わたしのパパになって

嘉ノ海祈

わたしのパパになって(脚本)

わたしのパパになって

嘉ノ海祈

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〇広い公園
陽本棗(ひのもと なつめ)「『──愛はあるのに、子どもは望めないという悲しい現実。越えられない性別の壁』」
  俺は公園のベンチに腰掛けながら、スマホの画面を見つめた。
  そこに映るのはジェットコースターの前で楽し気にポーズをとる二人の男性の写真。
  俺は自分の隣にいるその男の画像をそっと指でなぞった。
  彼の名前は月澤春和。俺の最愛のパートナーだ。
  そう。俺たちは所謂ゲイカップル。
  男である以上、俺たちの間に子ども作ることはできない。
  いつか我が子と公園でピクニックをしてみたい。そう春がこぼしたのはいつだったか。
  俺ではその夢を叶えてやれない。その事実が俺の心を蝕む。
陽本棗(ひのもと なつめ)「『──俺が身を引いた方が、春は幸せになれるんだろうか』」
  そんな想いが脳裏によぎる。俺がどんなに頑張っても、春の願いは叶えてあげられない。
  それなら、春にはもっとふさわしい女性と一緒になってもらった方が、彼の幸せのためになるんじゃないだろうか。
  そこまで考えて俺は、深くため息をついた。
陽本棗(ひのもと なつめ)「『──駄目だ。春の隣に俺じゃない誰かがいるなんて、俺が耐えられない』」
  思考の波にのまれ、絶望に浸る俺を現実へと呼び戻したのはとある少女の声だった。
「お願い!私のパパになって!」
  突然の声掛けに俺は茫然と顔を上げる。そこにはまだ小学生くらいの女の子がいた。
陽本棗(ひのもと なつめ)「・・・えっと、ごめん。ぼーっとしてて聞いてなかった。俺になんか言った?」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「だから、わたしのパパになってほしいの」
  パパってあのパパ?・・・まさかパパ活の方じゃないよな。見たところ、小学生だし。
陽本棗(ひのもと なつめ)「・・・いきなり言われて困っちゃうよ。どうして俺にパパになってほしいのか教えてくれるかい?」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「わたし、親いないの。パパは死んじゃった。ママは・・・一緒に暮らせない。会いたくない」
  母親に会いたくない?なんか事情があるのだろうか。
陽本棗(ひのもと なつめ)「君、おうちは?」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「施設。親がいない子どもが暮らす」
  ああ。そういえば、この近くに児童養護施設があったな。そこの子供なのか。でも、どうして俺に声をかけたんだ?
陽本棗(ひのもと なつめ)「どうして俺に声をかけたの?他にも大人は沢山いたのに」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「だって、おじさん、男の人の写真見てたから。その人、おじさんの大切な人なんでしょ?」
  お、おじさん・・・。いや、まぁそうだよな。小学生からしたら俺はおじさんだよな。
陽本棗(ひのもと なつめ)「確かにそうだけど・・・。それが何?」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「わたし、知ってる。おじさん、男の人が好きなんでしょ。なら、女の人と結婚しないよね?」
陽本棗(ひのもと なつめ)「・・・まぁ、そういうことにはなるね」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「施設に来る人、皆パパとママなの。わたし、ママはいらない。パパだけがほしい!」
  なぜこの子はそこまでしてパパだけにこだわるんだろう。母親は欲しくないのか?
陽本棗(ひのもと なつめ)「どうしてママはいらないの?同じ性別の人がいた方が頼りやすい部分もあると思うけど・・・」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「女の人、苦手。怖いの」
  女性が怖いか・・・。何か複雑な過去がありそうだな。
遠阪望海(とうさか のぞみ)「でも、このままだとずっと私には家族ができない。ずっと施設のままは嫌だ・・・」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「家族がほしいの。わたしをちゃんと見てくれて、わたしを大切にしてくれる、わたしだけのパパがほしいの・・・」
  ああ。なんだろう、この親近感。越えられない性別の壁と、家族を求めるこの感じ。なんか俺と似ている気がする。
遠阪望海(とうさか のぞみ)「だからおじさん!お願い!わたしのパパになって!」
陽本棗(ひのもと なつめ)「・・・君の気持は分かった。でも、ごめん。すぐには決められないよ」
陽本棗(ひのもと なつめ)「君の大事な将来が関わっていることだ。それに俺のパートナーの将来にも関わってくる」
陽本棗(ひのもと なつめ)「きちんとパートナーと話し合って、答えを出したい。だから、おじさんに少し時間をくれる?」
  彼女の真剣な想いに俺も真剣に答えたい。だから俺はそう提案した。それは彼女にもきちんと伝わったらしい。真剣な顔で頷いた。
遠阪望海(とうさか のぞみ)「わかった。答え、待ってる」
陽本棗(ひのもと なつめ)「ありがと。今更だけど、名前聞いていい?俺は陽本棗。君は?」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「遠阪望海(とうざかのぞみ)」
陽本棗(ひのもと なつめ)「分かった。望海ちゃんね。望海ちゃん、明後日土曜日、空いてる?」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「うん。空いてる」
陽本棗(ひのもと なつめ)「じゃあ、明後日の正午、この公園で待ち合わせしよう。その時、俺のパートナーを連れてくるから一緒に話をさせて」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「わかった。公園で待ってる」
  その後、俺は望海ちゃんと別れると家に戻った。そして、家に帰っていた春に今日の出来事を伝えた。

〇おしゃれなリビングダイニング
陽本棗(ひのもと なつめ)「え、いいの?」
月澤春和(つきざわ はるかず)「棗さえ良ければ僕は喜んで引き受けるよ」
月澤春和(つきざわ はるかず)「元々、里親については考えていたんだ。実際、男性同士のパートナーでも里親になれた事例はあるからね」
陽本棗(ひのもと なつめ)「そっか。俺も自分たちに子どもができるのは嬉しいよ」
月澤春和(つきざわ はるかず)「なら、問題はないね。一応、里親については色々と調べた資料がここにあるんだ」
  そう言うと春は棚から資料を取り出した。必要な資格や準備、心構えについて俺に教えてくれた。
月澤春和(つきざわ はるかず)「本当はいつ切り出そうか、悩んでたんだ。でも、ハードルの高さを考えると中々言い出せなくてね・・・」
陽本棗(ひのもと なつめ)「相談してくれれば良かったのに。俺、凄い悩んでたんだよ」
陽本棗(ひのもと なつめ)「このまま俺が春和の傍にいていいのかなって・・・」
月澤春和(つきざわ はるかず)「僕はずっと棗に傍にいてほしいよ。君以外が自分の隣にいる未来は想像がつかないな」
陽本棗(ひのもと なつめ)「春・・・」
  春の言葉で澱んでいた俺の心がじんわりと温かくなっていく。彼が俺と同じ想いでいてくれることが嬉しかった。
月澤春和(つきざわ はるかず)「望海ちゃんが僕たちを受け入れてくれるのなら、その話を引き受けてみよう」
月澤春和(つきざわ はるかず)「やることはいっぱいだけれど、未来の娘のためならどんな努力だってするよ」
陽本棗(ひのもと なつめ)「ああ。俺も。立派な父親になれるように頑張る」
  こうして俺たちは望海ちゃんの里親になることに決めた。里親について勉強をするうちにあっという間に日は経ち、土曜日になった。

〇広い公園
陽本棗(ひのもと なつめ)「望海ちゃん!」
  約束の日、望海ちゃんは既に公園にいた。俺はそわそわとしている彼女に声をかける。彼女はこちらを振り向くと、駆け寄ってきた。
陽本棗(ひのもと なつめ)「ごめんね、待った?」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「いえ、ちょうど来たところです。それよりも、その後ろの方が例の?」
陽本棗(ひのもと なつめ)「そう、紹介するよ。俺のパートナーの月澤春和。春、この子が望海ちゃん」
月澤春和(つきざわ はるかず)「月澤春和です。よろしくお願いします」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「よ、よろしくお願いします!」
陽本棗(ひのもと なつめ)「ここじゃ何だから、レストランに行こうか。そこで俺たちの話をするよ」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「わかりました」

〇ファミリーレストランの店内
  俺たちは近くのファミレスに入ると、自分たちの身の上について話をした。そのうえで、里親という形で話を引き受けたいと伝える。
陽本棗(ひのもと なつめ)「というわけで、俺たちは君のパパになる覚悟はあるよ。勿論、望海ちゃんが嫌じゃなければだけどね」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「嫌じゃないです!まだ1時間も経ってないですけど、お二人ともいい人だし、改めてパパになってほしいって思いました!」
月澤春和(つきざわ はるかず)「ははは!そう言ってもらえて嬉しいよ。準備や手続きが必要だから直ぐには無理だけど・・・」
月澤春和(つきざわ はるかず)「望海ちゃんがそう言ってくれるのなら、僕たちは君のパパになるために、全力で努力をするよ」
陽本棗(ひのもと なつめ)「よし、なら今日は難しい話はこれくらいにして、俺たちにも望海ちゃんのこと聞かせてくれないか?」
陽本棗(ひのもと なつめ)「将来の娘のこと、俺たちももっと知りたいからな」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「はい!」
  こうして俺たちは互いの親睦を深めた。そして、里親になる準備を進めた。それは簡単なことではなかったし、大変なものだったけど
  俺たちに希望をくれた望海ちゃんのためを思えば、それは全然苦しいことでもなかった。

〇見晴らしのいい公園
  あれから数か月後、俺達はとある公園にピクニックにやってきた。
陽本棗(ひのもと なつめ)「望海。食べる準備ができたぞ」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「はーい!行こう、春パパ」
月澤春和(つきざわ はるかず)「うん」
  手を繋ぎながらこちらに駆け寄ってくる二人を、俺はレジャーシートの上から眺める。いい光景だ。
  俺が弁当の蓋を開けると、望海は目を輝かせながらそれを眺めた。
陽本棗(ひのもと なつめ)「望海、どれが食べたい?」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「からあげ!」
月澤春和(つきざわ はるかず)「これだね。はい、どうぞ」
遠阪望海(とうさか のぞみ)「ありがとう!望海、これ大好き!」
  ようやく叶った春の夢。この幸せな光景を俺は一生忘れないだろう。

コメント

  • 多様性を謳う社会の難題の一つが血の繋がらない親子関係の構築かもしれません。棗たちと望海のような理想的な縁組をどのように増やしていくかが、社会全体としても今後の大きな課題ですね。

  • この社会で「普通」に生きることに困難さを抱える棗さんと望海ちゃんの、細やかな心情描写と共感する様子が胸を打ちました。ラストの温かな家族光景がずっと続いてほしいと願ってしまいますね。

  • 生みの親、育ての親、両親の性に関係なく、子供にとって自分をどれだけ愛情を持って育ててくれるかがすべてなんだとあらためて思わせてくれるストーリーでした。のぞみちゃんが負った心を傷は、2人のパパのもとで癒やされていくでしょうね。

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