ヒーロー志望(脚本)
〇簡素な一人部屋
俺が、自宅に引きこもってから1週間──
ピンポーン!
戸田(誰だよ、こんな時間に)
???「戸田先輩、いますか!?」
戸田(この声、湯川?)
???「先輩、いるなら返事をしてください! 先輩・・・先輩!」
──ガチャッ
湯川「いた・・・っ!」
「うわっ」
「よかった・・・生きてた!」
「湯川、落ちついて! とりあえず離れて!」
湯川「す、すみません! 抱きついたりして」
戸田「いや、それより、その・・・ なんでうちに?」
湯川「先輩、今週ずっと大学休んでますよね?」
戸田「あっ、ええと・・・」
湯川「隠しても無駄です。 すでに確認しました」
湯川「演劇の練習だけじゃなく ゼミも休んでるって」
湯川「どうしてですか? 何かありましたか?」
戸田「いや、特には・・・」
湯川「嘘です。 先輩、痩せましたよね?」
戸田「これは・・・ 食欲がないだけで・・・」
湯川「今もですか?」
戸田「えっ」
湯川「おかゆなら食べられますか?」
戸田「まあ、それくらいなら・・・」
湯川「じゃあ、作ります!」
戸田「えっ、いいって・・・」
湯川「いいんです! 私が作るおかゆ、おいしいですからね!」
戸田「あっ、ちょっと・・・」
戸田(なんだか夢みたいだ)
戸田(湯川が、俺の部屋にいる)
戸田(俺が、引きこもっていたせいで──)
〇血しぶき
「・・・っ」
〇簡素な一人部屋
戸田(ダメだ、帰らせないと!)
戸田「湯川、おかゆとかいいから!」
「大丈夫ですよ。 すぐできますし・・・」
戸田「そうじゃなくて・・・っ」
戸田(湯川が俺と親しいって・・・)
戸田(「アイツ」に誤解でもされたら・・・)
湯川「先輩、何があったんですか」
湯川「おねがいです、話してもらえませんか?」
湯川「どんなに誤魔化してもわかります」
湯川「先輩のこと、ずっと見てきたんです」
戸田「えっ」
湯川「あっ、おかゆできましたね」
湯川「今、持ってきます」
戸田(俺のことを見てた? 湯川が?)
戸田(いやいや、そんなの 同じ演劇サークルの 仲間としてであって・・・)
湯川「お待たせしました! たまごのおかゆです」
戸田「・・・ありがとう」
戸田「じゃあ、その・・・いただきます」
戸田(そういえば俺 最後にごはん食べたのいつだっけ)
〇血しぶき
あれから・・・
「アイツ」に出くわしてから・・・
ずっと食欲がなくて・・・
〇簡素な一人部屋
戸田「でも、このおかゆなら 食べられる気が・・・」
「ゲホ・・・ッ」
湯川「先輩? どうしましたか?」
戸田「えっ、ええと・・・なんでもない・・・」
湯川「嘘です! お椀貸してください!」
戸田「あっ、こら・・・」
湯川「・・・うわ、甘っ! まずっ!」
湯川「すみません、私・・・ 塩と砂糖、間違えて・・・」
戸田「大丈夫! 甘くても食べられるから!」
湯川「でも・・・っ」
戸田「うまい・・・ほんとうまい! 甘いおかゆ、けっこういけるな!」
湯川「・・・・・・」
湯川「先輩・・・私、やっぱり知りたいです」
湯川「先輩が今、何を隠しているのか」
湯川「言いにくいですか? だったら私の一番の秘密を暴露します!」
湯川「好きです」
湯川「戸田先輩のことが好きです!」
湯川「大好きです!」
戸田「湯川・・・」
湯川「今、私の一番の秘密を打ち明けました」
湯川「だから聞かせてください! 先輩の秘密を・・・」
戸田「・・・」
戸田「最近さ・・・このあたりで 連続通り魔事件が発生しているだろ」
戸田「俺、実は1週間前に──」
〇歩道橋
戸田「ふんふんふーん・・・」
???「きゃああああっ!」
戸田「えっ・・・」
戸田「えっ・・・!」
戸田「えっ・・・・・・」
〇簡素な一人部屋
湯川「つまり、先輩は 犯人に会ったんですね?」
戸田「ああ・・・」
湯川「顔は見ましたか?」
戸田「いや、はっきりとは・・・」
戸田「ただ男で、左手に傷があった」
湯川「傷が・・・」
戸田「もちろん警察に通報しようと思ったよ!」
戸田「けど、もしそれでも犯人が 捕まらなくて・・・」
戸田「逆に、俺がチクったこと 犯人にバレたらって・・・」
戸田「俺の顔、絶対見られてたし・・・」
戸田「それで・・・それで・・・」
湯川「だから、ずっと 引きこもっていたんですね」
戸田「ああ、情けない話だろ?」
戸田「俺、戦隊モノのヒーローに憧れて 演劇をはじめたのに・・・」
戸田「本当はこんなヘタレで・・・」
戸田「警察に通報すらできなくて・・・」
戸田「ほんと・・・ヒーローなんて程遠い・・・」
湯川「先輩、これを読んでください」
戸田「これ・・・」
湯川「次回の、公演用の台本です」
湯川「このなかの「正義のヒーロー」── モデルは先輩です」
戸田「俺!?」
湯川「私が知っている戸田先輩は 正義感にあふれる人です」
湯川「とっても勇気のある人です」
湯川「今、引きこもっているのも 犯人が怖いからじゃない」
湯川「自分の勇気のなさを 受け入れられないからじゃないんですか?」
湯川「だったら勇気を出しましょう」
湯川「警察にいって 犯人を見たって伝えましょう!」
湯川「なんなら私も着いていきます」
湯川「ふたりなら安心でしょ?」
戸田「湯川・・・」
戸田「そうだよな・・・ やっぱり通報するべきだよな」
戸田「ありがとう なんか勇気出てきた・・・」
湯川「じゃあ・・・」
戸田「でも、このおかゆだけは食わせて」
湯川「そんなの・・・」
戸田「いいから」
戸田「せっかく湯川が作ってくれたものだろ」
湯川「先輩・・・」
〇空
そんなわけで
久しぶりに俺は靴を履いた
「なんか緊張するな」
「大丈夫です、外に出るだけですよ」
〇住宅地の坂道
戸田「はぁ・・・・・・ 久しぶりの外・・・・・・」
戸田「え・・・」
戸田「えっ・・・」
戸田「・・・っ」
戸田「あぶない、湯川!」
〇血しぶき
「ぐ・・・っ」
「先輩・・・先輩!?」
「大丈夫・・・か・・・?」
「先輩、ダメ・・・・・・ ・・・・・・べら・・・・・・で・・・・・・」
(ああ、声が遠い・・・)
〇黒
でも、俺・・・
湯川を守れた・・・よな?
正義のヒーローに・・・
なれた・・・かな・・・?
〇住宅地の坂道
「はー、やっと始末できたね」
謎の男「こいつも俺の顔さえ見なけりゃな」
湯川「あ、顔は見てなかったって」
謎の男「・・・は?」
湯川「でも、手の傷は見てたから ま、これでよかったでしょ!」
謎の男(怖ぇ女・・・)
湯川「それにしても笑っちゃうな」
湯川「「ヒーロー志望」が「ヒーロー死亡」──」
〇黒
──なーんて
やっぱ、シャレになんないよねぇ
明るくなってから…ではなく夜のうちに警察へ行こうとした時点で嫌な予感がしました。
やっぱり!と思ったんですが、まさか彼女がこんな目に遭わせるとは。
なんか怖いですね。
湯川ちゃん最初はめちゃくちゃ先輩想いで行動力があって良い子だななんて思ってたら、こんな結末だったなんて、、、びっくりしました。
ひどいです、人の心をもてあそんで、最後のフレーズ、よくないですね。主人公の女の子の怒りがわいて来る、そして悲しくなるお話しでした。