帰宅したら、庭に狼?(脚本)
〇川のある裏庭
?「クーン・・・」
「ただいまー」
母さん「あらあら、大っきいワンコ!」
母さん「なんで・・・うちの庭に?」
母さん「迷子かしら・・・ ノラ犬、じゃないわね。 毛並みもきれいだし」
母さん「あら、ニコッとした? お利口ねー 大っきいけど、かわいい顔してる」
母さん「このくらい大きかったら、うちの塀くらい跳び越えちゃえるの?」
母さん「でも、困ったわね・・・ これからお客さんなの。 伊達さん、犬が苦手だったらどーしましょ」
母さん「あら、あなたも分かるの? 寂しそうな顔しないで。 うちはみんな、犬好きなのよ。父さんも、娘も・・・」
母さん「そうだ、さくらに聞いてみればいいわね・・・」
母さん「もしもし、さくら? 伊達さんって、犬は平気かしら?」
・・・はぁ? いきなり何言ってんの?
もうすぐ着くから、本人に聞いてみなよ
母さん「それがねえ・・・今、庭に大っきな犬がいるの。 それで、もし伊達さんが苦手なら──」
・・・大っきな犬? なんでまた?
母さん「それが分かんないの。 迷子かしら?」
迷子って、迷い犬ってこと?
お父さんに何とかしてもらえば?
今日は早めに帰ってるんでしょ?
母さん「それが、お父さんもいないのよ。 出かけちゃったみたいで──」
母さん「あの、もしかして、あなた・・・」
──あ、ちょっと待って、マーくんに代わるね
──こんばんは。先日お邪魔した伊達です!
犬でしたら、僕、好きですよー
母さん「ああよかった、それなら安心ねえ」
母さん「大っきいけど、すごく大人しくて賢そうなワンコなの。 安心していらしてね」
──ありがとうございます。
でも、迷い犬なら心配ですね
母さん「そうよねえ、それに・・・」
もしもーし、さくらです。
とにかく、これから帰るから!
いま駅出たから、5分くらいで着くからね
母さん「あら、切れちゃった。 それにしても・・・」
母さん「そういえば、今夜は満月だし・・・」
母さん「お父さん、言ってたわよね。 娘の彼氏に会うのは照れるから・・・次に伊達さんが来る時は、狼男の格好をしようか、なんて」
母さん「冗談かと思ったら──本当に狼男になっちゃったの?」
母さん「狼男って──狼になった後、どうやったら人間に戻るのかしら?」
?「・・・」
母さん「・・・ねえ」
母さん「あなたって、もしかして・・・」
母さん「・・・お父さん?」
?「・・・」
?「ワン!」
母さん「あら、返事した!」
?「クーン」
〇川のある裏庭
伊達マサトシ「──いや、さすがにそれはないでしょ!」
さくら「そーだよ。狼男なんて!」
母さん「でも「お父さん」って呼んだら、返事したのよ」
母さん「私のお買い物袋、かわりに咥えてくれたし! 普通の狼じゃ、そんなことしないわよね?」
?「・・・ワン!」
母さん「ほら!」
さくら「狼が袋を持つより、人が狼になる方がありえないでしょ!」
母さん「だから、そこは狼男なら──」
さくら「お父さんの狼男は、メイクや演技の話でしょ! 変身できるわけじゃないじゃない!」
母さん「それはそうだけど、この狼さんがあんまりお利口だから・・・」
さくら「そんなこと考えてるより、お父さんに電話すればいいじゃない」
母さん「それが、通じないのよ。 メールもLINEも反応ないし・・・」
さくら「またスマホの電源切ってるんだよ。 月を見て狼になったわけじゃないって!」
伊達マサトシ「ところで・・・ このワンコ、狼なんですかね? シベリアンハスキーとかアラスカンマラミュートみたいに見えますけど」
母さん「あら、伊達さん、詳しそうね」
伊達マサトシ「前に漫才ネタで調べた程度でが──狼にしては大人しすぎますよ。 人慣れしてるし、撫でても平気ですし」
?「クーン」
伊達マサトシ「よしよし。 自分が話題になってるの、分かるんですね。 撫でてくれって寄ってくるあたり、やっぱり飼犬ですよ」
?「フハフハ」
伊達マサトシ「あれっ? 毛足が長くて気付かなかったけど、首輪してますよ」
母さん「それなら、迷子札がついてるかしら?」
伊達マサトシ「ちょっと待てください、外してみます──」
伊達マサトシ「あ、プレート一体型ですね。 何か刻印してあります」
カイジョ
フレーズ
?「ワン!」
母さん「・・・かいじょフレーズ?」
伊達マサトシ「・・・どういう意味ですかね?」
母さん「「カイジョ」、って、「解除」かしら? 変身を解除する、みたいな」
さくら「もしかして、狼男を人間に戻す呪文、みたいなこと考えてる?」
母さん「だってほら、「狼男は満月を見ると狼になる」とはいうけど──元に戻る方法も、あるわよね?」
さくら「・・・そういえば、そうだね」
母さん「十字架を見せるとか、銀の弾丸を撃ち込むとか?」
伊達マサトシ「それ、ドラキュラの倒し方ですよ」
母さん「あ、そうか・・・ ニンニクもダメかしら?」
伊達マサトシ「・・・そもそも犬にニンニクは毒です。 ていうか、銀の弾丸だってダメでしょう。痛いもん!」
母さん「だからほら、解除フレーズで変身が解けるなら、それが一番よ」
伊達マサトシ「なんか、話が変な方向にいってるような・・・」
さくら「ネットで調べたら、月が沈むと元に戻るって説があったよ!」
母さん「じゃあとりあえず、おうちに入りましょうか。 この子もお利口だから悪さはしなさそうだし・・・月の光も届かなくなるし」
さくら「家に入った途端、このワンコがお父さんに変身したらびっくりだね!」
〇シックな玄関
さくら「・・・変身、しないね」
?「クーン・・・」
伊達マサトシ「いや、したら怖いって!」
さくら「そうだけど、ここでボンッとお父さんに戻ったら、一気に問題解決なのにな~」
伊達マサトシ「それはそれで問題だろ!」
母さん「ねえ、伊達さんのそういうツッコミフレーズ みたいに・・・推理してみない? 解除フレーズを」
伊達マサトシ「えっ?」
母さん「狼から人間に戻すフレーズよ。 どうせお父さんを待つんだもの。その間に考えてみましょ。 どんなフレーズなら変身が解けるか」
伊達マサトシ「はあ・・・ツッコミの言葉でいいんですか?」
母さん「そうね。狼に変身しちゃった相方さんにツッコむ感じで!」
伊達マサトシ「では── 「なに変身してんだよ!」 「狼になってんじゃねえよ」 「また満月見ちゃったのか!?」 なんて、どうでしょう?」
母さん「さすが、パッと出るのねー」
伊達マサトシ「でも、効きませんね・・・」
さくら「ツッコミより、呪文みたいな感じはどう?」
さくら「アニメとかであるじゃない。 ルレラパルレラパ──とか、 ラミパスラミパス──とか」
伊達マサトシ「・・・効いてないね。 それに、そういう言葉遊びじゃ推理しようもないよ」
さくら「じゃ、どーすりゃいいのよ」
伊達マサトシ「そう言われても・・・」
母さん「あら、電話。 お父さんから!」
さくら「ほら、狼にはなってないじゃない!」
さくら「──って、ちょっと待って。 私が出る!」
さくら「もしもし、お父さん? さくらです!」
ああ、さくら!
すまん、急なトラブルで──
さくら「それよりさ、「カイジョ フレーズ」って何のことか分かる?」
えっ、何でお前がそれ、知ってんだ?
さくら「・・・って、どういうこと?」
えーと──順番に説明するぞ。
さっき、うちの前の道をペットシッターの人が通りかかったんだ
犬を3頭も散歩させてたから、大変ですねーって声掛けたら、胸を押さえてうずくまっちゃってな
心臓発作みたいだから、救急車を呼んだんだ。
救急隊の人は命に別条ないって言ったけど、救急搬送されることになって──
犬まで救急車に乗せてくわけにはいかない、ってことで、うちで預かることになったんだよ
母さん「ああ、それで!」
さくら「でも・・・3頭?」
リードにはその人の勤め先が書いてあったから、事の次第を連絡しなきゃと思って、今その──犬の保護施設まで来てるんだ!
2頭は一緒に──小型犬は抱いて、中型犬はリードで連れてきたけど、大型犬は持て余しそうだから、うちの庭に置いてきた!
その子が一番おとなしそうだったから、心配ないとは思うけど、お前たちを驚かしちゃいけないと──
さくら「とっくに驚いてるよ!」
母さん「そういうことだったのね・・・」
で、その保護施設ってのが、犬の訓練もやってるとこでな、
その大型犬は、介助犬になる訓練中なんだって
母さん「ああ、その「介助」!」
さくら「・・・「フレーズ」っていうのは?」
そう、名前は「フレーズ」だって。
暴れたりしないそうだから、名前呼んで、しばらく相手してやってくれ
さくら「もうしっかり相手してます!」
母さん「介助犬フレーズ号、ってことだったのね・・・」
・・・でもさくら、さっきどうして、その名前を知ってたんだ?
さくら「──さあ、どうしてでしょう?」
母さん「後でゆっくり話してあげる」
母さん「ね、フレーズ♪」
?「ワン!」
介助犬だからママの荷物も持ってくれたんだ。なるほど〜。無関係な情報がお母さんの中で勝手に解釈されて「お父さん=狼男」説が補強されていく流れが面白かったです。伊達くんはお笑い芸人なら「毛深いお父さんですね」「娘さんにもよく噛みつかれます」とかボケ倒してほしかったな。
ほんとに狼男なのかと思って読んでいました。最後のお父さんからの電話で一気にスッキリして、それまでのお母さんの思い込みの強さに笑えました。彼氏のツッコミもおもしろかったです。
ずっと、このワンコがお父さんのこと食べたのでは!?と
勝手に想像していましたが、後半になってちゃんとお父さんが電話で出て来たので安心しました😂疑ってごめんなさい😂ほっこりストーリーで良かったです😌