まぶしいひかり(脚本)
〇黒背景
怖い
雨が怖い
いつもなら聞こえる、人や車の物音が
雨音に全部かき消される
〇開けた交差点
風見 杏花(カザミ キョウカ)「あっ!」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「うぅ・・・」
右手に白状、左手に傘
これじゃあ、転んでも手もつけない
〇黒背景
もうこの目は空っぽなのに
それでも、涙はあふれる
風見 杏花(カザミ キョウカ)「・・・っ、う・・・」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「?」
〇開けた交差点
風見 杏花(カザミ キョウカ)(誰かいる?)
???「大丈夫!?」
???「って、」
???「大丈夫じゃないと思ったから、 声かけといてなんだけど」
それが
彼と私の出会いだった
〇空
???「ん?」
〇店の入口
喫茶店スタッフ「おまたせいたしましたー!」
喫茶店スタッフ「猫耳っ娘喫茶『ふぃーくる』オープンです」
???(また新しい店ができたのか)
???(猫耳っ娘は人気だからなぁ)
警備員「Hey」
???「OK、OK。ちょい待ち」
???(おいおい、俺は見てただけだっての)
???(慣れてるけど)
有馬 児々(ありま じじ)
性別:男 種族:亜人(デミ)
頭部から首元が馬の亜人
有馬 児々(アリマ ジジ)「OK?」
〇渋谷の雑踏
人間:亜人=9:1
ざっと10%以下
1クラスに2・3人が亜人
男女比になると更に
女:男=9:1
更に更に、
大体の亜人は獣耳タイプ
つまり、
俺みたいなのは激レア珍獣なわけで
〇見晴らしのいい公園
無邪気な子供「ママ、あの人お馬さんの被り物してるよー」
母親「コラッ」
有馬 児々(アリマ ジジ)(今の聞こえたか?)
風見 杏花(カザミ キョウカ)「どうしたの?」
有馬 児々(アリマ ジジ)「なんでもないよ」
いやいや、ちゃんと言えや俺!
俺は亜人なんだって!
それでも、
俺と恋人でいてくれますか、って
あ、コレ、想像でも死ねる
風見 杏花(カザミ キョウカ)「ジジくん、あのさ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「そういえば今日まだだっけ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「えー、その今、周りには誰もいない、よ」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「じゃあ、いいかな?」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「挨拶のハグ!」
有馬 児々(アリマ ジジ)(これは挨拶、これは挨拶、これは挨拶、 ハグは挨拶、ハグは挨拶、ハグは挨拶)
風見 杏花(カザミ キョウカ)「ありがとう!」
有馬 児々(アリマ ジジ)「どういたしまして」
有馬 児々(アリマ ジジ)「ハグ、好きだよね」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「ぬくもりが伝わってくるからかな? ハグって、元気になれるの!」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「どうしたの?」
有馬 児々(アリマ ジジ)「大丈夫、目が眩んだだけ」
〇山中のレストラン
〇レトロ喫茶
喫茶店のマスター「お待たせいたしました」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「素敵なお店だね」
有馬 児々(アリマ ジジ)「『近場でまったりできる穴場カフェ』 って見つけたんだ」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「のんびりするならどっちかの家で、 お家デートもしてみたいな」
有馬 児々(アリマ ジジ)「い、いいね。お家デート・・・」
有馬 児々(アリマ ジジ)(どっちの家族にも合わせる顔がない)
有馬 児々(アリマ ジジ)(特に、うちの婆ちゃんにでも知れたら)
有馬 児々(アリマ ジジ)(あー、でも)
有馬 児々(アリマ ジジ)(キョウちゃんには、家の方が楽だよな)
風見 杏花(カザミ キョウカ)「ジジくん」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「初デートの場所、覚えてる?」
〇公園のベンチ
海に行きたいんです
?
わかってます
「見えないのに・・・」
って家族にも言われました
けど、行きたいなぁ、って思うんです
・・・初めての土地は
一人じゃ行けないんですけどね
じゃあ、俺が連れて行こうか?
え?
〇歩道橋
〇駅の出入口
〇広い改札
〇駅のホーム
〇電車の座席
〇駅のホーム
〇海岸線の道路
〇海辺
有馬 児々(アリマ ジジ)「行きたいなら、行けばいいじゃん って思ったけど」
有馬 児々(アリマ ジジ)「なるほど、こりゃ大変か」
有馬 児々(アリマ ジジ)「俺が強引に連れて来た感じに なっちゃったけど、どう?」
〇レトロ喫茶
風見 杏花(カザミ キョウカ)「目が見えなくなってから、初めての海に ジジくんは、連れて行ってくれたよね」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「波の音・風の香りを全身で感じたとき」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「嬉しかったなぁ」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「移動の負担とか 考えてくれてるんだろうけど」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「近場でも遠出でも ジジくんと一緒なら、私は楽しいよ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「キョウちゃん」
有馬 児々(アリマ ジジ)「俺ずっと言いたかったことがあるんだ」
そうだ、何に不安になってるんだ
彼女は確かに、
俺を受け入れてくれてるのに・・・
〇モヤモヤ
人間なんか碌なもんじゃない
婆ちゃん、今の時代は違うんだよ
亜人は受け入れられてる
好かれるんだ
お前以外の亜人は、だろ
今でも昔でも
”人間顔”はまだマシさ
お前は思わないのかい
「どうして俺だけが」って
風見 杏花(カザミ キョウカ)「ジジくん?」
〇レトロ喫茶
喫茶店のマスター「失礼。紅茶のおかわりはいかがかな?」
「ありがとうございます」
喫茶店のマスター「少年よ」
喫茶店のマスター「ガンバッ!」
有馬 児々(アリマ ジジ)「あざますっ!」
有馬 児々(アリマ ジジ)「もしかしたら、 気づいてるかもしれないけど」
有馬 児々(アリマ ジジ)「俺、亜人なんだ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「しかも、一般的な獣耳タイプじゃなくて」
有馬 児々(アリマ ジジ)「もう顔全体が完全に馬で」
有馬 児々(アリマ ジジ)「馬の被りもんしてるイメージが 多分、一番近い──」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「────いいかな?」
有馬 児々(アリマ ジジ)「え?」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「さわってみてもいいかな?」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「うわぁ」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「ありがとう」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「はぁっ・・・」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「やっと、さわれたぁ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「もしかしたら、、どころじゃ、、、」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「うん、あのね」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「鼻息とか・・・」
もう息できない!
風見 杏花(カザミ キョウカ)「ジジくんも私の目のこと、 私が言うまで何も聞かなかったでしょ?」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「だから私も待つ、って決めてたんだ」
私も、自分の目のことで
触れられたくない気持ちはあるから
〇病室
まだ
まだ見えるの
お願い
〇黒背景
私が、眼球摘出手術を受けた日に
視力回復手術を受けた患者さんがいた
どうして、私だけ
もう受け入れているはずなのに
あの時の気持ちが、ずっと拭えない
〇レトロ喫茶
風見 杏花(カザミ キョウカ)「・・・私から告白した時さ」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「その時に言われるのかなぁ、と思ってたよ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「あの時は必死だったんだよ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「『こんな私ですけど、 付き合ってくれませんか』って言うから」
有馬 児々(アリマ ジジ)「あとは・・・なんとなく」
あの時、もし──
「俺、亜人だけどいいの?」
「もう一度、よく考えた方がいいよ」
とか言われてたら
〇黒背景
理由はどうであれ
”私”は選ばれなかった、と思っちゃうから
〇レトロ喫茶
有馬 児々(アリマ ジジ)「キョウちゃんは」
有馬 児々(アリマ ジジ)「自分に自信がないよね」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「えっ・・・」
有馬 児々(アリマ ジジ)「『こんな私』って言うけど」
有馬 児々(アリマ ジジ)「俺はキョウちゃんがいいんだよ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「キョウちゃんじゃないと、ダメなんだよ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「ずっと伝えたかったんだ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「君が好きです」
有馬 児々(アリマ ジジ)「俺は亜人だから、 周りから色々言われるかもしれないけど」
有馬 児々(アリマ ジジ)「これからも俺と恋人でいてくれますか?」
〇黒背景
〇レトロ喫茶
風見 杏花(カザミ キョウカ)「・・・これからも、よろしくお願いします」
〇レトロ喫茶
有馬 児々(アリマ ジジ)「会計、済ませてきたよ」
有馬 児々(アリマ ジジ)「どしたの?」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「いつもの、お別れのハグなんだけど」
風見 杏花(カザミ キョウカ)「ここじゃダメかな?」
有馬 児々(アリマ ジジ)(人がいないのは丁度いいけど、 店側には迷惑なんじゃ──)
有馬 児々(アリマ ジジ)(・・・大丈夫っぽい)
風見 杏花(カザミ キョウカ)「いいかな?」
有馬 児々(アリマ ジジ)「どぞ」
有馬 児々(アリマ ジジ)(キョウちゃんの様子、変だな)
有馬 児々(アリマ ジジ)「ん?」
それが
俺たちのファーストキスでした
心理描写が丁寧でいいですね~✨ 特殊な事情を抱えるそれぞれの内面がリアルに描かれていて、身につまされる思いでした
世界観構築もさすがです👏スチルもセンス良く、いいアクセントになっていました
喫茶店のマスターがいい味出してましたね 笑
WMでは分量的に脇役が出る余地がほぼ無かったので気付きませんでしたが、村茶さんの描く脇役はむちゃくちゃ濃くて存在感があって、とても好きです☺️
美少女の絵ばかりか、TapNovelのキャラもめちゃくちゃ活かしてきましたね…!
初めてのデート、目は見えなくても音や風で感じる2人の特別な海…演出が凄く良かったです
いつもコマ作りでストーリーが短くならざるを得なかった村茶さんの話がフルで読めているという感動が半端ない。(もちろんコマ作りも素敵でしたが)ストーリーが多くて嬉しいです。
普通の人が描写しないことを描写するのが良いですね。
拒絶される恐怖や、自分じゃない人の喜びから受ける自身の絶望とかの表現におおって思いました。