エピソード1(脚本)
〇店の事務室
青井 絢斗「おはようござ・・・」
青井 絢斗「い!?」
「・・・・・・」
〇コンビニのレジ
青井 絢斗「・・・怪人?」
青井 絢斗「なんで怪人が事務所に・・・?」
青井 絢斗「いや、見間違いに決まってる 怪人なんかいなかった・・・」
青井 絢斗「開けるぞ・・・」
〇店の事務室
青井 絢斗「見間違いじゃねー!」
???「あの・・・」
店長「おはよう」
青井 絢斗「おはようござ・・・」
青井 絢斗「じゃない! 店長、どういう状況ですかこれ!」
店長「今日から一緒に働くシュヴェルトさんよ」
青井 絢斗「し、新人?」
青井 絢斗(そういや昨日・・・)
〇店の事務室
店長「では明日、お待ちしています」
ピッ
青井 絢斗「お疲れ様でーす」
店長「お疲れ様 今日も大変だったね」
青井 絢斗「夜番はいつ増えるんですか? ここんとこずっと俺と店長のツーオペじゃないすか」
店長「ごめんね、負担かけて」
店長「でね、明日から新人さんが来るの 教育お願いできる?」
青井 絢斗「マジですか!?」
青井 絢斗「これ以上は無理ですよ 朝番か昼番から人を回してください」
店長「パートの主婦さんは無理だよ お子さんや旦那さんがいるし」
店長「とにかく明日からよろしくね」
青井 絢斗「・・・ま、来てくれればの話ですけどね」
〇店の事務室
青井 絢斗(新人って、怪人かよ!?)
シュヴェルト「あの・・・」
青井 絢斗「ひえっ」
シュヴェルト「シュヴェルトと申します 若輩者ですがよろしくお願いいたします」
青井 絢斗「あ、青井です よろしく・・・」
店長「じゃあシュベルトさん まずオリエンテーションをしましょう」
店長「青井くん 悪いけどひとりでよろしくね」
青井 絢斗「・・・うっす」
〇コンビニのレジ
青井 絢斗「お次のお客様ー!」
青井 絢斗「お待たせしました」
客「ピッしてもらおうね~」
青井 絢斗(混んでるときにガキにやらせんじゃねーよ!)
店長「最初はレジ打ちです 後ろで見ていてください」
シュヴェルト「はい!」
青井 絢斗(やっと来たか)
青井 絢斗「お会計2218円です」
客「・・・・・・」
客「くーださいって」
青井 絢斗(早く出せ!)
客「・・・はい」
青井 絢斗「お預かりします」
店長「バーコードがない商品はパネルをタッチして個数を選択してください」
シュヴェルト「はい」
店長「値引き商品は・・・」
青井 絢斗「ありがとうございましたー」
客「はるちゃん、ひとりでお買い物できて偉いね~」
青井 絢斗(さっさとサッカー台に行け!)
青井 絢斗「お次の・・・」
客「おい! いつまで待たせるんだよ!」
青井 絢斗「申し訳ありません」
青井 絢斗(土に還れ)
〇店の事務室
青井 絢斗「店長 あの怪人の人はなんだったんですか?」
青井 絢斗「真面目そうな人・・・怪人? でしたけど、今まで怪人が応募してきたことないですよね」
店長「少し前から親会社が、採用のときに怪人枠を設けることに決めたの 共同参画社会の一環でね」
青井 絢斗「人間・怪人和平条約でしたっけ 確か3年ぐらい前に制定された・・・」
〇地球
店長「もともと怪人は、彗星とともに宇宙からやって来たんだって」
〇渋谷駅前
店長「地上は人間、地底は怪人 その棲み分けが破られたのは40年前」
〇魔界
青井 絢斗「一部の怪人が地上を征服しようとしたんですよね」
青井 絢斗「それで政府は怪人に対抗できる人間を集めてヒーロー組織を作ったと」
店長「そう けど怪人も組織を結成し、人間を滅ぼそうとした」
店長「どちらかが滅ぶまで戦いは終わらないと思ってたけど・・・」
青井 絢斗「怪人の親玉の娘がヒーローに一目惚れしたんでしたっけ?」
店長「うん」
〇渋谷駅前
店長「種族を越えた恋愛を成就させてあげたくて、若者中心の和平運動が活発になった」
店長「そして彼女の情熱は頑なだったヒーローの心を溶かした・・・」
店長「なんかロマンチックだよね」
〇店の事務室
青井 絢斗「恋愛は人をバカにするって言いますけど 人間も怪人も同じなんですね」
店長「和平交渉が始まったんだから、そう悪いことでもないよ」
青井 絢斗「そっすね」
店長「うちは接客業だし 怪人の採用も二の足を踏んでたんだけど」
青井 絢斗「ま、いいんじゃないですか お客さんも慣れればどってことないでしょ」
店長「だといいけど」
青井 絢斗(もし客が減ってもオレの仕事が楽になるだけだし)
青井 絢斗(時給が下がるわけでもねーし、どうでもいいわ)
〇コンビニのレジ
シュヴェルト「いらっしゃいませ!」
青井 絢斗「仕事には慣れてきた?」
シュヴェルト「はい! 店長さんや青井さんのご指導ご鞭撻のおかげです」
青井 絢斗「堅苦しいなー」
青井 絢斗「・・・あれ?」
青井 絢斗「落とし物かな」
客「うさちゃん、どこいっちゃったのぉ!」
客「ひよりちゃん おじいちゃんが違うやつ買ってあげるから」
客「ダメなのー! さくらちゃんとおそろいなんだもん!」
シュヴェルト「きっとあのお客様のですね お渡ししてきます!」
青井 絢斗「あっ」
青井 絢斗「だいじょうぶかな・・・」
シュヴェルト「失礼いたします」
シュヴェルト「お客様の落とし物ではありませんか?」
客「え、ええ」
客「・・・っ」
客「ひよりちゃん 店員さんにありがとうは?」
客「うわーん!」
シュヴェルト「あっ・・・」
客「ひよりのことたべないでー! かわとほねばっかりでおいしくないよー!」
客「あ、ひよりちゃん!」
シュヴェルト「・・・・・・」
青井 絢斗(やっぱりな)
シュヴェルト「・・・・・・」
青井 絢斗「仕方ないよ シュヴェルトさんが来てからまだ1週間ぐらいだし」
シュヴェルト「店員の自分がお客様を怖がらせてしまうなんて・・・」
シュヴェルト「自分は接客業には向いていないのでは・・・」
青井 絢斗「大げさだなー」
青井 絢斗「猫よけにペットボトル置いても、最初は驚くけどすぐ慣れるんだって」
青井 絢斗「そんな感じでお客さんもそのうち慣れるよ」
シュヴェルト「そうでしょうか・・・」
青井 絢斗「そうそう さ、次の仕事しよう」
シュヴェルト「はい・・・」
〇散らかった部屋
青井 絢斗「ただいまー」
〇散らかった部屋
青井 絢斗「ま、誰もいねえけど」
青井 絢斗「ぷはー!」
青井 絢斗「廃棄を持ち帰れるとこが数少ない利点だよな」
青井 絢斗「・・・・・・」
青井 絢斗「シュヴェルトさん、すげー落ち込んでたな」
青井 絢斗「今、辞められると困るしな・・・」
〇女の子の部屋
シュヴェルト「青井さんはああ言ってくれたけど・・・」
シュヴェルト「自分のせいでお客様がいなくなってしまったら・・・」
シュヴェルト「お店が潰れてしまったら・・・」
シュヴェルト「また、前みたいに・・・」
シュヴェルト「・・・・・・」
シュヴェルト「店長さんがくれたマニュアルを読もうかな・・・」
シュヴェルト「・・・はい」
???「シュヴェルトよ 首尾はどうだ」
シュヴェルト「電子マネー決済を覚えているところです」
シュヴェルト「種類が多くて難しいですね」
???「そんなことを訊いているのではない!」
???「使命を忘れたわけではあるまいな」
シュヴェルト「・・・ええ ですが人間は本当に滅ぼすべき存在なのでしょうか?」
シュヴェルト「リーベ姫も・・・」
???「姫はお若い 今は人間に熱を上げているが、いずれ目を覚ますさ」
???「いいかシュヴェルト 劣悪種たる人間を滅ぼすという悲願、くれぐれも忘れるなよ」
シュヴェルト「はい、プロツェスさん・・・」
シュヴェルト「青井さんから・・・?」
お疲れ様です
今日のこと、あまり気に病まないでくださいね
オレもよくクレームが来ますから
シュヴェルトさんは一生懸命やってくれていると思います
なにかあれば気軽に相談してください
シュヴェルト「青井さん・・・」
〇魔界
プロツェス「シュヴェルトめ なにを迷っているのだ」
プロツェス「まあよい」
プロツェス「遠からず人間に不信感を抱くようになるだろう」
〇コンビニのレジ
青井 絢斗「雨の日は暇でいいな」
シュヴェルト「・・・・・・ あの、青井さん・・・」
店長「青井くん、シューさん 休憩行ってきていいよ」
青井 絢斗(シューさん?)
青井 絢斗「じゃ行きましょうか」
シュヴェルト「はい・・・」
シュヴェルト「・・・・・・」
〇店の事務室
青井 絢斗「廃棄廃棄っと」
青井 絢斗「好きなの選んでいいよ」
シュヴェルト「食事ですか? 自分は持ってきてますので」
青井 絢斗(すげーまずそう)
青井 絢斗「シュボルブッ・・・」
「・・・・・・」
青井 絢斗「ごめん、噛んじゃった」
シュヴェルト「いえ 呼びにくいってよく言われます」
青井 絢斗「だから店長はシューさんって呼んでたのか」
シュヴェルト「青井さんもお好きに呼んでください」
青井 絢斗(・・・また名前噛んだら失礼だしな)
青井 絢斗「じゃあオレもシューさんって呼ぶよ」
青井 絢斗「シューさんもオレのこと絢斗くんって呼んでもいいよ なーんて・・・」
シュヴェルト「・・・・・・」
青井 絢斗(やべっ 距離感ミスった?)
シュヴェルト「・・・あやとくん」
青井 絢斗(泣いてる!?)
シュヴェルト「すみません・・・」
青井 絢斗「ごめん、変なこと言っちゃって」
シュヴェルト「違います!」
シュヴェルト「自分は・・・」
シュヴェルト「仕事を探してもずっと断られ・・・ やっと仕事を見つけてもお客様に怖がられ・・・」
シュヴェルト「皆さんに避けられたり、売上が下がってお店を潰してしまったり・・・」
シュヴェルト「だから・・・」
シュヴェルト「絢斗くんがそう言ってくれたのが・・・ すごく嬉しくて」
青井 絢斗「そうだったのか・・・」
シュヴェルト「・・・・・・」
青井 絢斗「シューさん 怪人って人間の飯も食える?」
シュヴェルト「え? ええ、恐らく 食べたことはありませんが」
青井 絢斗「じゃ、今試そうぜ!」
シュヴェルト「自分が食べてもいいんですか?」
青井 絢斗「いいよ どうせ捨てるものなんだから」
青井 絢斗「でもマネージャーがいるときはダメだよ 規則では禁止だからな」
シュヴェルト「はい・・・」
青井 絢斗「いただきまーす」
シュヴェルト「・・・いただきます」
青井 絢斗「どう?」
シュヴェルト「・・・お」
シュヴェルト「おいしいです!」
シュヴェルト「こんなにおいしいものは初めてです お箸が止まりません!」
青井 絢斗「廃棄があるときは食っていいよ」
シュヴェルト「週7で出勤します!」
青井 絢斗「労基法違反だよ」
〇コンビニのレジ
青井 絢斗「いらっしゃいませー」
客「あの・・・」
青井 絢斗(この前の子どもだ)
客「このまえのおれいなの 怪人さんにわたしてくれますか?」
青井 絢斗「呼びましょうか?」
客「ダメ! おにいさんがわたして!」
青井 絢斗「直接渡したほうがきっと喜びますよ」
客「でも・・・ 怪人さん、おこってないかなあ?」
シュヴェルト「怒ってなんかいませんよ」
客「怪人さん!」
客「ひよりがすきなキャンディなの うけとってくれる?」
シュヴェルト「ありがとう ひよりちゃん」
客「うん!」
〇散らかった部屋
青井 絢斗「シューさん、すごい喜んでたな」
青井 絢斗「ありがとうって言われただけなのに」
青井 絢斗「オレも昔は・・・」
青井 絢斗「シューさんもいつかオレみたいになっちまうのかな」
青井 絢斗「はあ・・・」
〇コンビニのレジ
青井 絢斗(シューさん、疲れてるみたいだな)
青井 絢斗(3ヶ月目か 慣れてくるけど辛くもなってくる時期だな)
青井 絢斗「シューさん 今度オレとメシ行かない?」
青井 絢斗「焼肉とかさ ここの弁当よりうまいよ」
シュヴェルト「行きます!」
シュヴェルト「さっそく今日行きませんか!?」
青井 絢斗「おー」
青井 絢斗(元気になったみたいだな)
〇川に架かる橋
シュヴェルト「・・・プロツェスさん」
青井 絢斗「知り合い?」
プロツェス「今日で勤務3ヶ月だな そろそろ人間に絶望した頃だろう?」
青井 絢斗「・・・不審者か?」
シュヴェルト「彼はプロツェス ・・・正義派のリーダーです」
青井 絢斗「正義?」
プロツェス「我らは人間を滅ぼすために手を尽くしている」
プロツェス「和平派の怪人に人間の醜さを見せつけるのもその一環」
プロツェス「接客業をすると人間嫌いになると聞いたのでな」
青井 絢斗「・・・まさか、シューさんがうちに来たのも?」
プロツェス「その通り」
青井 絢斗「回りくどいな」
プロツェス「おまえにはわかるはずだ」
プロツェス「心がすり減り、人間が嫌いになっただろう?」
青井 絢斗「・・・・・・」
青井 絢斗「待てよ シューさん以外の怪人にも接客業をさせたのか?」
プロツェス「ああ」
青井 絢斗「じゃあ人間滅亡派のほうが優勢になるじゃねーか!」
青井 絢斗「終わりだ・・・」
プロツェス「シュヴェルトよ その人間を殺し、正義を成し遂げよう」
青井 絢斗「シューさん」
シュヴェルト「・・・・・・」
青井 絢斗「シューさんが決めたならオレは止めない」
青井 絢斗「けど最後にメシだけでも一緒に・・・」
シュヴェルト「自分は・・・」
シュヴェルト「人間に絶望なんかしてない!」
青井 絢斗「え!?」
プロツェス「疎まれ、見下され、蔑まれ それでも人間に絶望していないというのか!?」
シュヴェルト「確かにそういう人間もいる」
シュヴェルト「けど・・・ 店長さんは、こんな自分を雇ってくださった」
シュヴェルト「ありがとうと言ってくれるお客様もいる」
シュヴェルト「絢斗くんはどんなに忙しくても丁寧に教えてくれた」
シュヴェルト「自分に手を差し伸べてくれた」
シュヴェルト「絶望なんかするわけない!」
青井 絢斗「シューさん・・・」
プロツェス「・・・フッ 人間は愚かで弱い 我らとは違う」
プロツェス「気が変わったらいつでも戻ってこい 待っているぞ」
シュヴェルト「絢斗くん・・・」
青井 絢斗「うん」
青井 絢斗「シューさんこそよかったのか?」
シュヴェルト「・・・ええ」
シュヴェルト「絢斗くん 今度プロツェスさんや怪人たちと一緒に食事をしましょう」
シュヴェルト「きっと人間を見直してくれますよ」
青井 絢斗「・・・もしかしてそれが理由?」
シュヴェルト「フフ・・・」
シュヴェルト「さ、絢斗くん! 焼肉に行きましょう!」
青井 絢斗「あ、シューさん!」
青井 絢斗「ビールも忘れるなよー!」
〇焼肉屋
青井 絢斗(接客業なんて大嫌いだけど)
青井 絢斗(少しは前向きになってもいいかもな)
シュヴェルト(絢斗くん)
シュヴェルト(ありがとう 人間に希望を見出させてくれて)
シュヴェルト(人間を救ったのは・・・ 絢斗くんやみんなの優しさだ)
青井 絢斗「シューさん」
青井 絢斗「改めて、これからもよろしくな!」
シュヴェルト「・・・はい!」
「カンパーイ!」
最初はシューさんを猫除けのペットボトル扱いにしていた絢斗とシューさんとの心の距離が縮まっていく流れの描き方が自然ですごかった。「怪人」を「外国人」や「障害者」などに置き換えても当てはまる普遍的な人間模様ですね。偏見のない社会と言うのは簡単だけど実現は難しい。まずは二人のようにおいしいものを一緒に食べるところからですね。
人間同士でも、日本人同士でも、実際に接して話たりしたら噂などで想像していたのとかなり違うということありますよね。シュヴェルトさんのように、固定観念を持たずに相手を知ることを重視することが必要ですね。
お客様から、ありがとう!って、言われると大変というのも頑張れたりする。
仕事の基本なんだけど忘れてしまう事も…
接客のよいところ、たくさん見つけてほしいな