風邪

鍵谷端哉

読切(脚本)

風邪

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〇可愛らしい部屋
久美(私は昔から病弱で、なかなか学校にも行けなかった)
久美(最初はこんな体の自分が嫌だったけど、今では、嫌だと思う気持ちと、この体で良かったと思う気持ちが半々になっている)
昇司「よお、久美!体調はどうだ?」
久美「ちょっ!昇ちゃん、女の子の部屋にいきなり入って来ないでよ」
昇司「ん?ああ、すまんすまん。おばさんがいいっていうから、つい、な」
久美「もう、お母さんったら・・・」
昇司「それより、ほら、今日の宿題、持ってきたぞ」
久美「うっ!余計具合悪くなるんだけど」
昇司「何言ってんだよ。そんなんじゃ、進級できないぞ」
久美「いや、小学校じゃ留年はしないよ」
昇司「勉強が付いていけなくなったら同じだろ。ほら、教えてやるから一緒にやるぞ」
久美(4年生のとき、一緒のクラスになった石倉昇司くん)
久美(クラス委員で、学校を休みがちな私に気を使ってくれる。それは進級してからも変わらなかった)

〇可愛らしい部屋
久美「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
昇司「おはよう、久美、具合はどうだ?」
久美「・・・ もう、急に入って来ないでって・・・ え?あれ?昇ちゃん、なんでここにいるの?」
昇司「ん?なんでって言われても・・・ お見舞い?」
久美「いやいや。だって、今日、遠足じゃ・・・」
昇司「そうだな」
久美「早く学校に行かないと」
昇司「いいんだよ。遠足ってことは、授業がないってことだろ?なら、サボっても問題なし!」
久美「で、でも・・・」
昇司「俺、歩くの好きじゃないんだよ。サボる口実できて、ラッキーって感じだな」
久美「・・・ ・・・」
昇司「それに、ほら、遠足ならここでもできるし」
久美「・・・ 昇ちゃん。遠足ってお菓子を食べることじゃないよ?」
昇司「そうなのか?まあ、細かい事は気にすんなって」
久美(昇ちゃんは私が学校の行事を休むことになったら、必ず私のところに来てくれる)
久美(そして、その行事で昇ちゃんと一緒に過ごしていたはずの時間を、私の部屋で過ごしてくれるのだ)
久美「でも・・・ いいの?クラス委員が遠足サボって」
昇司「ん?俺、もうクラス委員じゃねーぞ」
久美「え?そうなの?」
昇司「あんな面倒なの、3年連続でやれるかよ。今年は勘弁してください、って言ってやったよ」
久美「もしかして・・・私のせい?」
昇司「・・・ 俺の話聞いてたのか?」
久美(クラス委員だった頃も、たびたび、学校の行事をサボったことで、昇ちゃんは先生に怒られていた)
久美(・・・ 今年はクラスに迷惑がかからないように、クラス委員をやらなかったんだ・・・)
久美「ごめんね、昇ちゃん」
昇司「いや、だから、なんでお前が謝るんだよ。それよりほら、お菓子食うぞ」
久美「・・・ いや、風邪なのにお菓子って。ダメだよ」
昇司「あっそ」
久美「・・・ や、やっぱりちょうだい」
昇司「ん、ほら。好きなの取れ」
久美(昇ちゃんは、いつも私に優しい)

〇可愛らしい部屋
昇司「久美、どうだ?調子は?」
久美「大分いいよ。今日は念のために休んだだけだから」
昇司「念のため?」
久美「だって、一週間後でしょ。修学旅行。絶対休みたくないんだ」
昇司「・・・ そうだな。それより、お前、自由時間にどこに行くか決めたのか?」
久美「あっ!」
昇司「ったく。そんなんだと思ったよ。ほら、色々パンフレットとか貰ってきたから、どこ行くか、決めようぜ」
久美「うん」
久美(修学旅行。小学校の最後の思い出)
久美(・・・ おそらく、中学校は違う学校に行くから、昇ちゃんとの思い出も、これが最後になるんだと思う)
久美「ここに行きたいなー。あ、ここもいい!ああー、ここも!」
昇司「久美。楽しみなのはわかるけど、前の日に楽しみ過ぎて熱出すとかならないようにしろよ」
久美「あははは。小学生じゃあるまいし」
昇司「いや、小学生だろ」
久美「大丈夫ですー!当日は絶対熱なんか出しません― !出ても、這ってでも行きますー」
昇司「うーん。フラグのようにしか聞こえないな」
久美「・・・ ねえ、昇ちゃん」
昇司「ん?」
久美「もし、さ。もし、私が当日、熱出て、休むことになっても、昇ちゃんは行ってね。修学旅行」
昇司「・・・ ああ。わかった」

〇可愛らしい部屋
久美(フラグが立つと、必ず回収してしまう。それが私だ)

〇可愛らしい部屋
久美「はあ・・・はあ・・・はあ・・・ 。今頃、昇ちゃんは出発したかな・・・」
久美「・・・ 行きたかったな・・・修学旅行・・・」
昇司「よお、久美。体調はどうだ?」
久美「え?昇ちゃん、なんで?なんで、ここにいるの?」
昇司「なんでって言われても・・・ お見舞い?」
久美「バカ!どうしてよ!行ってって言ったじゃない!どうして・・・ 。修学旅行なんだよ?」
昇司「俺、旅行、あんまり好きじゃないんだよ。それに、修学旅行なら、ここでもできるしな」
久美「できるわけないじゃない!」
昇司「甘いな。この前持ってきたパンフレットあるだろ?あれを見ながら、行った気分になるんだよ」
久美「・・・ バカ、バカ、バカ・・・」
昇司「自覚してるから、あんまり言うなよ」
久美「もう、私嫌だよ。私、こんな風邪ばっかりひく体、嫌・・・」
昇司「・・・ ・・・」
久美「どうして?どうして、昇ちゃんはそこまでしてくれるの?」
昇司「・・・ それはきっと、俺も、風邪だからだよ」
久美「え?」
昇司「・・・ その・・・ 恋っていう・・・ 病」
久美「・・・ ぷっ。あはははははは」
昇司「ちょ、おまっ!笑うなよ!」
久美「ふふふ。・・・ 昇ちゃん。私もね、ずっと、ずーっとかかってたよ」
久美「恋の病。この先もずーっと、ずーっと。きっと治らない病」
昇司「・・・ そっか。お互い、病弱だな」
久美「うん。そうだね」
  終わり。

コメント

  • とっても可愛らしい恋模様ですね。見ていて微笑ましくなると同時に、ちょっぴり気恥ずかしくもなります。ステキな未来も感じさせてくれますね。

  • ほんわか温かくなるお話。
    病弱な子は、何故か行事の度に体調崩す。記念写真に残らないのが可哀そうと思う。優しい子同士仲良くね。

  • なんていい子なの…。
    そして照れ臭くなるところがまた可愛らしい…。
    大事な行事よりも、好きな子のそばにいたいという気持ちは、学生の頃だったら感じていたかもしれません!

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