第二章 お地蔵様の謎(脚本)
〇田舎町の通り
土曜日 朝10時
坂内部長「よし、みんな集まったな」
朱里「おはようございます!」
真希江「凛花ちゃん、カメラは持ってきた?」
凛花「はい!」
凛花「でもよく考えたらこのカメラ、フィルムがないと撮影出来ないんですよね?」
真希江「それなら大丈夫よ。 うちにあったフィルムを持ってきたから」
凛花「フィルムがおうちにあるんですか!?」
真希江「ええ。 父が趣味でカメラをやってるの」
凛花「なるほど!! よかったあ」
坂内部長「それじゃ、早速向かうとするか」
真希江「お弁当も作ってきたからお昼になったら食べましょうね」
朱里「私もちょっとだけおにぎりを持ってきたんで小腹が空いたら言ってください」
坂内部長「本当に遠足みたいだな。 あとで嘉神がきっと悔しがるぞ」
坂内部長「さあ、早速お地蔵様探しといこうか」
朱里「同じ町に住んでるのに、この辺まで来たのは初めてです」
坂内部長「この辺りは山を切り開いて出来た住宅地だ」
坂内部長「特に用がなければわざわざ来ることはないだろうな」
凛花「あれ?」
凛花「部長! 池ってもしかしてあれのことですか?」
坂内部長「ん?」
朱里「おっきな池!」
坂内部長「そうだな。 間違いなくこの池だ」
真希江「嘉神くんのお兄さんのお友達、つまりあの話の『A君』はこの池の周りを自転車で走ったと言ってたわね」
坂内部長「ああ。 実際に通った道について、昨日嘉神に確認してもらった」
坂内部長「この地図を見てくれ」
坂内部長「俺達がいるのはさっきのバス停から住宅地を抜けて山に向かうこの道だ」
坂内部長「『A君』が向かっていた友人宅は、この道から3つ先の交差点を曲がり、更に何度か左折した先にある」
朱里「えっと・・・ あ!! 今いるこの場所とほぼ並行した位置にありますね」
凛花「一旦この坂を登ってぐるっと1周してまた下まで戻ってくるってことですか? うわぁ・・・めんどくさ・・・」
真希江「池があるのはこの道と『友人宅』の間。 確かに池沿いの道を使ったほうが、かなり近道できるわね」
朱里「しかも自転車だったらこの坂を登るより、よっぽど楽ですよね」
凛花「私達も『A君』が通ったこの道に行ってみますか!?」
坂内部長「いや、今日の目的はお地蔵様の調査だ」
坂内部長「この先、住宅地が途切れた辺りに山中に続く道がある」
坂内部長「古い怪談の通りならその入口にお地蔵様があるはずだ」
朱里「ちょっとドキドキしますね」
真希江「とにかく行ってみましょ!」
〇作業場の全景
30分後
朱里「はぁ・・・はぁ・・・ け、けっこう歩きますね・・・」
凛花「き・・・きつい・・・」
真希江「ほら2人とも、頑張って! もうすぐよ」
朱里「ま、真希江さん、元気ですね・・・」
凛花「この坂けっこうキツいのに、何でそんなに平気そうなんですかぁ?」
真希江「日頃から運動してるもの。 こう見えて体力には自信があるのよ」
真希江「ね、坂内くん」
坂内部長「・・・・・・」
「???」
真希江「ふふ」
真希江「どうやら坂内くんも運動不足みたいね」
坂内部長「・・・ふぅ。 さあ、着いたぞ」
〇林道
朱里「すごい! 本当に山だ!」
凛花「この先って何があるんですか?」
坂内部長「地図によると、小規模だが運動公園になってるみたいだな」
真希江「たしか親子連れで遊べるようなアスレチックとか、芝生の広場があるのよね?」
凛花「へえ! 全然知らなかった!」
真希江「ここからはハイキングコースになってるみたいよ?」
凛花「うへえ・・・ まだ歩くのかあ・・・」
坂内部長「ははは、大丈夫だよ。 用があるのはハイキングコースの入口だけだ」
朱里「あ、そっか。 お地蔵様があるのは『山に続く入口』ですもんね」
坂内部長「そういうことだ」
坂内部長「まだ実際にあるかどうかはわからないけどね」
凛花「うーん・・・ この辺には見当たらないなあ」
真希江「もう少しよく探してみましょう」
坂内部長「凛花ちゃん、一応ここも撮影しておいてもらえるかい?」
凛花「はい! 気になった場所をバシバシ撮っていきますね!」
真希江「まだ予備はあるけど、フィルムの残数には気をつけてね」
凛花「そうだった! 気をつけます!」
朱里「ん?」
ハイキングコースの案内図が建っている向こうの茂みに何か木造の屋根のような物が見える
朱里「部長! あれ何でしょう?」
坂内部長「ん?」
部長が茂みの奥を覗く。
すると──
坂内部長「あった、これだ!」
そこにあったのは古い祠。
中にはお地蔵様が静かに目を閉じて佇んでいる。
凛花「『A君』が見たのと同じものですかね?」
真希江「写真を撮って、直接確認してもらいましょう」
朱里「これで本当に同じお地蔵様だったら・・・」
真希江「でもおかしいわね。 『A君』は『大きな地蔵』と言ってなかったかしら」
たしかに、ここにいるのは小さいとは言えないが「大きい」と表現するには違和感がある、高さ70cmほどのお地蔵様だ。
朱里「ここにあるお地蔵様が現れた、ってわけじゃないんでしょうか・・・」
坂内部長「うーん・・・ まだなんとも言えないな」
坂内部長「ただ、古い怪談の内容を覚えてるかい?」
真希江「お地蔵様がネガフィルムに写るのは、本物のお地蔵様が消えてから池の周りを撮影した時だったわね」
凛花「そ、それじゃあ、夜になったらこのお地蔵様は消えちゃうってことですか?」
坂内部長「このお地蔵様が消えるかどうかは、夜になってみないと分からないってことだな・・・」
朱里「じゃあ今は確かめる手段がないですね」
坂内部長「だが、ここに実際にお地蔵様が存在していることは確認できた。 今日の目的は達成だ」
朱里「意外と早く終わっちゃいましたね」
凛花「時間はかかってないけど、体力はかなり使ったよ」
真希江「あら、お昼にはちょうどいい時間ね」
真希江「せっかく来たんだから、運動公園でお弁当でも食べましょ。 さ、行くわよ」
凛花「ええっ!? まだ歩くんですかぁ!?」
朱里「真希江さんの体力、どうなってるんですかぁ!?」
坂内部長「桜井のやつ、最初からピクニックの方を楽しみにしてたな・・・?」
真希江「ほらみんなー! 早く来ないと置いてっちゃうわよー?」
「・・・はぁ」
その後、ハイキングコースをやっとの思いで登りきった私達は運動公園でお弁当を食べながら疲れきった身体を休め、
何故かウキウキしている真希江さんの押しに負けて、全員でアスレチックに挑戦することになった。
なんだかんだはしゃぎ回って、お地蔵様調査の一日は楽しく終わった。