幕間・陽介の場合(脚本)
〇古いアパートの部屋
雨野陽介「遊園地・・・」
雨野陽介「ゆ、遊園地??」
つばささんに遊園地に誘われた次の日。
なんだかんだでやっぱり一緒に行くことが決まり、更にその次の日。
俺は悩みに悩んでいた。
遊園地なんて高校の修学旅行で行ったきりだ。
そして、女性と二人きりで出かけたことなんてない。
悲しいことに、一度もない。
が、しかし。
遊園地に行くことは決定してしまっている。
雨野陽介「どうすりゃいいんだ・・・」
日にちは来週の土曜日。
10日ほど時間がある。
その間に、俺は何をすればいいんだ?
つばささんはあくまで、俺を死なせないために遊園地に誘っている。
・・・はずだ。
だからまず、微妙に浮かれたこの気分をどうにかした方がいい。
雨野陽介(・・・言動はぶっ飛んでるけど、 一生懸命だし)
雨野陽介(笑うと可愛かったりする・・・)
雨野陽介「・・・」
いやいやいや。
いや。
よくない。
たとえて言うなら、メイド喫茶に客として行って、メイドにマジになっちゃってるやつだろ!?
今の状況は!?
雨野陽介「・・・ランニングでもするか・・・」
〇公園のベンチ
疲れた。
走りすぎた。
いくら9月に入ったとはいえ、まだまだ暑い。とんでもない量の汗が出た。
それはそれとして、いくらか落ち着いてきた。
雨野陽介(とりあえず・・・)
雨野陽介(服がいるな・・・)
ここ数年、服を買っていない。
日々は職場と家の往復で、誰かと会う予定もなかった。
今の見た目に清潔感がない・・・
ことは、さすがにないと思うが。
一応、ちゃんとした格好をした方がいいんじゃないかと思った。
雨野陽介(・・・仕事とはいえ、天使とはいえ、 女性と一緒に行くわけだから)
雨野陽介(恥ずかしくない格好をしよう・・・)
雨野陽介(・・・)
雨野陽介(意外とそういうこと考えるタイプだったんだな、俺・・・)
〇大きいショッピングモール
俺は電車に乗って、隣町まで来ていた。
俺の住む町は寂れている。
家しかない。
日用品が揃うスーパーはあるし、家賃が安いのは魅力的だが、いい服を買いに行こうとするとここまで出てくるしかない。
しかし・・・
雨野陽介「緊張するな・・・」
〇アパレルショップ
ショッピングセンターに入るメンズファッションショップの前で、俺は右往左往していた。
雨野陽介(こういう店でいいのか?)
店頭に並ぶマネキンを見ても、
ピンと来ない。
昨日調べたワードはこうだ。
「20代 男性 服屋 おすすめ」
そこに載っていた店なのは間違いない。
が、なんとなく、敷居が高い。
手が出ない価格ではないけど、心理的に。
雨野陽介(俺は・・・今まであまりにファッションと縁遠い生活を送って来たんだな・・・)
雨野陽介(いや、普通にウニクロとか、何ならシーユーとかでいい気がしてきたな・・・)
新品の・・・今の季節に合ったやつを買えば、いいだろう。多分。
あと、こういう店は店員に話しかけられそうで怖い。
店員「お客様、何かお探しですか?」
雨野陽介「えっ」
一歩遅かった。
俺があまりに店の前をうろうろしているから見兼ねたのだろう、店員が来てしまった。
雨野陽介「ええっと・・・ あー、あの、普通に、今の季節に合ったものを探してまして・・・」
店員「なるほど! そうですねえ、この秋のトレンドはブラウンやカーキグリーンになります」
雨野陽介「は、はあ」
ブラウンはわかるが、カーキグリーンって何?
緑なんだろうけど・・・
店員「お客様の好きなお色ですとか、ファッションの感じですとか よければお聞かせください」
店員「ファッションは楽しむものですからね!」
雨野陽介「た・・・・・・ 楽しむ」
そんな風に考えたことはなかったが、そういうものなのか・・・?
雨野陽介「・・・」
雨野陽介「よ、よろしくお願いします・・・」
店員「お任せください!」
店員「一緒に最高の一着、選んでいきましょう!」