魔王様が地上統一のために依代を探しております

暁野

魔王と依代(脚本)

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暁野

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〇空
ライア「はー。地上って、本当に空が青いのね」
  ライアは白い雲が泳ぐ青い空を見上げて嘆息した。
  魔界の空は赤く、雲は黒い。
  悪魔。
  とりわけ次期魔王として育てられ、王座に君臨した彼女は、生まれてからこの方、地上に出たことがなかった。

〇魔界
ライア「時は満ちた!」
ライア「悪魔たちよ!今こそ立ち上がり、人間たちを懐柔し、地上を我らの手中に収めるのだ!」

〇空
ライア「とか、みんなに言っちゃったけど」
ライア「正直気乗りしないのよね」
ライア「地上統一ってパパの悲願だし」
ライア「でもやらないと蘇りそうだし、仕方ないわ」
ライア「適当な人間捕まえて、ちゃっちゃと丸め込んで依代にして」
ライア「周りがやってくれるのを待つことにしよう!そうしよう!」
ライア「あ!あの子よさげ!」
ライア「もーしもーし!」

〇通学路
ライア「おーい!」
ユメ「わたし、ですか」
ライア「そ!アンタよ!オメデトウ!」
ライア「魔王の依代に選ばれたの!泣いて喜びなさい!」
ライア「私と一緒に地上征服するのよ、嬉しいでしょ!」
ユメ「えーっと。貴女のお名前は?」
ライア「ライアよ」
ユメ「こんにちは、ライアさん。わたしはユメと申します」
ライア「ああ、そうユメね」
ライア「よろしくってことは、依代になってくれるってことでしょ」
ライア「さっすが私!一発目で決めちゃった!」
ユメ「わあ、おめでとうございます」
ライア「じゃあ早速契約を―――」
「ピギャァァアアアア!!」
ライア「いやあああああああー?!」
  突如。
  ユメの頭に乗っているウサギのぬいぐるみが、ライアに向かって威嚇の奇声を上げた。
ライア「な、なに?!なによソイツ?!」
ユメ「みつしまどんです」
ライア「名前聞いてんじゃないわよ! なんでぬいぐるみが声を出すのかって聞いてんの!」
ユメ「それは―――」
ユメ「・・・・・・なぜでしょうか」
ライア「私に聞くな!」
ライア(どうする?変なのに声掛けちゃったかな)
ライア「すみません。やっぱり別の人に」
  と、言いかけて。
  ユメが下げていたビニール袋がライアの目に留まった。
  何やら甘い香りがする。
ユメ「ライアさん、どうかなさいました?」
ライア「それ。私に捧げなさい」
ユメ「はい?」
ライア「供物として寄越せば、アンタを依代にするのを少しだけ待ってやってもいいわよ」
ユメ「では、うちに来ませんか。ここにはスプーンもフォークもありませんし」
ユメ「『ケーキ』は座って食べた方がいいと思うんです」
ライア「いいわ。行ってあげる」
ライア(『ケーキ』がなんたるかは知らない)
ライア(でも、あの香りは絶対美味しいに決まって―――)
サキ「おっじゃまー!」
ユメ「きゃっ!」
ライア「ユメ!」
  突然二人の間に割り込んできた自転車。
  持っていた袋をひったくられたユメ。転びそうだったところを、ライアが咄嗟に支えた。
ユメ「びっくりしました。ひったくりですね」
ライア「へー、いい度胸してんじゃない」
ユメ「ライアさん?」
ライア「別にね、盗むのは文句言わないわ」
ライア「だって私、悪魔だもの。欲しければ横取りして当然よ。でもね」
ライア「甘いのよ」
ユメ「はい?」
  ライアは羽根を広げた。
  そして、自転車との距離を一気に詰める。

〇川に架かる橋
ライア「魔王は目を付けた獲物を逃がさないから魔王になれんのよ!」
ライア「魔物は狩りすんのが本領なんだからァ!」
サキ「な、なによアンタ!」
ライア「あっは!今の魔界は私の玉座を奪おうとする輩がすっかり減っちゃって張り合いがないったら!」
ライア「いいわ!いい度胸してるわよ!心意気だけは買ったげる!名前も聞いておこうかしら!」
サキ「サキよ」
ライア「サキね。今日一日覚えておいておくわ」
ライア「んじゃ、サヨーナラ」
  ライアはサキの乗っている自転車の後輪を、あろうことか掴んで止めた。
  そして彼女に向かって手を上げ―――
  パシッ。
サキ「痛っ!」
  ビンタした。
ライア「あれ?力加減間違えちゃったかな。これじゃあ、ただの平手じゃない」
ライア「えいっ」
サキ「いっ!」
  またビンタした。
ライア「うーん?」
  ゲシゲシゲシゲシ。
サキ「痛い痛い痛い!」
  今度は脛蹴りだった。
サキ「ごめんなさい!もうしません!これ返す!脛は許してぇ!」
  サキは半泣きの顔でライアに盗んだ袋を返した。
ライア「ふーん、ま。いいわ。またいつでもいらっしゃい。相手してあげるから」
サキ「もう二度とごめんよー!」

〇女の子の一人部屋
ライア「んー!美味しい!」
ライア「なにこれ、美味しい! こんなの魔界で食べたことないわ!」
ユメ「お口に合ってよかったです」
  無事に供物を取り返したライアは、ユメの部屋で『ケーキ』に舌鼓を打っていた。
ライア「ねえ。これって、他にもあるの?」
ユメ「はい、あります」
ライア「他のも食べたいわ!」
ユメ「では、今度買ってきますね」
ユメ「あ、こちらのお菓子は」
ライア「も・ち・ろ・ん!食べるに決まってるじゃなーい!」
ライア「早く開けなさいな!ほら!」
ユメ「かしこまりました」
ライア(ま。ユメを依代にするには、この世のケーキとかお菓子を食べ尽くしてからでも遅くはないわよね!)
  そんな彼女は知らない。
  各お菓子メーカーは新商品開発にしのぎを削っており、新しいお菓子は次々と発売され続けるということを。
ライア「んふー!美味しーい!」
  こうして今日も、地上は平和であった。

〇部屋の前
ユメ「ふー、魔王の懐柔も楽ではありませんね。みつしまどん」
「貴女が本気を出さないからでしょうが、大天使様」
  大天使。
  頭の上のぬいぐるみにそう呼ばれた彼女・ユメは天上の使いであった。
「魔王の攻撃を緩和するだけなどと生ぬるい。貴女ならば、力を無効化するくらい容易いでしょうに」
ユメ「いいえ、ぬるいくらいがよいのです」
ユメ「ぬるくて、ぬるくて」
ユメ「熱いのも気づかないうちに上げてしまえばよいのですよ。天上に、ね」
「・・・・・・ぷぎっ」
ユメ「ふふ、鏡の向こうでずっと見ていた貴女。ようやく会えたんだもの。早くわたしのものにしたいわ」
ユメ「ねえ、哀れで可愛いライアちゃん」

コメント

  • 人間界のお菓子に異常なまでの執着を示すライアちゃんは魔王なのにどこか憎めないキャラですね。結局ライアは大天使ユメちゃんの掌の上で転がされてるってことかな。みつしまどんがいい味出してました。

  • 知らず知らずのうちに魔王と天使が一つ屋根の下に…。
    確かに最近のお菓子やケーキは美味しいものばかりでついつい手が止まらなくて…。

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