屋上の怪人(脚本)
〇見晴らしのいい公園
少女が公園で一人遊んでいる
先輩(幼少期)「怪人を見たって言っても、誰も信じてくれない」
先輩(幼少期)「本当に見たのにな」
凛太郎「僕は信じますよ。あなたの話を」
先輩(幼少期)「君は・・・誰?」
凛太郎「僕の名前は凛太郎」
凛太郎「あなたと友達になりたいんです」
〇田舎の学校
怪人とは幻想である
子供の豊かな想像力が生み出したひと時のマボロシ
その存在は君にしか見えないかもしれないし、君以外にも見えるかもしれない
〇学校の部室
ここは風待高校の怪奇幻想部部室
物置として使われていた小部屋を無理やり部室に改造して使っているため、かなり狭いし、埃っぽい
先輩「凛太郎君!ついにこの学校に『怪人』が現れたの!」
先輩はホワイトボードに書かれた『屋上の怪人』と言う文字を指で指す
先輩「日本各地で目撃されては姿を消してきた怪人。大人たちはその存在を頑なに否定してきた。こんなにも証拠があるのに!」
先輩「今度こそ、私は怪人とコンタクトを取る!」
凛太郎「『屋上の怪人』の話なら僕も聞きましたが、見間違いか何かじゃないんですか」
『屋上の怪人』
夜遅く、帰宅することになった生徒がふと屋上を見上げるとフェンスの上を歩く人間、もとい怪人が見えたと言う話
凛太郎「目撃者はその生徒だけですし、夜の話です。勘違いですよ、勘違い」
先輩「凛太郎君はいつもそうやって意地悪を言うんだから」
先輩は機嫌を損ねたらしく、部室の扉の方に歩いて行く
誰かの影が見える
外の廊下に立っているらしい
先輩「この子がその目撃者よ」
先輩「凛太郎君、見間違いが何だって?」
僕はため息をついた
凛太郎「先輩は意地悪ですね」
まさか本人を呼んでいたとは
目撃者のその生徒は先輩に案内され、部室唯一のソファに腰を下ろす
女子生徒「怪奇幻想部・・・そんな部活はなかったような」
部室に貼られた怪奇幻想部の勧誘ポスターを見て不思議そうに女子生徒はつぶやく
凛太郎「先輩が勝手に言ってるだけなので」
そう怪奇幻想部は先輩が言ってるだけの部活。学校に正式に認められた部ではない
先輩「そんなことより!」
先輩「あなた『屋上の怪人』を見たのよね。 その時のことを詳しく教えてくれる?」
女子生徒「はい、あの日は生徒会の仕事が長引いてしまって午後八時くらいに校舎を出ました」
凛太郎「生徒会・・・?」
先輩「この子、生徒会長よ」
先輩がこそっと耳打ちしてくれる
生徒会長は怪訝そうな目でこちらを見ている。機嫌を損ねてしまっただろうか
生徒会長「そ、それで、帰ろうと思っていたら、真上から声が聞こえたんです」
先輩「それは、つまり怪人の声!?どんな声色だったの!?日本語を喋ってた!?」
生徒会長「日本語だったと思います」
生徒会長「羨ましい、とか許せない、とか言っていました」
凛太郎「少し怖いですね」
生徒会長「声が聞こえる方を見上げたら、屋上のフェンスの上に人影が見えたんです」
生徒会長「飛び降りかも、と思って急いで先生を呼んで屋上に行ったんですけど、結局誰も居なくて」
僕は思ったことを単刀直入に言う
凛太郎「それって怪人の話というより怪談話じゃないですか」
部室内は気まずい沈黙で満たされた
先輩「ともかく!私に考えがあるわ」
〇田舎の学校
〇学校の廊下
〇階段の踊り場
ふいに首元に冷たい感触が
凛太郎「うわっ!!」
先輩「はい、炭酸ジュース。冷たいでしょ?」
凛太郎「先輩」
先輩「そんな顔しないでよ、私の奢りよ」
僕はため息をつくと、階段の先、屋上への扉を見つめる
屋上は普段は立ち入り禁止だ。つまり、扉にも鍵がかかっている
凛太郎「本当にやるんですか。バレたらすっごく怒られますよ」
先輩「バレなければ問題なし!!」
先輩はそう言いながら、スマホを取り出し、さっきの生徒会長に電話をかける
生徒会長には外から屋上を見張っていただき、怪人が現れたらすぐに僕たちに伝えてもらう計画だった
先輩「そう言うわけで屋上の見張りをよろしくね」
先輩「さあ、今のうちに屋上の鍵を壊しておきましょう」
〇グラウンドの水飲み場
生徒会長「・・・」
生徒会書記「こんなところで何やってるの、会長〜」
生徒会長「お、屋上の怪人を探してて」
生徒会書記「最近、噂になってるやつだよね〜 でも、そんなのいるわけないよ〜」
生徒会書記「そんなことより、溜まった生徒会の仕事終わらせといてくださいね〜」
生徒会長「・・・」
先生「お、生徒会長。こんなところで何をやっているんだ」
先生「まあいい、この前頼んだ件についてだが追加で頼みたい仕事が増えてな」
先生「お願い出来るか?」
生徒会長「は、はい。頑張ります」
生徒会長「・・・」
生徒会長「はあ・・・なんで断れないんだろう」
〇階段の踊り場
凛太郎「先輩は怪人に会えたら、何をしたいんですか」
錠を壊しながら、僕は先輩に尋ねる
先輩「あなたは一体何者なのか、何を考えて生きているのか。そんなことを聞いてみたい」
凛太郎「言葉が通じるといいですね」
先輩「意地悪を言うのね」
凛太郎「これは重要なことですよ」
先輩「確かに、怪人の正体が『人間』が変身したものか、そもそも『人外』であるのかはわからない」
先輩「ただ今までの証言で人間の言葉を話す怪人がいる可能性は高いし『屋上の怪人』だって人の言葉を話したって会長は言ってたじゃない」
ガキンと大きな音
錠を壊した音だ
先輩「これで準備完了ね」
〇田舎の学校
〇階段の踊り場
着信音
画面には生徒会長と映っている
『屋上に・・・誰かいます!!』
先輩「!!!」
その言葉と同時に、先輩は屋上に飛び込んでいく
〇高い屋上
先輩「ついに見つけた。この日をずっと夢に見ていたわ」
先輩の視線の先には、人間の形ではありながら決して人ではない『怪人』としか形容できないような存在がそこに立っていた
屋上の怪人「私は、許さない」
先輩「ねえ、あなたは名前とかあるの!?」
先輩「出身地はどこなの!?」
先輩「そもそも人間!?それとも元人間!?」
屋上の怪人「私の名前は」
先輩「名前は?」
凛太郎「危ない!!」
間一髪、先輩を怪人の攻撃から助ける
怪人の方を見ると、こちらを睨みつけている
先輩の方を見ると、先輩もこちらを睨みつけている
先輩「ちょっと・・・どいてくれる?凛太郎君」
凛太郎「ああ、すいません」
怪人の攻撃から先輩を庇うために、押し倒す形になってしまった
凛太郎「それより、どうやら対話ができる相手じゃなさそうですよ」
先輩「そうね、今のうちに記念写真だけでも撮っておきましょう!!」
先輩は僕に向かってスマホを投げるとピースする
先輩「ツーショットでお願い!!」
凛太郎「無茶を言いますね!!」
そう言いつつ、素早く先輩と怪人のツーショットを撮ると、スマホを先輩に投げ返す
先輩「綺麗に撮れた?」
凛太郎「言ってる場合ですか!?」
屋上の怪人「いる・・・」
怪人はフェンスを飛び越え、地上に落ちて行く
僕は急いで、フェンス越しに地上を覗き込む。グラウンドには生徒会長がいるのだ。
しかし、真っ暗で何もわからない。
先輩「早く下に降りるわよ!!」
〇グラウンドの水飲み場
一階に着くと、生徒会長は地面に座り込んでいた。
凛太郎「大丈夫ですか?怪人が上から降って来ませんでしたか?」
生徒会長「そ、そうなの・・・怪人が目の前に降ってきて、その後は向こうのほうに走って・・・」
凛太郎「・・・」
〇学校の部室
怪奇幻想部部室
昨日撮った、怪人とのツーショット写真をニコニコしながら眺めている先輩
先輩「ありがとうね、凛太郎君。この写真は私の宝物になったわ」
凛太郎「喜んでもらえて何よりです」
先輩「でも、結局逃げられてしまったのは反省点ね」
先輩「怪人が屋上にいた理由も、正体も分からずじまいでモヤモヤするわ」
凛太郎「謎は謎のままで終わってもいいんじゃないですか」
凛太郎「例えば、その写真をネットに流して怪人の正体を徹底的に追う、なんてこと先輩はしないでしょう?」
先輩「そうね、しない」
凛太郎「先輩は怪人の幻想的なとこに惹かれたんですよ、正体が不明だからこその魅力に」
凛太郎「だから手が届いてはいけないんです」
先輩「凛太郎君。それでも私は彼らの正体を知りたいの」
先輩「彼らがどこから来て、どこへ行くのか」
〇学校の部室
先生「おーい、そろそろ鍵閉めるから帰る準備しとけよ」
先生「なんだお前、こんなところに一人で何やってんだ」
先輩「一人?あれ、凛太郎君さっきまでいたのに」
先輩「廊下で男子生徒とすれ違っていませんか?」
先生「俺は見てないぞ。さっさと家に帰れ」
〇生徒会室
僕は生徒会室にいた。
凛太郎「昨日は僕たちに付き合ってもらってすいませんでした」
生徒会長「いえ、いいんです。 おかげでなりたいものになれました」
凛太郎「生徒会長さんって『怪人』ってなんだと思いますか?」
生徒会長「どうしたの、急に」
凛太郎「僕は怪人とは『幻想』だと思っています。人間の心の隙間が生み出した世界の幻」
生徒会長「面白いことを言いますね。昨日、確かに怪人は存在してましたよ」
生徒会長「あなたも見たでしょう?」
凛太郎「ええ。まさか、想像者の身体を乗っ取れるくらい確実な存在になっているとは思いませんでした」
生徒会長「・・・そう、あなたも『想像上の存在』なのね」
凛太郎「僕は先輩の『想像上の存在』です」
凛太郎「あなたは『生徒会長さんの妬み、怒りが生み出したもう一人の自分』と言うところですか」
生徒会長「そんなところ」
生徒会長「あなたには分かってもらいたいな」
生徒会長「自分が、本体の暗く澱んだ部分から生まれた存在だと理解した時の絶望を」
生徒会長「偽物である私が生まれてしまった理由を、ずっと考えたわ」
生徒会長「そして、一つの答えに辿り着いた」
生徒会長「私は、彼女のために生まれてきたの。抑圧された彼女の感情を解放してあげるために」
生徒会長「あなたもそうでしょう?」
凛太郎「僕は成り代わるために生まれてきたんじゃない」
凛太郎「僕は先輩の『友達』になるために生まれてきた」
生徒会長「この子はね、自分の気持ちが言えない子なの」
生徒会長「真面目で教師にも評判がいいから、誰もやりたがらなかった生徒会長に推薦されてしまったり、色んな仕事を押し付けられたり」
生徒会長「それを断る勇気もない、臆病な子なの」
生徒会長「それでも少しずつ溜まっていった小さな怒りや憎しみが私を創った」
凛太郎「これから何をする気ですか」
生徒会長「そうね、まずはこの子を生徒会長に推した教師たちを何人か消そうかな」
凛太郎「・・・力では、あなたの問題は解決しない。会長自身が自分の言葉で気持ちを伝えないといけない」
生徒会長「綺麗な言葉ね」
屋上の怪人「醜い姿よね」
屋上の怪人「でも、これがあの子の真実」
屋上の怪人「あの子が抱えきれないものを私が背負う」
凛太郎「それはきっと正しくない」
凛太郎「僕らが出来るのは、側にいてあげることだけだ」
凛太郎「肩代わりは出来ない」
凛太郎「うっ!!」
屋上の怪人「私があの子を守らないと!誰があの子を守るの!」
屋上の怪人「もし何もしてあげられないのなら、私が生まれた意味なんてないじゃない!」
凛太郎「それは・・・違う」
凛太郎「先輩は口を開けば怪人怪人ばかりで、友達が全然出来なかったんです」
凛太郎「でも本当は寂しくて、だから、想像から僕が生まれた」
凛太郎「僕が出来たのは、先輩の話を聞くだけ」
凛太郎「それしか出来ない、だけど、それだけでよかった」
屋上の怪人「何が言いたい!」
凛太郎「あなたという存在だけが、彼女の背中を押してあげられるんですよ!!」
屋上の怪人「それだけで、いいはずが・・・!!」
屋上の怪人は拳を振り上げる
しかし、振り上げたまま動きが止まった
屋上の怪人「本当に、それでいいの・・・」
屋上の怪人「あなた一人でやっていけるの・・・?」
屋上の怪人「わかった」
屋上の怪人「・・・私はこの子を見守ることにする」
屋上の怪人「自分の気持ちは、自分で伝えるって言ってくれたから」
〇田舎の学校
〇グラウンドの水飲み場
〇高い屋上
〇学校の部室
怪人とは幻想である
彼女の寂しさを埋める想像力が作り出した、マボロシ
今日もまた、先輩は怪人を追い求め
そして僕は、先輩の隣に
これからも
ラヴクラフト好きの私としては、怪奇幻想部という名称にグッときました。それにしても、先輩はイマジナリーフレンドの凛太郎に依存しすぎでちょっと危険ですね。いつか怪人幻想の呪縛から解き放たれる日が来るといいのですが。
怪人とは、などなど、作品の世界設定が精緻に練り込まれた感じで、とても深みのある物語ですね。後半の展開も驚きの連続でした。
想定外だったけれど、二人がその妄想されていた怪人であるとは、斬新な発想だと思いました。見えない存在と対話することのできる先輩こそ、怪人なのかもしれませんね。