私は、魔王に吸収された聖女です

jloo(ジロー)

私は、魔王に吸収された聖女です(脚本)

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〇魔王城の部屋
  私の一日は、平和への祈りから始まります。これは、三百年以上続けてきた大事な習慣。
  魔王に故郷であるレフルド王国を滅ぼされてから、心には闇が巣食い続けていました。
  何故、私だけが生き残ってしまったのか。
  その問いの答えは、魔王に見初められてしまったからに他なりません。
魔王ギリオス「イザベラちゃん、今日も其方は美しい・・・・・・」
  魔王、ギリオス。四足歩行で、蛇の様に長い胴体を持つ私の夫。
  私は、その一部として生きています。
  もう一度、分かりやすく言います。私は、魔王の胴体部分と一体化しています。
聖女イザベラ「それにしても、愛しの我が子たちは大丈夫でしょうか? 勇者の気配が近づいているとか言っていた気がしますが・・・・・・」
魔王ギリオス「はっはっは・・・・・・心配はいらないさ。私たちの子が、勇者などに遅れを取るわけが無かろう」
  ゼタ、オルガ、イオ。それが、愛しき我が子の名。
  魔王軍の幹部として魔族を統率し、私たちの悲願の為に大きな働きを成してくれています。
ゼタ「父ちゃん、大変だぜ!! 勇者のやつ、もう魔王城まで攻め込んできやがった!!」
魔王ギリオス「何だと、それは本当か・・・・・・ゼタ!!」
  息子ゼタが、玉座の前に駆けつけてきました。とうとう、勇者が魔王城に辿り着いたようです。
  私は、以前から考えていた計画を実行する時が来たと覚悟を決めます。
勇者アレキサンダー「魔王、ギリオス!! お前の悪事は、ここまでだ!!」
魔王ギリオス「来たか、勇者よ・・・・・・ここまでやって来たということは、命を賭ける覚悟が出来たということだな」
勇者アレキサンダー「当たり前だ。世界平和の実現のために、お前のような悪を蔓延らせておく訳にはいかない!!」
  ふと、勇者と目が合ってしまいます。
  彼は居た堪れないといった様子で顔を覆うと、こちらへ悲哀に満ちた表情を向けてきます。
勇者アレキサンダー「何とも、惨い仕打ちだ。今、その苦しみから解放してやるからな・・・・・・聖女よ」
  何と、彼は私のことを知っているようです。
  私がこんな姿になってから三百年は経つというのに、少し感動してしまいます。
イオ「はぁ~疲れた。ねぇ、夕ご飯の支度出来た?」
オルガ「いつも夕食を取る時間から、三十分近く過ぎてしまっています。このままでは、腹が背にくっついてしまいますよ」
  勇者の背後から現れたのは、娘のイオと息子のオルガ。相変わらず、緊張感の無い二人です。
  すっと勇者の隣を通り過ぎると、食卓に座り込み寛ぎ始めました。
勇者アレキサンダー「なっ、どういうことだ・・・・・・」
  勇者は、困惑気味です。でも、今はそれどころじゃありません。
  私は、兼ねての計画を実行することにしました。
聖女イザベラ「ほらパパ、キッチンに向かって? 夕食の準備を始めるわよ」
魔王ギリオス「え、はい」
  その名も『勇者の胃袋を掴んでしまおう作戦』です。
  勇者と言えど、食欲には抗えません。料理を食べさせてしまえば、こちらのもの。
イオ「ほぉら、勇者くんも諦めて座りなよ。料理が出来るまで、私たちとお話でもしようや」
イオ「ゼタも、早く座って! 行儀悪いよ!」
ゼタ「ち、イオ姉ちゃんは相変わらずマイペースだな。勇者が大人しく、話を聞くわけが無いだろう」
勇者アレキサンダー「そ、そうだ。お前たちは、世界を征服するために魔族を仕向けて街を襲っているんだろう!」
勇者アレキサンダー「それならば、勇者である俺のことも邪魔なはずだ! 戦う道理がある!」
オルガ「誰が、魔族を仕向けているですって・・・・・・? 失敬な」
勇者アレキサンダー「・・・・・・何?」
オルガ「魔族は、我々の意思とは関係なく人を襲います」
オルガ「それを力で屈服させて、街の被害を抑えているのです。感謝してもらいたいくらいですね」
オルガ「魔王が世界征服を目論んでいたのは、今から三百年も前のこと。今では、そんなこと微塵も考えていませんよ」
勇者アレキサンダー「し、信じられるか・・・・・・そんなこと!」
イオ「ま、別に信じなくてもいいけどね~。あ、それより料理が出来たみたいだよ~」
聖女イザベラ「はい、お待たせ。今日のメニューは、ミートソーススパゲッティよ」
勇者アレキサンダー「く、抗えない・・・・・・食欲には・・・・・・」
聖女イザベラ「勇者さん、遠慮せずに食べてください。この味なら、きっと気に入ってもらえるはずですから」
勇者アレキサンダー「・・・・・・いただきます!!」
  勇者はフォークを手に取ると、勢いよく麺を巻き取り口へと運びます。
  その表情を見て、ほっと一安心しました。
勇者アレキサンダー「うぅ・・・・・・お袋。守ってやれなくて、ごめんな・・・・・・」
  それは、彼にとってお袋の味だったようです。
  食卓を囲みながら、彼は両親が魔族によって殺されてしまったことを語ってくれました。
  その憎しみの対象はいつしか魔王ギリオスへとすげ変わり、彼は魔王討伐に人生の全てを捧げてきたそうです。
聖女イザベラ「そうだったのですか・・・・・・」
  私は勇者を胸元に引き寄せ、抱きしめます。
  その涙は、彼が今まで背負ってきた悲しみや怒りを全て物語っていました。
勇者アレキサンダー「俺が、間違っていたみたいだ。この一家団欒の様子を見たら、戦う気持ちなんて失せちまったぜ」
ゼタ「また、料理食べに来いや。いつでも、歓迎するぜ」
勇者アレキサンダー「ああ、そうするよ」
  勇者は、背を向けて去っていきます。
  その背中を見て、私は世界平和という悲願に一歩近づいたと・・・・・・そんな、気がしたのです。

コメント

  • 物理的に胴体部分が一体化というのがどんな感じなのか見てみたいような怖いような。寝返り打ったら潰されないのかとか、どうやって妊娠出産したのかとか疑問は尽きないけれど、読者も食欲には抗えないので、魔王の茹でたパスタが食べたくなって読了しました。

  • すごい世界観だ!! と思ったら、
    そこから一転コミカルな、そして料理の世界に突入。
    ファンタジーと料理、ふたつの世界観を味わえる一度で二度おいしい作品ですね😲

  • 衝撃でした笑 まず魔王の一部という設定から衝撃を受けましたが、魔王に取り込まれて、てっきり計画というのは勇者側の作戦かと思いきや、まさかの勇者の胃袋を掴む!とても斬新な内容だと思いました!子ども達それぞれの性格や行動がバラバラでファミリー感を感じて面白かったです!

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