婚活する猫

なおきち

猫だって婚活をする!?(脚本)

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〇一軒家
田中(僕は今、多摩川の近くの世田谷という地域に住んでいる)
田中(ごく普通のサラリーマンの家庭の飼い猫だ)
田中(主が田中というから、周囲の猫には「田中」と呼ばれている)
田中(特に大きな特徴がないトラ猫である)
田中(実はちょっとした「悩み」があった)
  「婚活」である
田中(・・・猫だって婚活をする)
田中(結婚という堅苦しい制度はないが、子孫を残すために相手を探す必要がある)
田中(種を繁栄させるのは自然の摂理)
田中(故に本能としてパートナーを求めるのだが、これがまたうまくいかない)
田中(理由は沢山ある)
田中(そもそもオスとメスの数のバランスがとれていない)
田中(飼い猫は、他のメス猫と交流する機会がなかなかない)
田中(雑種と血統種など、血筋の違い、などなど・・・)
田中(人間の婚活もややこしいと聞いたことがある)
田中(でも、猫だって、それなりにややこしい)
田中(これは僕が将来、『家族』となる猫と出会うまでの物語だ)

〇広い公園
  大体、どの町にも世話役という猫がいる
  喧嘩の仲裁の長けた猫
  飼い猫と野猫の交流に長けた猫
  異性同士の猫を引き合わせに長けた猫
  今、僕がお世話になっている猫の名は「社長」といった
  社長は、その名の通り、世田谷区内に住んでいる社長の飼い猫だ
  いわゆるタワーマンションに住んでいるらしい
  猫なのに器用にエレベーターで移動しているから、ちょっとした有名な猫だった
  社長は駒沢公園の中にある「ぶた公園」がお気に入りの場所だった
  ちなみに僕は両親の記憶がない
  だから家族がどういうものか分からない
  社長は僕がまだメス猫と交際したことがないと知ると、ぐいぐいと、ちょっかいを出してきた
社長「田中君・・・世の中の半分はメス猫だ」
社長「世田谷では、スコティッシュ・フォールド、アメリカン・ショートヘア、ラグドール・・・気品あるメス猫が多いのだよ」
田中「はぁ、そうですか」
田中「でも・・・昨今は猫の集会も行われていないじゃないですか」
田中「だから、そういう出会いがないのですよ」
社長「うむむ」
  社長の尻尾が大きく左右に揺れた
  何かを考えているようだった
社長「だったら、私が何とかしよう!」
田中「ん?」
社長「世田谷の猫は私が全て面倒を見る!」
田中「ほ、本当ですか!?」
  その時、僕は社長の背景に後光が差して見えた

〇広い公園
  数日もしない内にすぐに社長は動いてくれた
  さすが社長、出来る猫だ
社長「おお、田中君、こっちこっち!」
田中「社長、お疲れ様です!」
  社長は僕の姿を認めると喉をごろごろと鳴らしていた
田中「社長、今日はよろしくお願いします!」
  社長はじろじろと僕の毛並みを確認していた
社長「うむ。よろしい、ちゃんと整えてきたようだな」
田中「もちろんです!」
田中「社長に教えて頂いた通り、一日三回は撫でつけております」
社長「見上げた心がけだな」
  僕は周囲をキョロキョロと見回した
田中「・・・それでお相手の猫というのは?」
社長「あまり急ぐな」
社長「みっともないぞ、田中君」
田中「す、すみません」
社長「中央広場で待ち合わせをしている」
社長「そろそろ行こうか」

〇大樹の下
  歩きながら、社長はお相手の猫の情報を教えてくれた
  名は「メロン」というらしい
  渋谷で人気のパン屋「メロン」の飼い猫だという
社長「甘いものが好物ということから、まずは食べ物の話で気を引くといい」
社長「いいか、はじめが肝心だぞ、田中君」
田中「なるほど、勉強になります」
田中(メロンとは一体、どんな猫なのだろう)
田中(名前からすると、可愛らしいイメージだ)
  何だか想像するだけで毛がむずむずとしてくる
社長「ちなみに、相手はスコティッシュ・フォールドだ」
社長「大事に育てられたせいか、少し、わがままという噂もある」
社長「ま、田中君ならその点は大丈夫であろう」
田中「え・・・そうなんですか」
田中(そういうことは早く言ってほしかった・・・)
田中(それに僕なら大丈夫というのはどういう意味であろう)
  僕は急に不安になり、ごろごろと喉を鳴らした

〇広い公園
  中央広場のベンチの近くにメロンはちょこんと座っていた
  想像通りの外見だった
  綺麗な毛並みで少し垂れた耳が可愛い
  社長が無言で僕に目配せをした
田中「は、はじめまして」
田中「ぼ、僕は田中と申します」
田中「えっと好物は煮干しで・・・」
メロン「・・・」
メロン「・・・え」
  メロンは僕には目もくれずに社長に近づいた
  ぼそぼそと何かを言ったかと思うと・・・
  そのまま、ぷいっと背を向けてどこかに向けて歩いて行った
社長「・・・」
社長「すまん・・・どうやらトラ猫とは以前、嫌なことがあったらしくてな」
社長「今回の話はなかったことにということだ」
社長「最初に確認しておけばよかったな」
社長「申し訳ない」
  社長は気まずそうに尻尾を振っていた
  こうして僕の初めての婚活は失敗に終わった

〇広い公園
  僕と社長は暫く、中央広場でぼおっと立ちすくんでいた
  カラスが、かーかーと鳴いていた
社長「・・・ぶた公園で反省会でもするか、田中君」
田中「はい、何かすみません・・・社長」
  僕たちは、とぼとぼと歩き始めた

〇広い公園
メロン「・・・」
メロン「・・・」
メロン「ごめんなさい・・・」
メロン「こうするしかなかったの・・・」
メロン「・・・」
メロン「え・・・何でここが」
三日月「あれ?」
三日月「この辺にいるって聞いたんだけどな」
三日月「ここまで来て無駄足か」
三日月「勘弁してくれよ・・・」
三日月「また出直すか」
三日月「メロン・・・」
三日月「待ってろよ」

〇一軒家
田中「はあ、これからどうしよう」
田中「とりあえず、社長に相談しようかな」
  ごめんくださいませ
田中(あれ、この声は確か・・・)
お母さん「久しぶりやなー、ぼうや。元気やった?」
田中「お、お母さんですか??」
お母さん「あたり前田のクラッカー、や」
田中(あたり前田のクラッカー・・・??)
田中(どう、返せばいいのだろうか・・・)
お母さん「そんなことより、ぼうや」
お母さん「元気にしているかい?」
お母さん「餌には困っていないかい?」
お母さん「困ったことがあれば、何でも言うんやで」
田中「は、はい・・・」
  そもそも、猫は家族という概念が薄い
  僕を産んでくれた親は、しばらく育ててくれた後、いつの間にかいなくなった
  まだ、産まれて半年も経っていない時のことだった
  そんな時、見かねた僕の面倒を見てくれたのが「お母さん」だった
  犬だけど、面倒見がいい
  関西出身と言っていた
  時々、この様に僕の様子を気にしてくれる
お母さん「で、あっちの方はどうなん?」
田中「あ、あっち?」
お母さん「嫁さんや」
お母さん「あんた、年頃やし。そろそろ、しっかりしないとあかんで」
田中「は、はぁ・・・」
お母さん「どうせ、そんなことだと思っていたわ」
田中「・・・はい?」
お母さん「お母さん、ほんま心配やわ」
田中「はぁ・・・」
お母さん「お母さん、嫁さん、紹介したいんやで」
田中「・・・今、なんと?」
お母さん「そのままの意味や」
お母さん「どうする?」
田中「え、どうするって・・・?」
お母さん「決まりやな」
田中「え、ちょっと待ってください💦」
お母さん「ちょっと、待っててな」
  お母さんは、昔からいつも僕の話を聞いてくれない
  突然、現れたと思ったら、いつも強引
お母さん「お待たせやで」
マロン「初めまして、マロンと申します」
田中「マ、マロン?」
お母さん「ええ子やろ。ほんま、おススメやで」
お母さん「駒沢公園で会って、意気投合したんや」
お母さん「ぼうやにピッタリだと思うわ」
  マロン・・・教授から紹介されたメロンと名前だけではなく姿も似ている
  これは偶然であろうか・・・
お母さん「ほんなら、あとは若い二匹で」
お母さん「おおきに」
田中「ちょ、ちょっとお母さん」
マロン「・・・」
田中「あの、何かすみません」
マロン「いえ、わたしは大丈夫です」
マロン「それより、これからどうしましょうか?」
田中(どうしよう・・・)
田中(こんな状況はじめてだ・・・)
田中(こういう時、どうしたらいいのだろう・・・)
田中(社長に聞きたいけど、そんな暇はない)
田中(どうしよう・・・)
  僕の婚活は波乱含みのスタートだった
  しかし、「マロン」の登場により、もっとややこしい事態が待ち受けていた
  僕の婚活はまだ始まったばかりであった

〇空き地
三日月「・・・」
満月「・・・」
満月「面白くなってきたな」
三日月「で、「兄上」どうしますか?」
満月「まぁ、お手並みを拝見といくか」
三日月(結局、何もしないのですね・・・)
三日月(ま、その方がいいか・・・)
満月「シャー!!」
三日月「え、え、突然どうしたんですか?」
満月「気合いだ」
満月「気合があれば何でもできる」
三日月(こういうノリ、苦手なんだよな)
満月「よし、決めた」
満月「これからメロンに会いに行く」
三日月(お手並み拝見って言っていたじゃないですか・・・)
三日月(つーか、これから会いに行くとか迷惑に決まってるでしょ)
満月「急ぐぞ、急ぐぞ!」
三日月「わ、分かりました!」
三日月(こういうところが、モテない理由って気づいていないのかな?)
三日月(すげー、面倒臭くなってきた・・・)
満月「シャー!!」
三日月「・・・」

コメント

  • 猫と犬しか出てこない物語、最高に私得な展開です。意気込みだけのやり手風社長や関西弁のお母さん犬がナイスキャラですね。当たり前田のクラッカーって、お母さん昭和生まれの妖怪犬なのか。三日月と満月のコンビも裏社会っぽくていい。「お手並み拝見」が「お毛並み拝見」に空目しました。

  • 猫派民族なのでタイトルからかなり惹かれました! 動物の世界はホントに魅力的ですね・・犬が猫の面倒を見てあげたり、やりてな猫が若いカップルを引き合わせたり。なんか私達人間が失いかけている繋がりを彼等はまだしっかり持っているんだなあとしみじみしました。

  • 完全に犬派ですが、社長が猫なのか犬なのか、気になって気になって...(笑)動物たちの人間のようなやりとり、感情の機微がいちいち可愛くてほっこりしました!とりあえずもふりたくなりました!

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