誰がための生贄

久望 蜜

読切(脚本)

誰がための生贄

久望 蜜

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〇西洋の円卓会議
  ザワザワ――。
  村人たちの陽気な声や、楽器の練習の音が聞こえてくる。明日はいよいよ、皆んなが待ちに待った祭りの日だ。
  私はそこで村長の娘として、重要な役割がある。
  だから、今日のうちから丁寧に身を清め、いつもより豪華な食事を用意された。
  ここしばらく雨が全く降らず、農作物が不作になりそうだというのに。
  しかし、村がどうなろうと、ここを離れる私には関係ない。断る理由もないから、ただ黙々と出された料理を食べるだけだ。
料理人「お味はいかがですか?」
  料理人が媚びるように訊いてきた。
メイ「ええ、いい味よ。 貴方にも食べてほしいくらい」
料理人「ひっ」
  ニッコリとつくり笑顔を返すと、小さく悲鳴を上げられた。全く失礼なことだ。
村長「メイ、あまり意地悪をいわないでやってくれ」
  村長がとりなそうとするが、それを無視する。
メイ「これを食べたら、散歩に行きたいわ」
村長「しかし、明日の儀式の準備が・・・・・・」
メイ「あら、今日は何をしてもいい日なんでしょう?」
  たたみかけると、彼は根負けしたようにため息をついた。
村長「ジェームズ、お前がついて行きなさい」
ジェームズ「はい」
  指名されたのは、村長の手伝いをしている少年だ。私と同年代で、仲がよかった。
  村長は、ゆくゆくはジェームズと私を結婚させて、家を継がせるつもりだったのかもしれない。
ジェームズ「行きましょう」
  彼はいつものように、優しくエスコートしてくれた。

〇荒野の城壁
  私たちは村をひとしきり歩き、外れまでやって来た。普段は草や木々が繁っている場所だが、地面は乾燥し、草も枯れている。
ジェームズ「いよいよ、明日ですね。その、怖くはないですか?」
ジェームズ「生贄なんて・・・・・・」
  そう。私は明日、生贄として殺されるのだ。祭りの最後に行われる儀式で。
  だから、最期によい思いをさせてもらえていたのだ。
メイ「いい伝えでは、雨が降らなくなるのは、村に祀られている神様が生贄を欲している合図」
メイ「数十年に一度、村人の誰かを生贄として捧げなければ、村に再び雨が降ることはない」
メイ「大丈夫、仕方のないことだって、わかっているから」
ジェームズ「メイ様は立派ですね」
  悲しそうに顔を歪めるジェームズを見ると、妙におかしく思えた。
メイ「何で、そんな顔をするの?」
メイ「私を儀式の生贄にするって、貴方が提案したことなのに」
  彼は、ハッとした顔をした。
ジェームズ「な、何のことですか? 僕は別に・・・・・・」
メイ「誤魔化しても無駄よ。 こっそり会議を聞いていたもの」
メイ「私はもともと孤児だから、生贄にはちょうどいいって」
  ジェームズが冷ややかに笑った。
ジェームズ「そこまで聞かれていたなら、とり繕えませんね」
ジェームズ「最初は貴女にとり入って婿養子になるつもりでしたが、貴女が村長の引きとった養子だと聞いて、考えを改めました」
ジェームズ「貴女が死んで、僕が新しく養子に入れば、家を乗っとれる」
ジェームズ「僕のこと、村長に告げ口しますか?」
メイ「別に。どうせ私は消えるのだから、関係ないわ。でも・・・・・・」
メイ「これで終わるとは思わないことね」
  私がニッコリと笑うと、余裕な表情のまま彼が頷く。
ジェームズ「肝に銘じておきます。 それより、そろそろ神殿へ参りましょうか」

〇神殿の門
  神殿まで来ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
  私は今夜から明日の儀式まで、ずっと神殿に閉じこめられる。そして、そのまま神に捧げられるのだ。
  神殿の前では、村長と上役たちがソワソワしていた。わたしの帰りが遅いから、逃げだしたかと不安になったのだろう。
  わざわざジェームズを見張りにつけたのに、心配症なことだ。
メイ「ご心配をおかけしたようで、ごめんなさいね」
村長「いや、無事に戻ってきてくれれば、それでよい」
  村長が少しバツが悪そうにしていると、村人が慌てて走ってきた。
村人A「村長、大変です! 食料庫から火が・・・・・・!」
  ドーン──
  突然、大きな爆発音がした。
村長「何があった!?」
メイ「どうやら、食料庫の隣りの小麦粉の保管庫にも、無事に引火したようね」
  私の言葉に、村長が驚いた顔を向ける。
村長「まさか、メイ・・・・・・お前がやったのか?」
メイ「ええ。さっきの散歩中に、火をつけたわ」
メイ「小麦粉も袋を裂いて、ばら撒いたかいがあったみたいね、ジェームズ」
ジェームズ「え?」
  ジェームズが困惑している。
村長「まさか、お前も共犯か!?」
ジェームズ「ち、違う! 僕は何も知らない!」
  村人たちにとり押さえられたジェームズが、狼狽している。
  それはそうだろう。彼は何も知らない。散歩中に彼の目を盗んで、全て私一人でやったことだ。
  実は、私は地球からの転生者だ。前世の不遇だった人生をやり直す機会を神様から与えられたのだが、今世も散々なものになった。
  そこで一矢報いるために、前世の記憶から粉塵爆発を試してみたのだ。
メイ「どうせ、わたしはいなくなるんだもの」
メイ「だったらこんな村、滅んでしまえばいい!」
メイ「食料がなくなれば、村人は飢えて死ぬだけだもの」
  私の言葉にその場の全員が凍りついた、その瞬間。
  ポツ、ポツ──
  空から、雫が落ちてきた。すぐにそれは大雨になった。
メイ「あら、恵みの雨ね。よかったわね、これで火が消える。空気が温められたせいかしら? それとも──」
  私の呟きの意味がわからず困惑する面々に、ニタリと笑いかけた。
メイ「村人全員が生贄になって、神様が喜んでいるのかしら?」

コメント

  • 少女が企てたとは思えないほど圧巻なラストでした。読み始めは、どうせわがままな村長の娘は、儀式だけやって自分の行きたい国へでも出ていくのかなあと思っていたら、生い立ちから生贄にされるまでの事が想定外で!とても読み応えありました。

  • 天才的頭脳…子供にして大人を皮肉にする感じが末恐ろしい…。
    この後村にいられなくなり旅に出て困ってる村を助けて回って…色々妄想できます!

  • もっとファンタジックな物語かと思っていたら、見事に裏切られました。とてもおもしろかったです。生贄と聞くと逃げ出したくなりますが、果敢に前日を過ごす少女って肝が座っているな~と思っていたら、肝が座っているという意味では、まあ、合っていました。着々と村人たちを苦しめる計画を立てていたとは。ジェームスも嫌なやつだなと思っていたら、やはり最後に幸せにはなれませんでした。雨が降るラストも秀逸でした。

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