エピソード10(脚本)
〇都会のカフェ
一ヶ月後
とあるカフェの一角。
薬師寺は一人でPCに向き合い、イヤホンをして作業していた。
カフェ店員「お待たせしました。 ホットコーヒーでございます」
店員に軽くお礼を言って、薬師寺はコーヒーを飲み始める。
PC画面には「ドルドラV字回復へ 意外な舞台裏」と書かれたニュースがある。
コメント欄を読んでいると、記者会見の様子が動画から流れてきた。
〇オーディション会場
室井秀明「このたびは、私の不始末で皆様にご心配とご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」
室井秀明「・・・今回のドルドラの復活劇は、ひとえにドルドラを愛してプレイしてくださったユーザーの皆様のおかげです」
記者「一部報道では、あるエンジェル投資家からの資金調達が危機を救ったとありましたが、こちら事実でしょうか?」
室井秀明「それは半分正解で、半分不正解です」
室井秀明「大規模な資金調達で弊社の財政難が救われたのは事実ですが・・・」
室井秀明「その融資を行ってくださったのは、投資家ではなく、長年弊社のゲーム、ドルドラを愛してくださっていたユーザーの方です」
室井の発言に、会場がどよめく。
室井秀明「これ以上は、その方に迷惑がかかるといけないのでシークレットにさせてください」
室井秀明「繰り返しになりますが、今回の復活劇は、ひとえにユーザーの皆様のおかげです」
〇都会のカフェ
動画を眺めていると、薬師寺のスマートフォンに着信があった。
薬師寺透「記者会見、かっこよく映ってましたね」
室井秀明「社長ってのは会社の景気がいいと顔もよくなるんだ」
薬師寺透「じゃあ、景気いいんですか」
室井秀明「ああ、おかげさんでな。 それで・・・前言った話、考えてくれたか」
〇ゴシップボックス_ゴシップボックス・内(ライティング白)
青木谷さち「集まるのはかまわないとは言ったけど・・・なんでよりによってここなわけ?」
室井秀明「理由はあとで説明する。ここ、今は貸別荘としてイベントなんかに使ってるらしくてな、誰でも借りられるんだ」
田中あい「ここでイベントって、何をするんでしょうね」
薬師寺透「脱出ゲーム、とかじゃないですか」
青木谷さち「それはイメージが悪すぎるでしょ」
薬師寺透「でもまぁ、僕らも無事に出られたんですから、そこまで悪くはないんじゃないですか?」
青木谷さち「そういえば・・・会見で言ってたユーザーの方って、あれ薬師寺くんでしょ?」
室井秀明「ああ、そうだ」
田中あい「いくら投資されたんですか?」
薬師寺透「あぁ、それは・・・」
室井秀明「六億円」
「六億!?」
田中あい「それって、薬師寺さんが当たった宝くじの全額じゃないですか!」
青木谷さち「もっと、自分に残しとこうとか思わなかったの?」
薬師寺透「いや、まあ、思わなくはなかったですけど、あの部屋を出てから、親戚も家族もみんな僕に宝くじの話するようになって・・・」
薬師寺透「・・・ちょっとでも残したら喧嘩になるから、この際全部使っちゃおうって思ったんです」
薬師寺透「ちょうど、室井さんお金に困ってましたし」
室井秀明「まあ、それに薬師寺がやったのはうちの会社の株の購入だからな・・・金をドブに捨てたわけじゃない」
室井秀明「おかげで、こいつは今うちの主要株主の一人だ。社外取締役の席も用意するっつったんだが、こいつから断られた」
青木谷さち「なんで断るの? 取締役よ?」
薬師寺透「いや、まあ、僕はドルドラで遊べればそれでいいので・・・」
薬師寺透「自分が会社の中まで入っちゃったら、素直に楽しめなさそうじゃないですか」
室井秀明「相変わらず、変に素直なところあるよな」
青木谷さち「まあ、二人とも相変わらずでよかったけど・・・あなたは、だいぶ変わったわね」
田中あい「えへへ、おかげさまで」
薬師寺透「あの歌の動画、めちゃくちゃバズってますよね、なんでしたっけ・・・」
田中あい「『匿名SHINE(トクメイシャイン)』です!」
薬師寺透「あ、そうそう、匿名シャイン、すごいですよね」
薬師寺透「『二次元の、イケメンアイコンみんなカス♪』ってとこ、すごいキャッチーで覚えちゃいました」
田中あい「ありがとうございます、私もそこ大好きです♪」
青木谷さち「・・・ウィックも何もしてないところ見ると、もう普段からそんな感じなの?」
田中あい「そうですね♪」
田中あい「私、あの部屋のおかげでもう全然隠せなくなったので、もう、何も我慢しないでパフォーマーとしてやってこって思って」
室井秀明「今えらい人気みたいだな」
田中あい「思ってること何にも隠さず表現するようにしたら、あの配信で有名になっちゃったこともあって、みんなすごい応援してくれて♪」
田中あい「今度やる『ファンの人全員ビンタする会』も、チケット即完売です♪」
青木谷さち「そう、それは・・・よかったわね」
室井秀明「そういや、そういうあんたは、どうなったんだ」
青木谷さち「私? 私はねぇ、七人からフラれた」
薬師寺透「七人!?」
田中あい「元が多いから、フラれるときもダイナミックですね♪」
青木谷さち「まあでも、私的にはむしろ全然よかったんだよね。これ、私の新しい名刺」
『マッチング・アドバイザー ミドリカワ 幸』
田中あい「ミドリカワって・・・あ、お名前変わったんですね♪」
青木谷さち「うん、これが元々の名前だから、私的にはこっちのほうが全然しっくりくるんだよね」
薬師寺透「・・・このマッチングアドバイザーって、なんですか?」
青木谷さち「ほら私、あの配信で七人と同時に付き合ってるってバレちゃったじゃない?」
青木谷さち「あの後、SNSとかも特定されて、誹謗中傷みたいなメッセもバンバン飛んできたんだけど」
青木谷さち「悪口に交じって、『どうしたらそんなにたくさんの人と付き合えるんですか?』ってマジメに聞いてくる人が結構いたんだよね」
薬師寺透「そんな人が・・・?」
青木谷さち「うん。それで私、これだって思って」
青木谷さち「七人と同時に付き合えるってことは、それだけたくさんマッチングできる才能があるってことでしょ?」
青木谷さち「今の世の中、マッチングアプリで付き合うなんて当たり前だし、どうしたらマッチングできるか知りたい人って本当に沢山いるわけ」
青木谷さち「私、浮気するときにそのへんのコツは全部つかんだから、これ、社会に還元してこって思って」
薬師寺透「あぁぁ・・・なるほど?」
青木谷さち「やっぱりね、これからは何かを我慢する人じゃなくて、得意なことを好きにやる人が輝く時代だと思うの」
田中あい「私も、絶対そうだと思います」
青木谷さち「薬師寺くん、あなたもそう思うでしょ?」
薬師寺透「僕は・・・やっぱり、ハッチャケすぎるのも、我慢しすぎるのも良くないのかなって思いますけど・・・」
青木谷さち「薬師寺くん」
薬師寺透「はい?」
青木谷さち「無難すぎ。それじゃバズんないよ」
薬師寺透「・・・や、僕はバズんなくてもいいんですけど」
青木谷さち「やっぱりさ、みんな欠点見るんじゃなくて、得意なこと尖らせていかなきゃ、これからの時代は生き残れないんだよね」
薬師寺透「そう、なんですかね・・・」
青木谷さち「うん、だから過去の過ちじゃなくて、今何ができるかを考えるの」
青木谷さち「これが世の中をハッピーにする手段だし、人も社会もウィンウィンになる方法だと思うんだよね」
薬師寺透「はぁ・・・」
室井秀明「俺が今日する話は、そのウィンウィンになるための具体策ってとこだな」
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