しあわせ しあわせ(脚本)
〇赤い花のある草原
マルール「死ねぇっ!」
マルール「父と母を返せっ!」
サリュ「大変です!お嬢様が刺されました!」
サリュ「あいつを捕まえて!」
マルール「くっ・・・」
マルール「お前のせいで・・・私達家族は・・・」
ボディーガード「小娘!暴れるな!」
マルール「私は幸せになりたいんだっ」
マルール「お前さえ死ねば、この國なんてなければ私達は・・・」
ボディーガード「死ぬのは貴様だ」
マルール「うっ・・・」
オリ「や・・・めなさい・・・殺してはダメ」
サリュ「お嬢様、ジッとして下さい」
ボディーガード「気絶させただけです。すぐに死刑にするのでご安心を・・・」
オリ「やめなさい・・・と言っているでしょう・・・」
オリ「これは命令よ」
ボディーガード「・・・はい」
サリュ「お、お嬢様!目を開けて下さい!」
サリュ「こいつは私が。貴女はお嬢様を早く城へ!」
ボディーガード「は、はい!」
サリュ(マルール・・・?)
〇宮殿の部屋
サリュ「やっと目が覚めた!」
オリ「あの子は?」
サリュ「お嬢様を刺した子娘なら地下牢に」
オリ「ここに連れてきて」
サリュ「何故です!?あんな危険な奴ー」
オリ「命令よ。連れてきなさい」
サリュ「っ・・・」
ー数分後
サリュ「連れてきました」
オリ「ありがとう。サリュは部屋に戻りなさい」
サリュ「・・・はい」
オリ「貴女、名前は?」
マルール「・・・」
オリ「んー、じゃあチビちゃん!」
マルール「・・・マルール」
オリ「マルール。なぜ貴女は私を殺しにきたの?」
オリ「まあ答えたくなければ答えなくてもー」
マルール「5年前、15の姉と3つの私を残し父と母は幸せを求めてこの國へ向かった」
マルール「「貴女達の幸せの為だから」「すぐ帰るから」と言って」
マルール「だけど彼らが私達を迎えにくることはなかった」
マルール「姉も私が6歳の頃に誘拐されて・・・どこかに」
オリ「2人は本当にこの國に来たの?」
マルール「それは分かんないけど・・・この國が無ければ私達家族はずっと一緒にいれたのに」
マルール「私は家族がいれば幸せだった!この國が私から幸せを奪ったんだ!」
オリ「そう。ごめんなさい」
マルール「うわぁん。父と母はここにはいないのか・・・?」
オリ「それは分からないけれど、この國が貴女を不幸にしたのならそれは私の責任よ」
オリ「この國の王は私だから」
オリ「そうだ!私が貴女を幸せにしてあげる!」
マルール「え?」
オリ「だってここは幸せの国だもの」
オリ「その代わり、貴女が幸せになる事が出来たら、私の願い事を1つだけ叶えて欲しいの」
オリ「約束、できる?」
マルール「私が幸せになれたら、な」
〇西洋風の部屋
オリ「おはよう!今日から私が貴女を幸せにしていくわよ!」
マルール「こんな早朝から何事だ!?」
オリ「マルールにとっての『幸せ』を教えて!」
マルール「私の幸せは」
マルール「家族みんなで・・・」
オリ「あ、それは無理!次!」
マルール「む・・・」
オリ「さあ、次は?」
マルール「み、水が飲みたい」
マルール「温かいご飯」
マルール「ふかふかのベッド・・・」
オリ「それじゃあ、今日から私と一緒に寝ましょ!」
マルール「ふわぁっ!?」
〇貴族の応接間
オリ「さあ、次の幸せは?」
マルール「ケーキ・・・」
マルール「ケーキって三角じゃないのか!?」
マルール「こんなの初めて見たぞ」
オリ「幸せ?」
マルール「ふんっ、別に」
マルール「はむっ」
マルール「口の中がふわぁ~ってなって甘いのがもくもくする!」
オリ「ふふっ」
〇宮殿の部屋
マルール「わ、ケーキみたいにふわふわなベッド!」
オリ「このベッドは貴女の物よ」
マルール「夢みたい・・・ふわふわ、ふわ~」
オリ「この國で、幸せになれそう?」
マルール「それはまだ分かんないっ!」
マルール「ずっとこの生活が続くなら、幸せになれるかも・・・だけど」
オリ「続くわよ。貴女が望む限り」
マルール「すやー・・・」
オリ「貴女が幸せになるまで、ずっと、ずっと・・・」
〇上官の部屋
――それから月日は流れ
マルール「オリ、いつまで仕事をしてるんだ。そろそろ寝る時間だぞ」
オリ「先に眠ってて。まだ仕事が残っているから」
サリュ「お嬢様。次の方が参りました」
オリ「入りなさい」
ルルロ「オリ様!私今、人生で一番幸せなんです!」
ルルロ「彼氏との結婚も決まって、お腹に子供も出来て」
ルルロ「だから、このまま『幸せの國』に連れて行って下さい」
オリ「サリュ、彼女に入国証を」
サリュ「はい」
ルルロ「ありがとうございます!これで私も永遠の幸せを手に・・・!」
マルール「毎日毎日他人の幸せ自慢ばかり聞いて楽しいのか?」
オリ「どうかしら。マルールは幸せ?」
マルール「久しぶりだな、その質問」
オリ「幸せ?」
マルール「ああ、オリのおかげでな」
オリ「それじゃあ・・・そろそろ私の願い事を叶えてくれる?」
マルール「?」
〇赤い花のある草原
マルール「突然どうしたんだ?散歩なら明日でも」
オリ「今がいいの。明日もマルールが幸せだなんて保証どこにもないから」
マルール「私はきっと明日も幸せだと思うがな」
オリ「ねえ、なぜこの國が『幸せの國』なのか知ってる?」
マルール「そりゃ、オリがみんなを幸せに」
オリ「ぶっぶー。正解は」
オリ「幸せの絶頂で、国民の人生を私が終らせるから」
マルール「は・・・?」
オリ「みんな必死に幸せを報告しに来るでしょう?」
オリ「『オリ様に幸せだと認められると『永遠の幸せの國』に入国させて貰える』って彼らは信じてる」
オリ「でもね。その先にあるのは、し―」
マルール「もういい。そんなの聞きたくない」
マルール「オリは、ずっと一人で人々を幸せにしてきたのか?」
オリ「うん」
マルール「それじゃあ、オリの幸せは?」
オリ「私の幸せは、もちろん国民と一緒」
オリ「幸せの絶頂で、人生を終わらせたい」
マルール「それが本当にオリの幸せなのか・・・?」
オリ「うん。ずっと考えていた答え」
マルール「そう・・・か」
オリ「マルールの幸せそうな顔を見るのが好きだった」
オリ「いつの間にか、貴女の幸せが私の幸せになっていた」
オリ「だから、貴女が幸せな今、終わりたいの」
オリ「ねえ、私を幸せにしてくれる?」
マルール「凄く凄く嫌だけど」
マルール「約束は、守る」
マルール「他の誰かがオリを幸せにするくらいなら。私が、やる」
オリ「マルールならそう言ってくれると思ってた」
マルール「それでは・・・ー」
オリ「うん」
マルール「どうか・・・幸せに」
〇赤い花のある草原
マルール「私が幸せにならなければ・・・オリは・・・オリは・・・」
マルール「うわぁぁん・・・」
サリュ「よくやったわ、私の妹」
背後から現れたサリュがマルールを抱きしめる
マルール「え?」
サリュ「攫われたあの日から、ずっとこの時を待っていた」
サリュ「ウサギ共に虐げられる日々は終わり」
サリュ「次は、私達が幸せになる番」
サリュ「一緒に幸せになりましょ、マルール」
「幸せの絶頂で死ぬのが幸せ」というウロボロスの蛇のようなお話でしたね。まさかサリュの猫耳が伏線だったとは!登場人物の外見の可愛らしさに惑わされたけどお話の骨子は手の込んだ復讐劇で読み応えがありました。
幸せの國とは……、とても深いお話でした。
素敵なお話をありがとうございました。
各キャラクターが魅力的なうえ、重厚なテーマで読み応えある物語ですね!実生活でも「幸せ」と「幸せの先」について考えてしまいます