革命の狼煙

光章生

読切(脚本)

革命の狼煙

光章生

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〇モヤモヤ
不破ななき「私の家系は呪われた力を持つ一族だった」
不破ななき「その強大過ぎる力は暴走した時、誰にも止めることは出来ない 私自身にも」
不破ななき「だから幼い頃から私は恐れられ、誰も近寄ろうとはしなかった」
不破ななき「それが当たり前で私は死ぬまでそうやって生きていくものだと思っていた あの高校2年生の秋までは・・・」

〇河川敷
武「おら、早く脱げよ人間!」
シャイア「や、やめてください すぐ脱ぎますから」
武「はっ、本当に貧相な体してやがる これじゃ俺たち怪人みたいに身のままでいれねぇよな」
武「手持ちもゴミばっか 身分が低いしこんなもんか」
武「ん、なんだこりゃ?」
シャイア「あっ! それは触らないで!」
武「おいてめぇ、今俺に逆らったな?」
シャイア「あ・・・ごめんなさい でも、これだけは・・・」
武「うるせぇ!」
シャイア「あぁ!」
不破ななき(また人間がイジメられてる 本当に不憫な生き物だな、人間って 迫害されるために生まれてきたようなものだ)
武「舐めた真似しやがって」
武「ん? このノート・・・」
シャイア「あぁ、中は見ないで!」
武「あっはっはっ! なんだこりゃ、脚本か?」
武「『僕の悲しみは海よりも深い けれど他人もまた同じ悲しみに悩んでいると思えば、心の傷は癒されなくても、気は楽になるんだ』」
不破ななき「!!!」
武「あっひゃひゃ! んだこの恥ずかしい台詞は 目が腐っちまうぜ」
武「面白れぇから他の奴にも見せてやらないと あぁ安心しろ、最後は跡形もなく燃やしてやるから」
シャイア「そ、そんな・・・」
不破ななき「ちょっと待ってくれ」
武「お前は・・・不破!?」
不破ななき「そのノートを彼に返してやってくれないか?」
武「は? 何でだよ、お前人間なんかの肩を持つのか?」
不破ななき「いや、単純に彼の描いたホンに興味があるんだ」
武「もしかして今の話聞いてたのか? いいぜ、コイツのうすら寒い台詞、最高に笑えるからな」
不破ななき「うすら寒い・・・だと?」
武「な? 嘘だろ・・・?」
武「す、すみません! すぐこのノートは返します!」
不破ななき「危ない、まさか暴走しかけるとは・・・」
シャイア「あ、あの・・・」
シャイア「ありがとうございました!」
不破ななき「礼ならいい 別に君を助けようと思ってやったわけじゃなく純粋に君の脚本に興味があっただけだ」
シャイア「え、僕の脚本に・・・?」
不破ななき「さっきの台詞、シェイクスピアだろう? 人間であることを隠して舞台脚本を書いていた、あの」
シャイア「怪人の貴方でもシェ、シェイクスピアをご存じなんですか!?」
不破ななき「ああ、だから読ませてくれないか? 君の脚本を」

〇洋館の一室
シャイア「ここは?」
不破ななき「不破家が昔使っていた邸宅の一つだ 人間の君と一緒にいるところを誰かに見られたから困るからね」
不破ななき「では、読ませてもらうよ」

〇洋館の一室
シャイア「ど、どうですか・・・?」
不破ななき「・・・ふむ、悪くはない 多くの怪人が描くバイオレンスやアクションだけの中身のない作品とは正反対だ」
不破ななき「キャラクターの心の葛藤や対立を主軸としていて、かつ哲学的要素も入っているのは高評価に値する」
シャイア「ありがとうございます! シェイクスピアなどの大好きな作家のエッセンスを盛り込んで描いた作品なんです!」
不破ななき「そう、問題はそこだ」
シャイア「え?」
不破ななき「引用元が分かる分、台詞が陳腐に見えてしまう」
不破ななき「簡単に言えばオリジナリティ、そして作品のメッセージがぶれてしまっていて心に響かないんだ」
不破ななき「君はこの作品を通じて何を伝えたい? 何を訴えたいんだ?」
シャイア「あ、えと、それは・・・」
不破ななき「すまない、いつの間にか熱くなってしまった こんな話を、しかも人間と出来る日がくるとは思っていなかったものでね」
不破ななき「もう日も暮れる 今日は有意義な時間が過ごせたよ ありがとう」
シャイア「い、いえ こちらこそ・・・」
不破ななき「さらばだ、人間よ」
シャイア「シャイアです!」
シャイア「僕の名前 今日は本当にありがとうございました」
不破ななき「礼はいい」
シャイア「あ、あの・・・よかったら、また、僕の脚本読んでくれませんか?」
不破ななき「ほう?」
シャイア「こんなに僕の脚本を鋭く批評してくださる人がいるなんて、とっても嬉しくて だから──」
不破ななき「いいだろう」
シャイア「ほ、本当ですか!?」
不破ななき「ああ、だが外で会うのはお互いにとって悪い影響を与えるからここだけで会うということにしてくれ」
シャイア「わかりました! じゃあ来週の金曜はどうですか? それまでに新しい脚本を描いてきます!」
不破ななき「わかった」

〇洋館の一室
  そして翌週
シャイア「どうでしょうか?」
不破ななき「ふむ、主人公の行動の一貫性も感じられるし、主軸がしっかりして作品の質は上がっている」
シャイア「ありがとうございます!」
不破ななき「だが、まだ過去の名作の雰囲気を拭いきれていないな 現代人が読むには共感性や感情移入できる箇所が少ない」
シャイア「な、なるほど・・・勉強になります!」

〇洋館の一室
不破ななき「こうして私たちはこの場所で定期的に会い、シャイアが脚本を描き、それを私が批評するという関係が出来上がった」
不破ななき「『君がいるだけでこんなに心穏やかになるなんて 君が教えてくれたんだ、心の平穏を』」
不破ななき「うん、この主人公だからこそ出る台詞だ キャラクターの造形がかなり上手くなってきた」
シャイア「やった! ななきが少し演じてくれるおかげもあって想像しやすくなったんだよ」
不破ななき「演じる、と言えるほどではないがな」
シャイア「そんな 経験がないだけでななきならいい役者になれると思うよ」
不破ななき「役者か、考えたこともなかったな 役者になればシャイアの舞台を演じることも出来るわけだ」
不破ななき「悪くはない」
シャイア「嬉しいこと言ってくれるね」
不破ななき「本当にいいかもしれないな シェイクスピアのように劇作家として怪人に一泡吹かせることが出来るかもしれない」
シャイア「そんなこと言っていいの? ななきも怪人なのに」
不破ななき「私は怪人が嫌いだからな いや、正確に言えば力で弱者を踏みつける怪人が」
シャイア「ななき?」
不破ななき「すまない、少し感情が高まってしまったようだ 今の発言は忘れてくれ」
シャイア「ううん、ななきにそこまで思わせる何かがあるのなら、僕も受け止めるよ 君の想いを」
不破ななき「そんな・・・いいのか?」
シャイア「怪人だったらそんなこと話せないだろうけど僕は人間だもん それに友達だし、僕たち」
不破ななき「友達・・・」
シャイア「へへ、何か恥ずかしい台詞だったね、今のは」
不破ななき「そうかもしれない だが、私が長年望んでいた言葉だったのかもしれないよ」
シャイア「ななき・・・」
不破ななき「シャイアが劇作家になれるよう、私が協力する だから革命を起こそう、かつてのシェイクスピアのように」
シャイア「うん!」

〇住宅街
シャイア「またね、ななき!」
シャイア(ななきと出会ってから毎日が楽しい 友達がいるってこんなに素敵なことだったんだ)
シャイア(あ、あれは)
武「ん? お前・・・」
武「ほう、この間の人間じゃねーか」

〇住宅街
不破ななき(友達・・・か)
不破ななき(惚けている間に道を間違えたか 私としたことが)
???「やめてください!」
不破ななき「?」

〇空き地
武「いい顔すんじゃねーの! でもまだこれからだぜ」
シャイア「あっ!」
シャイア「あぁ、僕の・・・」
武「ふっひゃっひゃっひゃ! いぃ気分だぜ!」
不破ななき「何をしている?」
武「あん? あ、不破ななき!」
シャイア「! ダメだ、ななき! こっちにこないで!」
不破ななき「お前、またシャイアに何か────」
武「あ、これはだな、不慮の事故っていうか・・・」
不破ななき「お前が・・・やったのか?」
武「あ、いや、やったっていうか・・・こうなっちゃったっていうか・・・」
シャイア「ななき! 大丈夫! 僕は前々気にしてないから!」
不破ななき「貴様、シャイアがどんな想いでこのホンを書いたか知っているのか?」
武「本当に、悪いと思ってるんだ だから許し────」
不破ななき「許さん!!!」
シャイア「ダメだななき!!!」
不破ななき「シャイア?」
武「なんか知らねぇが助かったぜ じゃあな!」
不破ななき「何故あんな奴を庇って・・・」
シャイア「怪人に手を出したりしたら、ななき、犯罪者になっちゃうでしょ? 僕なら・・・人間だから」
不破ななき「君を切ってしまうのだったら、犯罪者になってもアイツを切った方が後悔はなかったのに」
シャイア「ダメだよ、だって僕が後悔しちゃう」
不破ななき「待っていろ、すぐに救急車を呼ぶから」
不破ななき「この後すぐに救急車が到着し、何とかシャイアは一命を取り留めたが・・・」

〇上官の部屋
不破鋼賀「ななきぃ!!!」
不破ななき「ぐはぁ!」
不破鋼賀「貴様人間なんかとつるんでたらしいな 自分が不破家の怪人だと本当に分かっているのか?」
不破ななき「う、す、すみませんでした お父様」
不破鋼賀「この世界は弱肉強食、舐められたらお終いだ」
不破鋼賀「世間にお前が人間とつるんでたと知られたら会社の経営に響くんだぞ、もう二度と会うな」
不破ななき「! そ、そんな」
不破鋼賀「なんか文句があるのか? それとも我が社の怪人一万余名を路頭に迷わせたいのか?」
不破ななき「はい、分かりました・・・」

〇おしゃれな教室
シャイア「事件から数週間が経ち、まだ傷は残るものの十分動けるようになった僕は復学した」
シャイア「入院中ななきが見舞いにきてくれることはなかったけれど、それは仕方ない」
シャイア「怪人が人間の見舞いに行ったと知られたらそれこそ周りがななきを見る目が変わってしまう」
シャイア(あ、ななき)
  久しぶりだね。
  今日の放課後、またあの場所で会えないかな?
  前のホンは燃やされたけど、また新作を書いたんだ。
  この前のことは気にしないで。
  ななき自身に止められなかったことは僕もよく分かってるから。
シャイア(ななき、気にしてないといいんだけど)
シャイア(何か書いてる)
シャイア(え?)
  今後は私に関わるな人間
  お前とつるんでいると知られたら迷惑だ
シャイア(え、どうゆうこと? もしかして僕のせいで?)
シャイア(ななき、何があったのか教え──)
不破ななき「やめろと言っているだろう、人間」
シャイア「そんな、ななき・・・」
武(不破の奴、前まであいつと仲良かったみたいなのに・・・まぁ俺には関係ねぇか)

〇貴族の部屋
不破ななき「覚悟を決めろ、不破ななき 本気で革命を起こしたいのなら・・・」

〇オーディション会場の入り口
シャイア「あれから僕たちは一度もまともに会話を交わさないまま、程なくしてななきは急に転校が決まり、学校を去った」
シャイア「転校先の学校も分からなかったため、僕はななきに連絡を取ることは叶わなかった」
シャイア「1年近くが経過し、僕はあのななきとの日々が夢だったんじゃないかとすら思い始めていた」
シャイア「そんなある日、僕の下に全国高校生演劇コンクールのチケットが届いた 封筒に差出人は書かれていなかった」
シャイア「ここが会場か」
シャイア(一体誰がこれを・・・ でも無料で観劇できるんだ こんなチャンス中々ないぞ)

〇劇場の座席
シャイア(流石全国大会 どの学校も有名校ばかりだ・・・ん?)
シャイア(この学校は知らないな・・・え? この作品名って僕がななきに見せたホンと同じタイトル・・・?)
場内アナウンス「まもなく開演の時間となります」

〇劇場の座席
シャイア(あっ!)

〇劇場の舞台
不破ななき「『君がいるだけでこんなに心穏やかになるなんて 君が教えてくれたんだ、心の平穏を』」

〇劇場の座席
シャイア(ななき、あの時話した革命を本当に起こそうとしているんだね)

〇大ホールの廊下
シャイア「あ、あの!」
シャイア「チケット、ありがとうございました!」
不破ななき「何のことだ? 人間」
シャイア「これは僕の独り言なので気にしないでください」
シャイア「今日の舞台、素晴らしかったです でも、僕もっといいホンを持っているんです」
シャイア「だからよかったら──」
不破ななき「人間の書いたホンなど読むわけがない」
シャイア「そう、ですよね・・・」
不破ななき「だが・・・」
不破ななき「差出人のない郵送で送られてくれば読むかもしれんな 誰が書いたのかも分からないのだから」
シャイア「これは・・・ななきの演劇部の」
シャイア「ありがとうななき 一緒に目指そう、世界の革命を」

コメント

  • このストーリーのモチーフは怪人と人間の許されない友情だけれど、付き合うことが許されない全ての関係性に当てはまる普遍的な両者の心の葛藤が描かれていて読み応えがありました。普通の友人関係を築くことは叶わなくとも、作品作りを通して繋がるシャイアとななきの絆は本物ですね。

  • たとえ人間同士でも彼らのように、同じ情熱を持ったところから友情が芽生えるなんてことなかなかむつかしいのに、怪人と人間という相反する立場の二人がこうしてお互いの存在を必要としたというところに感動しました。

  • シェイクスピアのくだりから、どんどん引き込まれて読んでおりました。
    脚本へのキャラクター造形のアドバイスが解像度高い...!いいお話でほっこりしました🤗

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