消化不良(脚本)
〇安アパートの台所
──僕にはお父さんとお母さんがいなかった
だからといって悲しいとは思わないし、覚えてないから何とも思わなかった
あの日までは──
〇安アパートの台所
井上 陽司「ただいまー お母さん」
井上 葉子「・・・・・・」
僕の養母はいつも悲しそうな顔をする
僕のせいでいつも不自由な生活をさせられているから
井上 陽司「じゃあ 出かけてきまーす」
井上 葉子「・・・・・・」
〇アパートのダイニング
井上 陽司「お母さん!このコロッケとても美味しいよ!」
井上 葉子「・・・・・・」
ご飯の時も養母は悲しそうな顔をする
〇怪しい部屋
井上 陽司「お母さん おやすみ」
井上 葉子「・・・・・・」
寝る時も
〇教室の教壇
「えー これで帰りの会を終わります 皆さん 気をつけて帰るように」
「おい」
井上 陽司「なに?」
「ちょっとこい」
〇黒
「お前 気持ち悪いんだよ! いつもニヤニヤしててよ!!」
「俺たちになんか文句あるのか!? ジロジロ見やがって!!」
井上 陽司「・・・・・・」
「ケッ!! 気に入らねぇ!!」
「やーめた もう帰ろうぜ」
〇古いアパート
「あの子さえいなければ今頃私は──」
「なんで私が育てなくちゃいけないの・・・・・・」
井上 陽司「・・・・・・」
〇安アパートの台所
井上 陽司「ただいまー」
井上 葉子「・・・・・・遅かったわね」
井上 陽司「うん!ごめん!」
井上 葉子「何がごめんよ!何時だと思ってんの!?」
井上 陽司「20時・・・・・・」
井上 葉子「あんたのせいで私の時間がどんどん奪われていくんだから!」
井上 葉子「もういいわ そこにご飯あるから勝手に食べなさい」
井上 陽司「わかった」
〇黒
わかっていた
僕が必要のない人間であることも
僕がこの世のクズであることも
笑顔で振る舞っていたのは相手の気に触れないという無意識の行動だったかもしれない
でも・・・いつか・・・
”愛”っていうのを知ってみたいな
報われるんだ きっと・・・
それさえあれば 僕は・・・
「そうだね」
井上 陽司「え?」
〇広い公園
殺人鬼 「陽司(ようじ)くんだね?」
井上 陽司「だ、だれ?」
殺人鬼 「そんな怪しいお兄さんじゃないさ」
殺人鬼 「僕が何者なのかはいずれ分かるとして・・・ 君は愛について知りたいのかい?」
井上 陽司「そ、そんなことは・・・・・・」
殺人鬼 「陽司くん ”愛は解放”だよ」
殺人鬼 「救いなのさ 苦しい事から救い解放する」
殺人鬼 「この世は苦しい事、悲しい事、辛い事で溢れかえっている」
殺人鬼 「それから解放する ”血肉”にして」
井上 陽司「ちにく?」
殺人鬼 「身体の1部にするということ」
殺人鬼 「みんな”愛”や”安心”とかを探し続ける だから作ってあげるのさ──」
殺人鬼 「僕と”君”でね」
井上 陽司「僕?」
殺人鬼 「じゃあ いつか迎えに行くよ 元気でね」
そう言うとお兄さんは、僕の前から姿を消した 瞬きをした瞬間に
井上 陽司「え!? 迎えにいくって!?」
頭がこんがらがってきた
ただ、ひとつだけ気づいた
自分は彼から救いの手を差し伸べられているんだと
〇病室のベッド
井上 陽司「ハッ!!」
「先生!! 患者が目を覚ましました!!」
井上 陽司「ここは一体!?」
僕はいつの間にか病院にいた
さっきまで家の中にいたはずなのに
医者「気がついたようだね」
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