「私、可愛いから」(脚本)
〇神社の本殿
獅子神さん「明日はもっと、可愛くなれますように!」
野間くん「今の・・・獅子神さん?」
獅子神さん「なんだ、同じクラスの野間くんじゃない」
野間くん「走り去ったのと逆の方向から!?」
獅子神さん「驚きすぎじゃない?」
野間くん「いや、急に出て来たからってのもあるけど」
野間くん「まさか、獅子神さんに名前覚えてもらってると思わなかったから」
獅子神さん「クラスメイトの名前と顔面はちゃんと把握してるから」
野間くん「顔面」
獅子神さん「まさか人に見られてしまうなんて。それも、よりにもよってクラスメイトに」
野間くん「結構おっきな声出してましたよ?」
野間くん「別に、言いふらしたりする気はないけど」
野間くん「でも、正直意外だね」
野間くん「獅子神さんは今でも充分・・・その・・・」
野間くん「か、可愛いのに」
獅子神さん「当然でしょ。私は、可愛い」
野間くん「自覚してるんだ!?」
獅子神さん「自覚とはちょっと違うかな」
獅子神さん「私は日々、可愛くあることを目標にしてる。努力してるから」
獅子神さん「だから、可愛いはずなの」
獅子神さん「ただ・・・」
野間くん「ただ?」
〇神社の本殿
獅子神さん「ここ、私の家なの」
獅子神さん「昔から神事の手伝いが多くてさ。ああいう場に、ずっと居たからかな」
獅子神さん「真顔が、へばりついちゃって。クセになってるの」
〇神社の本殿
野間くん「そうだったんだ・・・」
野間くん「で、でも! 皆はそんな獅子神さんのこと、「クール」とか「落ち着いてる」って言ってるよ」
獅子神さん「好意的な人はね」
獅子神さん「「鉄仮面」とか、「氷の女」て呼ばれてるのも知ってる」
野間くん「でも、そんなの──」
獅子神さん「そう、気にしない。気にしてない」
獅子神さん「妬みや嫉みは、口にした時点で相手への敗北宣言だから」
獅子神さん「私、可愛くなりたい。 もっともっと、可愛くなりたい。 だから忙しいの」
獅子神さん「私の信じる可愛いはね、なんでもできるの」
獅子神さん「だから運動は欠かさないし、勉強も手を抜けない」
獅子神さん「SNSで、トレンドチェックも欠かさない」
獅子神さん「自分で踊ってみて、動画上げたりもしてるよ」
獅子神さん「ダンスは完璧なんだけど。 やっぱり表情だけが可愛くならなくて・・・」
獅子神さん「仕方なく、家にあった連獅子の面をつけて踊ってるんだけど」
野間くん「獅子の面つけたJKが、お堂で踊ってる動画!? バズってるやつじゃん!」
獅子神さん「そう。たとえ顔を隠しても、私の可愛いはバズってるってわけ」
野間くん「いや、多分可愛いとかの問題じゃない」
獅子神さん「表情だけなの。 あとはここだけを制御できれば、私は更なる美少女の高みに至れる」
野間くん「本当に、問題は表情だけなのか・・・」
獅子神さん「・・・・・・」
獅子神さん「・・・ねえ?」
獅子神さん「随分と、コロコロ表情が変わるのね、君」
獅子神さん「驚いたり、笑ったり、悲しんでくれたり・・・」
獅子神さん「感情表現のプロなの?」
野間くん「いえ、全然アマチュアですけど」
獅子神さん「んんー・・・」
野間くん「どうしたの?」
獅子神さん「悲しい時の顔をしているのだけど」
野間くん「分かりにくい!」
野間くん「あ、今一瞬怒ったのは流石にわかったよ!」
野間くん「でも表情じゃなくて、オーラ的な感じで分かったけど」
獅子神さん「アマチュアレベルに一刀両断されるなんて・・・」
獅子神さん「いと口惜しや」
野間くん「やっぱ表情以外も気になるんだよなぁ」
獅子神さん「んごごご・・・」
野間くん「うわぁ、試されている・・・」
野間くん「お、驚いてる顔かな!?」
獅子神さん「楽しい時の顔・・・」
野間くん「楽しい時に、そんな地鳴りみたい声出さないよぉ」
野間くん「逆に、今怒った顔って作れる?」
獅子神さん「今・・・やってるけど、どう?」
野間くん「へへへ・・・」
獅子神さん「私に、そういう表情のレパートリーはないみたい」
野間くん「う〜ん、声に感情は乗ってるのになぁ」
野間くん「確かに。 これはもう、神様に頼った方がいいレベルかもね」
獅子神さん「神様に? そんなことはしないわ」
野間くん「だって、神頼みしてたじゃん!」
獅子神さん「あぁ・・・あれは違うわ」
獅子神さん「あれは頼んでるんじゃない。 神様に、誓いを立てているの」
獅子神さん「確かに、神様に願いを叶えていただく。そのためにお参りに来る方は多い」
獅子神さん「でもね、私が毎日お参りしているのは、叶えてほしいからじゃない」
獅子神さん「私が、私自身の力で願いを叶えるまで、私がサボらないように見張ってほしいだけ」
獅子神さん「ガラスの靴には、興味ないの」
野間くん「んごごご・・・」
獅子神さん「野間くん? 君も地鳴りボイスが出てるけど、どういう感情なのソレ」
野間くん「えっと・・・アマチュアの僕が、初めて経験する感情だから」
野間くん「なんて名前が付いてるか分からないんだけど、」
野間くん「可愛くなることにストイックな獅子神さんは、可愛いというか・・・」
野間くん「好きだなって思った」
獅子神さん「お、え、あ・・・」
野間くん「あ、表情! 表情変わったよ獅子神さん!」
野間くん「ちゃんと表情変わるじゃん!」
獅子神さん「野間くん、さてはあなた・・・」
獅子神さん「感情操作のプロね?」
野間くん「だからアマチュアだって」
獅子神さん「感情操作は否定しないんだ!?」
私、可愛いので! っていう、いわゆるぶりっ子や高飛車じゃなくて、努力して本当に悩んでいるところが、すごく好感持てました😆