最終話『終曲』(脚本)
〇明るいリビング
村井深雪「どうしたの芽宇、こんな朝早くから?」
村井芽宇「ごめんね、パパ、ママ。忙しいのはわかってたんだけど、どうしてもすぐ相談したくて」
芽宇は、まだパジャマ姿のまま、リビングに両親を呼んでいた。どうしても、話しておきたいことがあったがゆえに。
村井芽宇「昨日の夜、すごく怖い夢を見たの。芽宇がね、やっちゃったことが・・・・・・凄い悪いことでね。神様に怒られちゃうの」
村井芽宇「それで、太田川先生と、校長先生と、彩名さんと海砂ちゃんが次々怖い死に方をしてね。その次が、芽宇の番なの」
村井深雪「それは、とんでもない夢ね」
村井剣十郎「悪いことをしたって?」
村井芽宇「うん。・・・・・・芽宇はね。それが友達のためで、ずっと正義だって信じてたの」
村井芽宇「だから、本当は駄目なんじゃないかって気持ちに蓋して・・・・・・逃げてたの」
村井芽宇「その子は死んじゃって、お母さんや友達はたくさん泣いてたのに」
村井深雪「それって・・・・・・」
母が眉を顰めた。すぐに気が付いたからだろう。同じクラスで亡くなった、奥田奏音君という少年のことを。
村井深雪「奥田君のこと?でも、奥田君は自殺だったし、クラスでいじめはなかったって先生は言ってたでしょう?」
村井芽宇「違うの。本当は、違うの」
叱られるのは凄く怖い。
でも芽宇は、このまま自分がやったことをなかったことにして罪悪感の中で生きる方がずっと恐ろしかった。
自分は弱い人間だ。結局、己が楽になりたいだけなのかもしれない。それでも。
村井芽宇「芽宇が、いじめてたの」
村井芽宇「彩名さんに言われて、海砂ちゃんと一緒に奥田君のこと」
村井芽宇「奥田君は・・・・・・芽宇たちの命令のせいで、誤って屋上から落ちちゃったの・・・・・・!ごめんなさい。本当にごめんなさい!」
自分は、変わらなければいけない。
あの夢はきっと警鐘だったのだと、芽宇は強く思うのだ。だからまず戸惑う両親に、洗いざらい告白する。
全てを、白日の下に晒すために。
村井芽宇「芽宇は、悪いことをしたから、みんなに正直に話さないといけないの。ごめんなさいしないといけないの」
村井芽宇「海砂ちゃんたちが嘘ついてることも、先生達が間違ってることも全部言わないといけない」
村井芽宇「ママ、パパ、芽宇は・・・・・・どうすればいいのかな」
〇モヤモヤ
最終話
『終曲』
〇シックな玄関
長谷川珠理奈「おはよう、おばさん!」
北園晴翔「おはよー!ってうわ!?」
元気な少年少女の挨拶する声。二人が玄関のドアを開けた途端、思わず冴子は彼等を抱きしめていた。
北園晴翔「ど、どうしたのおばさん?」
晴翔がすっとんきょうな声を上げる。珠理奈も困惑して、眼を白黒させているようだった。
当然だ。いつものように学校に行く途中で冴子の家に寄って、挨拶をしてくれたに過ぎない。
まさかドアを開けて貰った途端ハグされるなんて思いもよらなかっただろう。
しかもその冴子が、泣きそうな顔をしているとあっては。
奥田冴子「・・・・・・ごめんなさい、つい感極まっちゃって」
珠理奈は勿論、晴翔に傷らしい傷はない。
最後に自分が見た彼の顔は、たくさんの機材に繋がれて、頭に首にと包帯だらけの姿だったから。
奥田冴子「二人が元気で、笑っていてくれるのが嬉しくて」
彼等は、何も知らなくていい。己にそんな未来があったかもしれないことなど。
冴子が犯した罪のことなど。
奥田冴子「できればこれからも」
奥田冴子「そうね・・・・・・二人がおじいさんおばあさんになっても、ずっとこうして挨拶しに来てほしいわ」
奥田冴子「それで、いろんな他愛のない話を聴かせて頂戴」
北園晴翔「ははは、僕達がおじいさんおばあさんになる頃は、おばさんは超おばあちゃんになってるよ?」
奥田冴子「ええ、だからそれまで長生きするわ。二人が自分にとっての最高の幸せを見つけるまで、長生きすることに決めたの」
長谷川珠理奈「う、あたし結婚しないかもしれないよ?まともな男が世の中にいないんだもんー。・・・・・・それでもいいの?」
奥田冴子「今時、結婚だけが幸せなんて考え方は古いもの。結婚なんかしなくても、貴女が幸せならそれでいいの」
長谷川珠理奈「うふふ、そっかあ」
復讐をやめたこと。あの鏡を返したことが本当に正しかったのかはわからない。
未だに、息子を追い詰めた連中に対して懲らしめてやりたい気持ちは強いのだから。
でも、気づいたのだ。
自分は、何も持っていないわけではなかった。
奏音がいなくなった世界にもまだ、守りたいものや、大切なもの、幸せな時間があったということを。
それを一つ一つ愛しながら、毎日を生きながら。
それを壊さない“復讐”の方法だって、きっとあるのではないかと。
奥田冴子(奏音がいじめられていた証拠を集めて・・・・・・正々堂々、学校を告発するわ)
奥田冴子(例え、奴らがいくらしらばっくれても、言い逃れできないように)
それは、誰かを裁くための復讐ではなく、自分が前へ進むための復讐だ。
奥田冴子(私が幸せになるために。・・・・・・奏音、それならきっと・・・・・・応援してくれるわよね?)
遠いどこかで、奏音が笑ってくれたような気がした。
きっと、本当にそんな気がしただけだろうけれど。
〇黒背景
『次のニュースです』
『先月男子児童が屋上から転落して亡くなった、●●県●●私立木槌丘小学校にて』
『ずっといじめの事実を否定していた小池正春校長が今朝教育委員会に』
『“いじめがあった可能性は否定できない”という報告を出していたことが本日わかりました』
『担任の教師からそれらしい報告を受けていながら、担任と共にもみ消していたということで・・・・・・』
〇車内
車のラジオから流れてくるニュース。助手席に座っていた雨宮縁は、こっそりとそのチャンネルを切り替えた。
予想通り――奥田冴子は鏡を“返品”し、悪魔との契約を破棄する道を選んだのだろう。
まあ、そういう事実を理解しているのも覚えているのも、既に雨宮一人だけだろうが。
雨宮縁(時間が巻き戻ったわけじゃない。過去が書き変わった、と言う方が正しい)
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本当に様々なことを考えさせてくれる魅力的な作品ですね。この復讐と”返品”を通じて、冴子さんはじめ多くのキャラの弱さ、脆さ、歪みなどが露わになりますが、それが本当に”人間臭く”リアルで…。ラストも、闇の中でもがいていた冴子さんの心に一筋の光が差し込んだようで、とても清々しいです。
ステキな物語をありがとうございました!
そして、丁寧なコメント返し、本当にありがとうございました!