追熟の秋(脚本)
〇ゆるやかな坂道
小学校の夏休みが明けて、2週間が経った。
学校の帰り道に生っているあの木の実は
順調に育っているみたいだ。
少年「明日かなぁ」
少年があの木の実を見つけたのは、夏休みが明けてすぐのことだった。
それから2週間が経って──
── 木の実はより大きく、そして薄っすら赤く色づいていた。
少年「明日だ!明日にしよう!」
少年はそう決めて、家に帰った。
だけど・・・
木の実が心配な少年は、家に帰った後、
またすぐ木の実の様子を見に行った。
少年「もしかしたら、ノラネコが持って行っちゃうかもしれないし・・・」
少年「もしかしたら、木の実泥棒がやってくるかもしれないし・・・」
待ちに待った明日、少年が木の実を採る
前に、誰かに奪われたりしないように。
いろんな心配事を胸に抱えている少年は
明日が来るまで木の実を守ることにした。
しかし・・・
ちょうど少年が、再び木の実の元へたどり
着いたその時──
── 近所のおばあさんが長い枝切りはさみを使って、木の実を切ろうとしていた。
少年「あっ!ちょっと待って!!」
走って駆け寄るも、少年は途中で転んでしまった。
”ジョキ”
少年の叫び声も虚しく、木の実はおばあさんに切られてしまった。
おばあさん「あらあら、大丈夫?」
おばあさんは、転んでいる少年を心配して
近づいてきた。
少年「木の実が・・・大切に見守ってた来たのに」
おばあさん「おやまぁ、そうだったの・・・」
少年「明日採ろうって、決めてたのに・・・」
少年は思わず、泣き出してしまった。
おばあさん「それは悪いことしたわねぇ」
おばあさん「それじゃあぼうや、これどうぞ」
そう言っておばあさんは、少年に木の実を
手渡した。
しかし、少年はそれを受け取らなかった。
少年「まだ早いの・・・」
少年「明日じゃなきゃ、ダメなんだよ・・・」
少年「ママがたいいんするのは明日だから・・・」
少年「採れたてが美味しいって、テレビで言ってたから」
少年「採れたてをママにあげたかったのに・・・」
少年「だからずっと、ずーっと守ってきたのに・・・」
少年の涙は、止むことなく流れ出る。
しかしおばあさんは、それを聞いてニッコリと笑った。
おばあさん「ふふふ、それなら大丈夫よ」
おばあさん「これはね、柿って言う果物でね、採れたてよりも少し置いてからの方が美味しいのよ」
少年「どういうこと?」
少年には少し難しく、理解ができなかった。
おばあさん「追熟って言ってね、採れたてよりも、採ってから少し経ってからが、一番美味しいのよ」
おばあさん「だからぼうやのママが退院した後が、きっと一番美味しくなっていると思うわ」
少年「それって、ホント!?」
おばあさんは、大きく頷いた。
少年「そうなんだ!ありがとう!」
それを聞いた少年は、おばさんから柿を受け取って走り出した。
少年「おばあちゃん!ありがと!」
後ろ向きで、おばさんに手を振りながら走っていた少年は、またバタンと転んでしまった。
それでも、めげることなくまた走り出した。
涙はすっかり止まっていた。
〇病院の入口
少年はようやく、病院にたどり着いた。
沢山走って、もうくたくたなようだ。
〇病室
そして少年は、ママがいる病室に着いた。
お母さん「あら、今日も来てくれたのね」
少年「うん!もちろんだよ!」
そして少年は、ママとたくさんおしゃべりをした。
少年「明日、たいいんだね!」
少年「たいいんしたらさ、これ、一緒に食べようよ!」
少年は、採れたての柿をママに見せた。
お母さん「あら、美味しそうな柿ね」
お母さん「どこで手に入れたの?」
少年「学校の帰り道に生えててね、僕がずーっと守ってたんだ!ママに食べてもらいたくて!」
お母さん「ありがとうね」
ママは嬉しそうに柿を受け取り、そして大切そうに両手に収めた。
お母さん「なんだか、、少し見ない間に大きくなったわね」
少年「そ、そうかなぁ・・・」
たくましさの垣間見える少年の頬は、少し赤らんでいた。
たくさんの植物が実をつけ、成長が感じられる秋の頃
少年の成長を感じ、母の目元は少し潤んだ
おばあちゃんと少年のやりとりにほっこりしました。
お母さんも、その気持ちが嬉しいですよね。
読んでてすごく優しい気持ちになれました。
子供の純粋さって宝石のようですね。姪が幼かったころ、入院していた姉に変わり面倒をみていた時、一緒に花火をみながら『この花火ビニールいれてお母さんの所にもっていってあげる!』といっていた事を思い出しました。とても温かいお話でした。
子どものまっすぐな思いがヒシヒシと伝わってきました、お母さんを思うからこそ、一生懸命だったんですね。心温まるいいお話しでした。