開店準備(フルボイス)(脚本)
〇シックなバー
誠也(今日はバーの開店日だ)
誠也(お客さんは来てくれるだろうか・・・)
誠也「すいません まだ営業時間前なんです」
夏乃「こんちゃー」
誠也「って、夏乃か──」
夏乃「お客さんじゃなくて すいませんでしたー」
誠也「何しに来たんだ?」
夏乃「そりゃもちろんバーの開店祝いだよ」
誠也「そうか──」
誠也「開店祝いの御祝儀を持ってきてくれたのか ありがとうな」
夏乃「そんなもん、ボクに期待するな こっちはまだ高校生だぞ」
誠也「冗談に決まってるだろ 真に受けるな」
夏乃「誠也君が言うと 冗談に聞こえないんだよ」
夏乃「どれだけ お金で困ってきた姿を見せてきたのさ」
誠也「そういうカッコつかない男の姿は」
誠也「見ないフリをするか、口に出さないのが 女性としての心遣いだぞ」
夏乃「残念、心遣いは学校に忘れてきたみたい♪」
誠也「元からないだろ」
夏乃「ほう──」
夏乃「せっかくお祝いにきた人間にそんな口を聞くのかね、誠也君は?」
誠也「お前になら気にせず言えるな」
夏乃「なんだとぉ!!」
誠也「それと誠也君は止めろよ」
夏乃「どうして、良いじゃんか?」
誠也「お前に呼ばれると晴香を思い出す」
夏乃「あー、似てるとは言われるからねー」
夏乃「でも、なぜそんなことを気にするのさ」
誠也「そりゃあ、まぁ・・・色々とな」
夏乃「もしや──」
夏乃「いまだに振られたことを 根に持ってるのか?」
誠也「根に持ってるわけじゃない」
夏乃「じゃあ、忘れられないとか?」
誠也「それも、少し違う」
夏乃「では、その理由を述べてくれたまえ 誠也君」
誠也「だから誠也君は止めろって」
夏乃「しょうがない──」
夏乃「誠也と呼ぶことにしよう」
誠也「余計に悪い 俺のことを下に見てるのか?」
夏乃「下になんて見てないよ 同じ高さの目線で見ているつもりだ」
誠也「その背の低さでか?」
夏乃「うわっ!! 身長のことを馬鹿にしたなっ!!」
夏乃「私はまだ成長期だ」
夏乃「ここから10センチは伸びるつもりだぞ」
誠也「残酷だが期待するな・・・」
誠也「お前の家族全員、身長が高くない・・・」
夏乃「これでもまだ淡い期待を抱いてるんだ」
夏乃「残酷な事実を告げるんじゃない 落ち込むぞ、ボクは」
誠也「受け入れろ 遺伝はしょうがない」
夏乃「えぇ、嫌だな・・・」
夏乃「3年後には スタイル抜群になってる予定なのに」
誠也「高望みは良くないぞ」
誠也「叶わない願いは夢見るもんじゃない」
夏乃「ドライだねぇ」
誠也「ここはバーだ ウェットな場所じゃない」
夏乃「置いてあるものは水物ばかりだろ?」
誠也「飲み物はそうだが 乾きものも置いてあるのさ」
誠也「ナッツやドライフルーツとかな」
夏乃「誠也君・・・」
夏乃「今、ボクを食べ物に例えたのか? 食べるのか、ボクを食べてしまうのか?」
誠也「そいつは言葉のあやだ 聞き捨てろ」
夏乃「いいや聞き捨てならないぞ その発言は少し問題じゃないかなー!!」
誠也「・・・悪かった それについては謝ろう」
夏乃「よしよし 素直で宜しい」
誠也「で、ホントになにしにきたんだよ」
誠也「開店の準備の邪魔をしに来たのか お前は?」
夏乃「違うよ 第一号のお客として来たんだよ」
誠也「まだ開けてないって言っただろ」
夏乃「でもお店が開いたら 入れてくれないでしょ?」
誠也「当たり前だ 未成年を入店させられるか」
夏乃「でしょ、だから開店前に来たわけ」
誠也「言っとくが 邪魔しにきたのと同じだからな」
夏乃「第一号のお客さんになりたかったんだよー」
誠也「酒も飲めない奴が 第一号になろうとするな」
夏乃「アルコールばかりじゃないでしょ? ノンアルのなにか作ってよ」
誠也「俺は開店前で忙しいんだ」
夏乃「お願い!簡単に作れるので良いから!!」
誠也「ずうずうしい奴だな、ホントに」
夏乃「みんなそこがアタシの良いところだって 褒めてくれるんだ」
誠也「誰も褒めてないぞ、それ・・・」
夏乃「受けとったもん勝ちだよ」
夏乃「どんなことでもアタシのことを褒めてくれてるんだなって思うと、人生楽しいぞ」
誠也「その心の持ちようは羨ましいな──」
夏乃「そういうわけで、何か作ってよ」
誠也「・・・はぁ、しょうがねぇ」
誠也「一杯だけ作ってやる それを飲んでさっさと帰れ」
夏乃「お安いごようだ、誠也君」
誠也「そんな風に使わないからな、その言葉」
夏乃「でも、そうやって言いながらも作ってくれるから、やっぱり誠也君は優しいな」
誠也「ホントに一杯しか作らないからな」
夏乃「一杯で十分」
誠也「オレンジジュース、パイナップルジュース、レモンジュースを用意して──」
誠也「これをシェイクする」
夏乃「シェイクするのは誠也君でも カッコよく見えるな」
誠也「一言余計だ」
夏乃「やっぱりカッコよく見せるのに練習した?」
誠也「自然とカッコよくなるもんなんだよ」
夏乃「ねぇ、ボクにもやらせて?」
誠也「断る 味を損なうマネはしたくない」
夏乃「おー、プロだね」
誠也「じゃなきゃ、この店を開いてない」
誠也「どうしてもやりたいなら 水と氷で練習させてやるけど」
夏乃「えー、ケチだね」
誠也「俺もそうやって練習したんだよ」
夏乃「じゃあ、やってみる」
誠也「言っとくが、思ってる以上に冷たいからな」
夏乃「じゃあ、やらない・・・」
誠也「ホントに ただの興味本位かよ」
夏乃「ボクは、誠也君が作ってくれたのを飲む方が良いや」
誠也「後はグラスの端に パインとハイビスカスを飾る」
誠也「これで完成だ」
夏乃「ありがとう 本気で作ってくれて」
誠也「妥協はしたくないんだよ」
誠也「誰にでも最高のモノを作りたいと思ってる」
誠也「お待たせしました── シンデレラでございます」
夏乃「シンデレラ──」
夏乃「ボクをイメージした飲み物って注文にピッタリだよ」
誠也「そんな注文してないだろ!!」
夏乃「でわでわ、頂っきまーす♪」
夏乃「うん、ちょっと酸味があって美味しい」
誠也「もう少し他に表現はないのか?」
夏乃「な・・・夏の日差しを浴びた 大地の香りをホウフツとさせるような──」
誠也「ワインの感想みたいだぞ・・・」
夏乃「ボクにそんなことを期待する方が悪い!!」
夏乃「美味しいものは美味しい それで良いじゃないか」
誠也「まぁ、良いけどな」
誠也「美味しく思ってくれりゃ それで十分だ」
夏乃「でもさ、よく頑張ったよね」
夏乃「本当に自分のお店を持っちゃうんだからさ」
誠也「それなりに大変だったよ 時間もかかったしな」
夏乃「ずっと見てたから知ってるさ」
誠也「そう、大変だったんだよ」
誠也「だから何か開店祝いはないのか?」
夏乃「うっ・・・」
誠也「ほんとにタダで飲みに来たわけか?」
夏乃「うん、そうだよ」
誠也「お前な・・・」
夏乃「と言うのは冗談だ」
夏乃「ちゃんと用意してきたもんね」
夏乃「だから── ちょっと隣の椅子に座ってくれたまえ」
誠也「カウンター越しに渡せば良いだろ」
夏乃「投げて渡すのは味気ないんだよなぁ」
夏乃「それに私は背が低い」
夏乃「カウンターに並んでる 高そうな瓶を倒す危険性がある」
誠也「それは困る・・・」
夏乃「ほら、だから早く隣に座ってくれ」
誠也「なんで座る必要があるんだよ」
夏乃「素直さと謙虚さは 人間にとって美徳だぞ」
誠也「お前の言う事を聞いて ロクな目にあった記憶が無いんだが──」
夏乃「そう言うなよ ほら、早く──」
誠也「はぁ、仕方ないな・・・」
夏乃「ホントは菊の花を送ろうと 思ったんだけどさ」
誠也「ここは葬式会場じゃねぇよ!!」
夏乃「だと思ってね、それは用意しなかった」
夏乃「だから代わりのモノを用意した」
誠也「で、なんだ?」
夏乃「それは── コイツだ♡」
誠也「な、なにすんだよ!!」
夏乃「女神の祝福だ♪」
夏乃「ほっぺにだが それで我慢してくれよ」
誠也「これも、これ以上も求めてねーよ」
誠也「それより よく自分で女神なんて言えるな」
夏乃「誉め言葉だな ありがとう」
誠也「その解釈の仕方は止めろ」
夏乃「飲食業は継続するのが難しいと聞く」
夏乃「3年でも続けるのは大変らしい・・・」
夏乃「でも私が営業時間に客として入れるまで 頑張って続けて欲しいんだ」
夏乃「さっきのは3年以上の繁栄を 約束する祝福だ」
誠也「お前、案外気の利いたことを言うな」
夏乃「じゃあな また営業前に寄らせてもらう」
誠也「来るのかよ!!」
誠也「今の話しの流れだと、それまでは我慢する言い方だっただろ!?」
夏乃「我慢ばかりじゃ、体にも心にも毒だからな」
夏乃「少しは表に出そうと思ったのさ」
夏乃「でわでわ、開店第一号のお客様のお帰りだ」
夏乃「丁重に外まで送り出してくれ」
誠也「まだ開店させてねーって何度も言わなかったか」
夏乃「開店してたよ 客としてボクを扱ったんだからさ♪」
誠也「はいはい・・・」
誠也「ありがとうございましたー またお越しくださいませー」
夏乃「ちょっと待て!! なんだその投げやりな態度は!?」
夏乃「大事なお客様だぞ!! もっと丁寧に扱おうよー!!」
「また来るからなー!!」
「覚えてろー!!」
誠也(はぁ、開店前からどっと疲れた・・・)
誠也(初日から先行きが不安だ・・・・)
誠也(でも、やっと開店までこぎつけたんだ)
誠也(そう簡単に潰してたまるもんかよっ!!)
誠也「ヨシッ!! 気合入れて頑張るか!!」
こんな関係の2人の会話は大好きです!妹的ポジションの夏乃ちゃんが、背伸びして積極アプローチする展開は見ていてドキドキします!
最後まで2人の関係が友達に近いのか恋人に近いのか想像しながら読みました。女の子にとっては、少し年上の知り合いの男性、それでちょっとイケメンなら気になってちょっかい出したくなるの共感できます。
会話のテンポが良く、2人の側で耳を傾けている、そんな錯覚を覚えました。素敵です🤗