンとなりました✨😊💓
海斗は、最近世間で問題になっているヤングケアラーですね。でも一人で奮闘する海斗を花や弘人が気遣ってくれる素敵な家族でよかった。「親の背を見て育つ」というけれど、「兄の背を見て育つ」いい子たちもいるんだな、と胸が熱くなりました。
こういうシンプルな家族愛ものが1番泣ける。妹もいい子だし、弟はいつまでもその無邪気さを無くさないでほしい。お兄ちゃんには最大限に幸せになってほしい。