〇空
　　これは誰にも言えないことなのだけれど
　　実を言うと僕は人間だ

〇大きな木のある校舎
　　僕の通う中学校
　　そこには僕とはまるで違う、人の姿をした人外ばかりが通っている

〇教室
　　まずはクラスメイト
　　彼らはロボットだ
　　目まぐるしいテンポの会話の中、的確なジョークで周囲を楽しませる
　　誰かが悲しい顔をすれば明るい声で空気をなごませ
　　誰かが困っていたら即座に解決策を提示する
　　あり得ない思考速度に状況対応能力
　　それはきっと脳が機械化されているから
　　だからあんなにも日常を謳歌出来るに違いない
　　そんなクラスメイト達をまとめる教師は吸血鬼
　　難しい内容をスラスラと説明しながら、無知の僕らには分かりやすく伝え
　　年齢も趣味も違う生徒とだって気さくに談笑し
　　相談すれば親身になって耳を傾ける
　　身なりはいつもキッチリで、授業で忙しいはずなのにプリントの作成も怠らない
　　豊富な知識量に疲れ知らずのの働きぶり
　　不老不死だからいろんなことを知っているし体力も無限大
　　生徒を気遣うのだって、食物に対する慈しみだと考えれば納得出来る事だ

〇おしゃれなリビングダイニング
　　果てには僕の両親もだ
　　ロクデナシな僕に文句も言わず面倒を見てくれる二人は、神様か天使

〇テレビスタジオ
　　テレビの中の美男美女は外見から妖精なのは一目瞭然だし

〇綺麗な一戸建て
　　郵便を届けに来てくれるお兄さんは、翼が生えているから色んな所を回れて

〇商店街
　　商店街の八百屋さんは錬金術が使えるからいつも品揃えを絶やさない

〇空
　　どこを見渡したって、平凡な人間はいないのだ
　　きっと、なにも秀でたものを持っていないのはこの世界に僕だけ
　　そのことがバレてしまえば、僕が生きる場所はない
　　だから僕は、人間であることをずっと隠していた

〇男の子の一人部屋
クラスメイト「それが学校に来ない理由？」
僕「僕は何も出来ないから、人間だという事がバレて、生きてる価値がないと言われるのが怖いんだ」
僕「君だってきっと地底人か何かなんだろう!?」
クラスメイト「・・・・・・」
　　その沈黙はきっと失望なのだろう
　　彼女は、秘密を隠すために登校拒否をした僕へとプリントを届けに来てくれた
　　もちろん最初は、僕が人間であるということは伝えず、帰ってもらうつもりだった
　　けれど優れた人外である彼女に問い詰められれば、僕に口を塞ぐ術はない
　　きっと彼女は、僕が口を開かなくても地底世界の科学技術で自白させていたんだろうから
クラスメイト「あのさ・・・」
クラスメイト「それはただの自意識過剰だよ」
クラスメイト「君が人間なのは皆知ってるし、それと同じように皆も同じ人間だよ」
僕「そんなわけない！」
僕「だって、こんなにも何も出来ないのは僕だけで・・・」
クラスメイト「確かに君は大したことの出来ないヘタレで、登校拒否までした迷惑野郎だよ」
　　グサリッ！
　　他人から言われるとこんなに辛いとは・・・
　　やっぱり僕が人間であることは隠し通さなければいけない
　　そう決意した時、目の前の彼女は特徴的な赤い瞳で僕を見た
クラスメイト「けど、皆だって君が思うような出来た人達ばかりじゃない」
僕「そりゃあ皆は人間じゃないし・・・」
クラスメイト「・・・ウザ」
　　ボソリと呟かれた悪態は、ハッキリと僕の耳を貫きそのまま心臓に達しそうだった
クラスメイト「君は、端からの印象で他人を決めつけ、でも実際その人のことなんてまるで見ていない」
クラスメイト「それって、逃げ、だよね？」
クラスメイト「他人と違うから、自分が出来ないのは仕方ないって、言い訳してるだけ」
クラスメイト「自分を卑下しながら君は、どうしようもなく自分が可愛いんだ」
僕「僕は・・・」
　　言葉は途中で止まる
　　皆も、僕と同じ人間
　　そんなことは、僕もどこかでは分かっていたのかもしれない
　　自分を守りたいために頑なに否定していただけで
　　でも、現実を認めたって僕には何も出来ない
　　僕が無能なのは変わらないんだから
クラスメイト「さっき君に、君は他人のことを見ていないって言ったけど」
クラスメイト「見ていないのは、君自身についてもだよ」
僕「僕、自身・・・？」
クラスメイト「君は何も出来ないって言ってるけど、その突飛な妄想癖は明らかに異常なものだよ？」
僕「い、異常って・・・」
クラスメイト「君風に言うなら、君は考えすぎて頭をお花畑にしちゃう植物人間だね」
僕「植物人間って意味違くない・・・？」
　　けれど、彼女の言葉は確かに僕の心を軽くしていた
　　僕自身も、普通の人間ではない
　　そう思い込めば、こんな僕にもまだ可能性があるのだと思えてくる気がしたのだ
クラスメイト「さて、もう暗くなってきたしあたしは帰るね」
僕「え？　まだ暗くはないけど？」
　　窓の外を見れば、まだ夕方というにも微妙な空の明るさ。
クラスメイト「あ、ああ。実はあたしも誰にも言ってなかったことがあって」
クラスメイト「あまり視力が良くないんだ」
クラスメイト「これ秘密ね？」
僕「う、うん・・・」
クラスメイト「それじゃあ、明日はちゃんと学校に来なよ？」
　　コクリと頷けば彼女は満足そうにして、なぜかこの部屋に入ってきた足跡をたどるように後ろ向きで扉へ向かう
クラスメイト「あ、それと最後に」
僕「?」
クラスメイト「あたしが地底人だって、絶対に誰にも言いふらさないでよ？」
クラスメイト「絶対に」
僕「えっと、うん・・・？」
　　なぜそんなことを念押ししたのかは分からなかったが、聞く前に彼女は去ってしまった
　　彼女はなんで、あんなに僕のことを心配してくれたのだろう
　　それに、まるで第三の目があるみたく僕の心を覗くことが出来た事も不思議だ
　　彼女はもしかして・・・
僕「僕のこと、好きなのか!?」
　　至った答えは僕の胸を踊らせる
　　そのまま陽気に僕は、早くも明日の登校準備を始めるのだった