投身の明くる日

若海 葉

投身の明くる日(脚本)

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〇教室
写真部「ええ、確かに彼女の死の瞬間を写真に撮ったのは私ですが・・・」
写真部「でも、だからって私が彼女を殺しただなんて飛躍しすぎですよ・・・」
写真部「第一、写真は彼女が身を投げた第2校舎じゃなくて、第3校舎から撮影されているはずでしょう?」
写真部「隣の建物から写真を撮りながら第2校舎の屋上にいる彼女を突き落とすなんて、人間業じゃないですよ。アハハ!」
写真部「・・・私について調べているなら、彼女との関係についても、もうご存じでしょう?」
写真部「ええ、私たちはこの学校でただ二人の写真部でした・・・」
写真部「私が撮影で、彼女が被写体」
写真部「私は彼女の美しさを永遠に残すことが好きで、彼女は最高の一枚のために自分の身を捧げることを惜しみませんでした・・・」
写真部「私たちは写真を挟んで相思相愛だったと言って良いでしょうね」
写真部「そんな親友を何故殺したんだ、と言われましても・・・」
写真部「殺してないと言っているでしょう。わからない人だなあ・・・」
写真部「それに、私たちは親友なんて関係ではありませんでしたよ・・・」
写真部「写真の撮影以外では会おうともせず、互いの誕生日も、住んでいる地域も知らなかったのですからね」
写真部「ああ、それにしても今日もいい夕日ですね!」
写真部「彼女、夕日をバックに撮られるのが一番好きだったんです」
写真部「それだけではなく、彼女は夕日そのものになりたいと言っていました・・・」
写真部「何よりも赤く美しく眩しく光・・・写真に撮られなければ夜に塗りつぶされて失われてしまう輝きに・・・」
写真部「・・・自由落下の重力に従って体が裏返れば、夕日のように全身真っ赤になれるんじゃないかと言っていました」
写真部「空中に身を投げ出して、全身で夕焼けを浴びたら今までにない色彩表現ができるんじゃないか、ともね・・・」
写真部「それで、地面にたたきつけられて中身が散らばって、それが夕日に照らされるのを撮って欲しいって・・・」
写真部「ええ、もうお判りでしょう。ただのいつも通りの、作品制作の一環だったんですよ」
写真部「彼女が最高の一枚のために屋上から飛び降りたいと言うなら、私はそれを撮影するだけでした・・・」
写真部「だって、私たちは写真だけが接点だったのですから、ね・・・」

〇教室
写真部「・・・ええ、彼女は最期まで奇麗でした」
写真部「誰が何と言おうと、私たちの最高の一枚だったんです」
写真部「だから私を自殺幇助で捕まえたいなら、別に構わないですよ?」
写真部「あれ以上の写真は、逆立ちしたって飛び降りたって・・・もう一生撮れないでしょうから・・・」

コメント

  • 二人の最後の共同制作にして最高傑作ということなんでしょう。やはり創作にのめり込む芸術家が最後に行き着く先は、「死」を表現したいという誘惑なのかもしれません。

  • この純粋そうで華奢な女子からは想像もできないような淡々とした状況説明に唖然としてしまいました。死人に口なし、彼女がこうも豪語するなら、二人の仲で暗黙の了解があったのでしょうね。

  • 美しい写真に対する狂気的な執着、それを淡々と語る様にまた狂気を感じますね。物事の追求と執念、そういったところから芸術は生まれるものですが、、、考えさせられるテーマですね。

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