視える

星野硝子

洋館の噂(脚本)

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〇教室の外
  私は人見知りだ。
  そして、妖怪や幽霊の類いが視える。
  この二つが相まって、大事件が起きた。
男子生徒「急に呼び出してごめん・・・! 実は、話したいことがあるんだ」
弥生 春(き、来た・・・! もしかして、こ、告白とか・・・!?)
男子生徒「弥生さん・・・!」
弥生 春「は、はい・・・!」
男子生徒「"視える人"って聞いたんだけど、うちの近くの洋館を調べてくれないかな。 気味の悪い噂があって、夜しか眠れないんだ・・・!」
弥生 春「あっ、ハイ・・・」

〇要塞の廊下
  そうして、拒否するコミュ力もなく、噂の洋館に来ている。
  ここには長い間誰も住んでいなくて──
明人「うわぁ!!?」
弥生 春「ひぃ・・・!?」
  (たぶん)人間(だと思う)と鉢合わせて、互いに悲鳴をあげる。
一樹「どうした明人!?」
冬弥「女の子だ」
健「なにイチャついてるんだよコラァ・・・!」
明人「ち、違うって! さっきここで偶然!」
一樹「本当に・・・? どういう関係??」
冬弥「こんな人気のないところで、何をしていたかは聞かないでおこう」
明人「だから違うってぇ!」
  この騒がしい四人組は、それから、なぜか私に付いてきた。
健「オレたち、肝試しに来たんだよね。 女の子一人じゃ危ないから、オレと一緒にいなよ」
冬弥「口説くのやめてくださーい」
一樹「まあまあ。 健からおしゃべりを取ったら何も残らないじゃん」
明人「あの、急にごめんね。 俺たち幼なじみなんだ。 こいつが健」
健「よろしくな!」
明人「で、こっちが冬弥」
冬弥「どうも」
一樹「で、俺が一樹でーす!」
  「あ・・・えっと、弥生・・・です」
  面倒なので、私が"視える人"なのは秘密にしておこう。

〇豪華なベッドルーム
健「にしても、全然出ねえなあ。 道連れにするやつを探し回ってるっていうお化け」
冬弥「だから、お化けなんていないって」
一樹「てか寝室豪華じゃない・・・!? 見てみて、描きかけの絵!」
  一樹さんが指差したキャンバスを見ると、家族の肖像画らしきものが描かれていた。
明人「どうしたの弥生さん?」
健「おっ、これが例の逃げ出した家族じゃねえ?」
冬弥「病死した父親が、家族も一緒に連れて逝きたくて夜な夜な怪奇現象を起こしたってやつ?」
一樹「そりゃビックリするだろうけど、話も聞かずに逃げ出すなんて酷いなあ」
一樹「あ、そっか、姿が見えてないのか」
明人「というか俺たち本当に大丈夫? 間違えて連れて逝かれたりしない?」
健「もしもの時は、みんな一緒だぜ」
明人「いぃやぁああ!!!」
冬弥「ほら次行くよ次〜」

〇洋館の一室
明人「うわ、ここはボロボロだな」
健「アレだろ、幽霊が出るメインスポットだろ」
冬弥「かつての一家団らんの場所に誰もいなくなって、悲しくなった幽霊が暴れてるとかいう噂ね」
一樹「だからこんなにボロボロなの? ひゃー気性が荒いなあ」
  もし、噂が全て本当だとしたら・・・。
  死んでしまった父親は、どうして家族を道連れにしようと思ったのだろう。
  自分がいなくなっても、私なら、遺された家族を守りたいと思う。
  だって、大切な存在だから──
一樹「まあ、父親の気持ちもわかるけどな」
  「え?」
一樹「だって、家族が逃げ出したって・・・大切な人たちに拒絶されたってことでしょ」
一樹「そりゃ悲しいし、取り戻したいし、暴れたくもなるよ」
  たしかに、それも一応、理解はできるけれど。
冬弥「・・・?」
  曖昧にうなずく私を、なぜか冬弥さんはじっと見つめていた。

〇要塞の廊下
一樹「やっと建物一周できた〜!」
明人「あ、これで全部かな 結局なにも起きなかったね」
健「どうよ、夜になったしもう一周」
冬弥「え〜僕は帰るよ」
  「あの、私もこれで・・・」
明人「あっ、うん! 気をつけてね!」
一樹「またね〜!」
  一番端で手を振る一樹さんに、小さく振り返す
冬弥「弥生さん、なにを見てるの・・・?」
  「なにって、一樹さん・・・」
明人「・・・!」
明人「なんで一樹のこと知って・・・」
  「え・・・?」
明人「一樹は俺たちの幼なじみで・・・」
明人「あいつは、去年、事故で死んだんだよ」
  「・・・!」
一樹「あはは、バレちゃったかあ。 四人で歩いてたら車が突っ込んで来てね。 みんなは怪我で済んだんだけど、俺は運悪くぺしゃんこ」
一樹「弥生ちゃんがはじめて俺を見た時、びっくりしたなあ。 この人は俺が"視える"んだって」
  ああ、そうだ、もしかしたら──
  今までずっと、一樹さんがいなくても、彼らの会話は成り立っていたかもしれない。
一樹「もうこの際だからさ、三人に俺はここにいるよ〜って言ってみてよ。 びっくりするだろうなぁ〜!」
  こんなに仲が良さそうな彼らのことだ。
  きっと、一樹さんのことを話したら喜んでくれるだろう。
  「あの、今ここに、一樹さんが」
  今でもずっと、幼なじみの四人組のままで。
  けれど。
明人「そんな・・・嘘でしょ?」
冬弥「たしかに、あいつは明るいくせに寂しがり屋だったけど・・・」
健「なんでまだ居るんだよ・・・」
健「まさか・・・オレたちだけ生き残ったから・・・!」
「う、うわぁああ・・・!!!」
  逃げ出す三人の頭によぎったのは、凄惨な事故の光景と、ひとつの噂話だろう。
  大切な人を、道連れにしようとする幽霊の──
一樹「え・・・? なんで・・・」
一樹「あはは、嘘でしょ・・・ え・・・?」
一樹「なん、で・・・」
一樹「なんで逃げるの? 俺だよ・・・? 小さい頃から、ずっと一緒に、 いたのに・・・」
一樹「やめて。やめてよ」
一樹「独りにしないでよ!!!」

〇要塞の廊下
  それから──
  それからのことは、なにも覚えていない。
  気が付いたら、私は洋館の前に倒れていて。
  そして
  三人の少年が行方不明になったと、ニュースで報じられていた。

コメント

  • うーん…怪談の通りに、一樹さんが自分たちを道連れにすると思って怖くなったんでしょうか?
    結果的にそうなってしまったようですが。
    わかればゾクっとするタイプのお話好きです。

  • 幽霊や妖怪が見えたら嫌ですね。私ならこんな特殊能力はいりません。でも、女の子はそれらが見えて何か徳する事があるんでしょうか?教えて下さい。

  • 短編作品とは思えないほど、様々な仕掛けが精緻に設けられていて、繰り返して何度も読み入ってしまいました。これは参りました。

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