研究員エマ・E・ユーイングの報告(脚本)
〇研究所の中
エマ「ふぅう」
研究員エマ・E・ユーイングは
報告書兼始末書を書きあげると吐息を漏らした
彼女のラボの自動ドアが開いた
報告書が書きあがったのを見計らったようにスキンヘッドの筋肉質の男が入ってきた
エマは男に報告書を手渡すと男はそれを一瞥していった
男「私は君の口からことの真相を聞きたいね」
エマのプライドをくすぐるサディスティックな発言に
エマは紺碧の瞳で男をにらんだ
一呼吸おいて気を取り直したエマは真相を話し始めた
エマ「デスゲームはその実 ユーザーの抱える潜在的なリスクを顕在化するアプリなんです」
男「しってる」
エマの研究を採決したのはこの男だ
エマ「えーこのプログラムをテストするにあたり 不確定性の高いプログラムの性質上」
エマ「その素性をあかしてリリースすることに抵抗がありました」
男「具体的に」
男は続きを促した
エマ「これはわが社が収集するビッグデータ 気象データなどの環境情報、人間の行動ログ等を利用して」
エマ「ユーザーの危機的状況を図示するアプリなのですが」
そういうとエマはモニターに地図を表示した
ファミリーレストラン「さざなみ」
を結ぶように赤い線が引かれている
エマ「例えばこれは被験者Aが遭遇しえた危機の一例なのですが」
男「トラックの軌跡だな」
エマ「そうなんです、このトラックを運転していた男は連日の超過勤務に加え、休日出勤」
エマ「この男の勤務実態、移動経路をトレースしていたプログラムは」
エマ「気象情報、交通情報などを加味しAとの接近を予測しAに警告を発したわけですが」
エマ「これを見てください」
エマは地図に新たなグラフを重ねた
地図に毛細血管が走る
エマ「えー、このようにあらゆるリスクを重ね合わせると 地図全体が赤くなってしまうわけです」
エマ「このような発生するかどうかわからないリスクに対して多数のユーザーが思い思いに行動すると」
エマ「地震や火事といった災害によってパニックになった群衆によって起こされる二次災害 のようなトラブルが予想されたわけです」
エマ「小石をよけたらマンホールに落ちたなんて言うトラブルもごめんでした」
エマ「そこで私は少数かつ秘密裏にテストを遂行するために ゲームの体を装ったわけです」
エマはにやけた
エマ「しかしながらわたしにリッチなゲーム体験を提供できるような手腕はなかったので」
エマ「趣向を凝らしました」
エマ「appストアの同僚にお願いして評価を常に★1にするように細工してもらうと」
エマ「乱雑な人口密集地を避けるようにしてリリースしました」
エマ「私の研究に快く協力してくれる もの好きな暇人を探し出そうとしたわけです」
男「しかし、だれにでも表示されるようにはなっていないのだろ?」
エマ「はい、これも私のシステムから参照して 比較的危険度の高い人物から優先的にリストアップしてもらえるようにお願いしました」
男はエマをにらみつけた
エマ「とにかくですね、これでゲームの段取りが整ったわけです」
エマは強引に話をつづけた
エマ「まず、ユーザーに実験参加への同意をもとめなければいけませんでしたが これは割とすんなりいきました」
エマ「そして規約1、死ぬまで消えないってやつですね これでプレイヤーをゲームに拘束しました」
男「しかし、削除できないアプリなんてすぐに騒ぎになるのでは?」
エマ「いやー、実際は消えるんですよ 初期化すれば サポートセンターに行けば不具合としてデータ移行手続きで 解決しちゃいますよ」
男はため息をついた
エマ「軽量なアプリだったんで気にせずそのまま常駐させて使っていた人も多かったみたいですが」
男「それで規約2、口外してはならないでどうなる」
エマ「これはユーザー数を増やすための仕組みですね」
エマ「事後承諾の形で」
男「しかし、噂を耳にしただけで アプリをインストールさせるなんてことはできないはずだ」
エマ「はあ、これはゲーム名の検索を条件にインストールさせるようにお願いしました」
またか、男はうんざりして先を促した
エマ「つまり比較的危機的状況が高く ゲームを認知しているユーザーから 優先的にゲームに参加するように仕向けたわけです」
エマ「これから被験者Aの行動をトレースします」
エマはモニターを切り替えた
エマ「Aはテスト期間の緊張から解き放たれると Bと一緒にオンラインゲームを始めました」
エマ「BはここでAにデスゲームのことを打ち明けたようです」
エマ「遊び終わると友達思いのAはゲームのことを友人知人問わず尋ね始めました」
エマ「Aはすでにゲームのことを知っていたわけですが これは学校のゲーム仲間からもたらされた情報でした」
エマ「探索の範囲を拡大したわけですね」
エマ「Bも探索し始めましたがAと比べて限定的でした」
エマ「そしてAは打つ手がなくなると探索をあきらめ」
エマ「テスト期間中に積んでおいた一人用新作RPGを遊び始めました」
男「馬鹿な、とうに日付をまたいでいるころあいだろう」
エマ「友達との約束と個人的な趣味 どちらを選択しますか?」
エマ「彼は両方を選んだわけです」
エマ「Aはそのゲームをよほど気に入ったのか12時間以上ぶっ続けで遊びました」
エマ「面白さは私が保証します」
そういうとエマはサブモニターにゲームのプレイ画面を映した
男は額を手で覆った
エマ「デスゲームはこじつけで これから遊び始めるゲームの内容を語りたかったのかもしれませんね」
エマ「そしてAは一睡もせず寒空の中自転車でファミレスに向かったわけです」
エマ「ファミレスで落ち合った二人はデスゲームについて話し始めます」
エマ「疲労困憊のAの危機的状況は天候、交通状況を因子にしだいに増大します」
エマ「プレイヤー自身のマーカーは他プレイヤーと表示される大きさが異なりますが」
エマ「ゲームの画面にもわかるほどAのマーカーは大きくなったわけです」
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