カズとの約束(脚本)
〇大きい交差点
目の前には、血だらけの男が倒れている
誰の目にも明らかだ
彼はもう、死んでいる・・・
それを物語るように、彼の体はひしゃげ
おびただしい量の血が流れている
カズ「俺がやったんだ」
俺「っ・・・」
カズ「二人だけの、秘密だからな」
カズは、ガキの頃と変わらない
屈託のない笑顔でそう言った
俺とカズは幼馴染だ
大人になった今でも、俺たちは固い友情で 結ばれている
俺「あぁ・・・わかった 秘密にするよ」
カズの頼みに、俺はそう言うしかなかった
それ以来、カズとは疎遠になった
とはいえ、1年に1回は2人きりで酒を飲むそんな仲だった
どうしてカズがそんなことをしたのか
俺には理解できなかった
カズの身勝手な行為を
俺は決して肯定できない
それでも、2人だけの秘密だと約束したから──
──10年経った今も、俺はこの秘密を誰にも明かしていない
〇墓石
俺は今日、墓参りに来た
カズが眠る墓だ
墓の前には、カズの奥さんがいた
カズの奥さん「毎年、ありがとうございます」
カズの奥さん「きっと主人も、喜んでいると思います」
俺「いや、これは俺の楽しみでもあるので」
俺「カズとの酒盛りは楽しかったから」
すると遠くの方から
小さな子供の声が聞こえた
カズの息子「ママー! お花持ってきたよ!」
カズの奥さん「あら、ありがとう」
カズの奥さん「こちら、パパのお友達の方よ ご挨拶して」
カズの息子「あ、こんにちは」
俺「こんにちは このお花は、君が用意したのかい?」
カズの息子「うん 僕が一生懸命育てたお花を、パパにも見て もらいたくって」
俺「そうか・・・ きっとパパも、喜んでいると思うよ」
カズの息子「うんっ!」
そう言ってカズの息子は
摘み取ったアサガオの花を墓前に添えた
俺「大きくなりましたね、お子さん」
カズの奥さん「えぇ・・・」
カズの奥さん「主人にも、この子の姿を見てもらいたかったんですけど・・・」
俺「あれから、10年が経ちますか・・・」
カズの奥さん「はい、あの子がまだお腹にいた頃で──」
カズの奥さん「──あの頃は私も主人も余裕がなくて そんな時に、交通事故に遭うなんて・・・」
カズの奥さん「金銭的には余裕ができましたけど・・・ それでも、あの子にはやっぱり父親が必要なんじゃないかって思う時もあるんです」
俺「そうですか・・・ 俺にできることがあれば、何でも言ってください」
カズの奥さん「ありがとうございます」
2人の間を流れる沈黙を
カズの息子の元気な声がかき消した
カズの息子「ママ! パパとおしゃべりしてきたよ!」
そう言って母親の手をぎゅっと握った
カズの奥さん「良かったわね」
カズの奥さん「それでは、私たちはこれで失礼します」
2人は軽くお辞儀をして立ち去った
カズの息子は、小さな手をこちらに向けて振っていた
俺は小さく手を振りかえした
そして俺は、カズの墓の前に座り込み 買っておいたカップ酒を供えた
カズ「まだ、秘密を守ってくれてるみたいだな」
俺「あぁ・・・ 俺とお前、2人だけの秘密だからな」
カズ「こっちで飲む酒も格別だ」
カズ「また来年も、こうして会えるといいな」
笑顔のまま、カズはスゥッと彼方へ消えていった
俺「ばかやろう・・・」
俺は力無く、カズの眠る墓を殴った
友達の死後もなお約束を守り続けてる彼はすごいですね。
誰かに話して楽になりたい時もあっただろうと思います。
そんな二人の友情が素敵です。
カズが何故に人を殺めたのか、何かそうする理由があったのだろうと物語から感じられますね。家族や友人、大事な人のためなのか。。そんなことを想像できる”余韻”があっていいですね。
2人だけの秘密ってお互いが生きているうちは共有できて絆が深まるけれど、どちらか一方がこのカズさんのようになくなってしまったら、内容によっては、ひとりでこの現実世界で背負っていくのは重いよなぁと思った。いやでも確かに秘密は秘密のままにしておいたほうがいいものもある。このカズさんの妻や子どもさんのためにも。