ギゼルの診療録

式桜 苑之介

とある日のカルテ(脚本)

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式桜 苑之介

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〇古い本
  【診療録】
  ■氏名:シエロ・ゼノ
  ■症状:解離性同一症、人格整形依存症
  短期間で過度の人格整形を行った副作用により、人格が消失
  ■治療方法:人格切除術
  上書きされた人格を切除及び整形し、本来の人格に戻す方針

〇時計
  あと何回、君の人格を『整形』すれば
  僕は本物の君と再会できるのだろうか
  積み重なったカルテを整理しながら
  そんなことを考えていると
  1132回目の『君』が目を覚ました

〇殺風景な部屋
シエロ「あの・・・」
ギゼル「やあ、おはよう! よく眠れたみたいだね!」
シエロ「ここは・・・?」
ギゼル「そーんなことはどうでもいい!」
シエロ「?」
ギゼル「まずは僕の名前を呼んでみて♪」
シエロ「貴方の名前?」
ギゼル「ええー、まさか覚えてないのー?」
シエロ「ごめんなさい まだ頭がぼーっとしてて・・・」
ギゼル「ふーん、そっか」
  この様子だと、どうやら今回も失敗してしまったようだ
  だって『本物』の君が
  僕のことを覚えていないはずがないもの
シエロ「俺たちって知り合い・・・なんですか?」
ギゼル「うーん、どうだろうね?」
ギゼル「君が僕を知らないのなら、知り合いじゃないんじゃないかな」
シエロ「・・・」
ギゼル「まあいいや!」
ギゼル「とりあえず、君の健康状態を知りたいからいくつか質問に答えてくれ」
シエロ「その前に、ここがどこなのか教えてください」
ギゼル「君が僕の質問に答えてくれれば、僕も君の質問に答えよう」
ギゼル「何も、難しいことは何も聞かないから大丈夫さ」
シエロ「わ、分かりました」
  彼は渋々といったように頷いた
ギゼル「それじゃあ、まず1つ目の質問」
ギゼル「君の名前は?」
シエロ「シエロ・ゼノです」
  僕はいつも通りの質問を、いつも通り彼に投げかける
  手元のカルテに、合っている問には〇を
  間違った問には×を付ける、簡単な作業
  ■名前:〇
ギゼル「2つ目、年齢は?」
シエロ「15歳です」
  ■年齢:×
ギゼル「3つ目、家族構成は?」
シエロ「父と・・・弟です」
  ■家族構成:×

〇殺風景な部屋
  その後も僕は君に関する100以上の質問を投げかけ続けた
シエロ「あの、いつまで続くんでしょうか?」
ギゼル「長々と付き合ってくれてありがとう」
ギゼル「僕からの質問はこれで終了だ」
シエロ「じゃあ、次は俺の質問に答えてください」
シエロ「貴方は誰なんですか? 俺はなんでこんなところにいるんですか?」
ギゼル「僕は医者で君は僕の患者」
ギゼル「君は僕の病院に『人格整形』をするためにやってきた」
ギゼル「ここは君の病室、以上だ」
シエロ「以上って言われても、何もわかりません」
シエロ「そもそも『人格整形』って、なんですか?」
ギゼル「はぁ?」
ギゼル「今回の君はそんなことまで忘れているの?」
シエロ「今回の、俺?」
ギゼル「あーあ、まいったな・・・ せっかく成功に近づいていたと思っていたのに」
ギゼル「これじゃあ失敗中の失敗だよ」
シエロ「なんか、すみません」
ギゼル「いや、こちらこそごめん」
ギゼル「僕が早く本当の君を見つければ済む話なのだから」

〇雑踏
  ――2×××年
  顔や身体だけではなく、人格までもが自分の理想とするものに整形できる技術が生まれたんだ
  それが『人格整形』
  そして僕みたいに、それを生業とする医者が【人格科医】
  この技術はまだまだ世間では受け入れられていない
  けれど、もう少しすれば、当たり前になると思うよ
  顔や身体の整形だって、昔は受け入れられていなかったらしいしね

〇殺風景な部屋
ギゼル「ざっと説明するとこんな感じ」
シエロ「なるほど・・・それで、なぜ俺は人格整形なんてしたんです?」
ギゼル「なぜって、それはお前がっ!」

〇殺風景な部屋
  僕に好かれるために
  秘密で『人格整形』を繰り返し
  壊れてしまったからだろ?
  僕は、そんなこと望んでいなかったのに
シエロ「どう? これで君が望む俺になれたかな?」
シエロ「ギゼルの為なら俺、何でもするよ」
シエロ「俺に本当の俺なんてない ギゼルが好きでいてくれる俺が俺だから」
  僕はありのままの君が好きだったのに
  本当に、君は勝手な奴だ
シエロ「ギゼルが元の俺の方がいいって言うのなら」
シエロ「俺は元の俺に戻りたい」
シエロ「存在するかも分からない『本当』の俺に」
  だから僕はこうして
  君が僕のために作った人格を
  1ずつ剥がし、壊し、
  本物の君を『整形』しようとしている

〇殺風景な部屋
シエロ「俺が?」
ギゼル「いや、詳しい理由は何も知らないよ」
シエロ「本当に知らないんですか? 俺がなぜここに来たのか」
ギゼル「ああ」
シエロ「俺は貴方の患者なのに?」
シエロ「『人格整形』したいって言った俺に理由を聞かなかったんですか?」
ギゼル「・・・・・・」
ギゼル「僕の仕事は患者が望む人格に整形することだからね」
ギゼル「どんな理由で僕の所にやってきたかなんて、心底どうでもいいさ」
シエロ「そう、ですか」
  明らかに納得していない様子だったが、それ以上彼は何も言わなかった
ギゼル「他に何か聞きたいことは?」
シエロ「俺は、どんな人格を貴方に望んだんですか?」
ギゼル「それは答えられない質問だ」
ギゼル「患者がどんな人格を希望したかは、医者と患者との秘密だからね」
シエロ「俺は貴方の患者だ! 知る権利がある!」
  こいつはシエロじゃない
  だから、教えられない
  俺のことも覚えていなければ、自分が何のために『人格整形』をしているのかさえ忘れてしまっているのだから
  偽物と話すのは、時間の無駄だ
  早く眠らせて、次の『人格』を『整形』しよう
ギゼル「そんなに声を荒げないでくれよ」
ギゼル「少し健康状態も良くないみたいだから、栄養剤を打たせてもらうよ」
シエロ「えっ!?」
  僕は睡眠薬を彼の腕に打った
ギゼル「おやすみ、シエロ」
シエロ「何を・・・」
シエロ「っ・・・」
  眠りに落ちた彼を、綺麗にベッドに寝かせ手術の準備を開始する
ギゼル「次こそは、『本当』の君を作り出して見せるから」

〇古い本
  「願わくば、次のカルテが最後の1枚になりますように」
  僕はそう願いつつ、彼の頭にメスを入れた

コメント

  • すごく面白い発想で、ストーリーも面白くて引き込まれました。
    こんなことが本当にできるようになったら、世界から戦争や犯罪がなくなってほしいなあ。

  • 人格整形の技術、将来実現したときには、辛い環境で育った人達がトラウマから解放される手段となればいいなあと思いました。性格は年齢を重ねたり、出会う人で少しは変われたりするけど、人格を変えることはそう簡単ではないですよね。このお話から、プラスに色々と想像することができました。

  • すごくリアルですね。でも数百年後それよりもっと時間が経ったときには現実になっていそうなお話です。
    ありのままの自分てときに受け入れられないですよね。もっとあの人のように…と願ってしまうことも。
    もともとの彼に戻ることはできるのか続きが気になります。

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