勇者追放――聖剣に選ばれなかった者

超時空伝説研究所

読切(脚本)

勇者追放――聖剣に選ばれなかった者

超時空伝説研究所

今すぐ読む

勇者追放――聖剣に選ばれなかった者
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇謁見の間
国王デービス三世「誰だ! 誰が聖剣を抜いた!」
  豪壮な王城の中、奥の一室から悲痛な叫びが響き渡った。
  奥の間の台座に刺さっているのは、魔王を倒す唯一の武器と言われている聖剣グラディウス。
  柄にエメラルドをあしらった美しい剣であった。
  しかし、いまや刀身から輝きは失われ、濁った赤に染まっている。見ている間に、剣先からぼろぼろと崩れ落ち始めた。
国王デービス三世「資格なき者が抜けば腐り落ちると言い伝えられるグラディウスを抜いた不届き者は誰じゃあ!」
  髪振り乱して叫んだのは、サンマリノ王国国王デービス三世その人であった。
男「陛下、気をお静めください! そもそも我ら臣民は神の力によって守られた聖剣に触れることもできません」
男「抜いた者があるとすれば、召喚者しかありえないと考えます」
  王の足元に参じたのは、宰相ユベリウスであった。
国王デービス三世「彼らは勇者となるべくして呼び寄せた者ではないか? 勇者ならば聖剣を扱えるはず」
宰相ユベリウス「恐れながらいまだ女神ミランダの祝福を得ておりません。現在は勇者候補に留まり、正式な勇者とは言えないかと」
国王デービス三世「だが、勇者候補たる身が許しもなく国宝グラディウスに手を触れるなど、考えられん!」
  国王は憮然として言った。
宰相ユベリウス「聞けば彼らの国は自由とやらを尊び、畏れ多くも王族と平民の差すら存在しないとか。不敬を不敬と思っておらぬ可能性がございます」
国王デービス三世「しかし、王城であるぞ。国宝であるぞ?」
  信じられぬと国王は何度も頭を振った。
宰相ユベリウス「三十人の中には、知恵の足らぬ者も混ざっているかもしれませぬ」
  苦虫を嚙み潰したような顔で、宰相は言った。
国王デービス三世「埒が明かぬ。召喚者たちをすぐに呼び出せ! 予自ら事情を聴く」
  王命である。直ちに侍従が走り、近衛兵と共に召喚者たちを謁見の間に引き出した。
福水春香「こんな夜中に何事でしょう?」
  三十人の召喚者、いやクラスメートを代表してクラス委員の福水春香は尋ねた。
宰相ユベリウス「・・・」
  宰相が質問を取り次ごうとすると、デービス王が遮った。
国王デービス三世「非常時である。作法を省き、直答を許す」
宰相ユベリウス「はっ。陛下の仰せである。直接陛下のご質問に答えよ」
  宰相は重々しく告げた。
国王デービス三世「ハルカであったか? 夜中に呼び出したのは他でもない」
国王デービス三世「聖剣グラディウスを抜いた者がいる。その詮議である」
  王は苦しげに言った。
福水春香「聖剣グラディウス? 昨日奥の間で拝見した国宝のことですか? なぜ我々がそれに関係していると?」
宰相ユベリウス「召喚者ハルカよ。神の封印により、我らサンマリノ王国民はグラディウスの柄に触れることがかなわん」
宰相ユベリウス「神に許された召喚者だけがその柄を握れるのだ」
  王に代わって宰相が答える。
福水春香「分かりました。仮にわたしたちの中で誰かが聖剣を抜いたとしましょう。それが罪になるのですか?」
  宰相が答える前に、国王が口を挟んだ。
国王デービス三世「その問いに答えるには奥の間に移った方が早い。自らの目で確かめるが良い」
  王の言葉に従い、集められた全員がぞろぞろと奥の間に移動した。

〇洋館の玄関ホール
  扉を抜けるや否や召喚者たちは絶句した。昨日聖なる光を放っていた聖剣グラディウスは見る影もなく、台座に腐り落ちていた。
福水春香「いったい何が・・・・・・」
  ようやく春香が口を開くと、宰相は答えた。
宰相ユベリウス「そなたたちは異界からの召喚者として勇者候補の立場にある。女神ミランダの前で祝福を受け恩寵を頂けば、正式な勇者となる」
宰相ユベリウス「しかし、祝福を受ける前に聖剣を手にすれば神の怒りを受けるのだ」
福水春香「神の怒り──」
国王デービス三世「資格なき者が抜けば、聖剣は腐り落ちると言い伝えられておる」
  国王デービス三世が答えた。
福水春香「それがこの結果ということですか・・・・・・」
  ようやく事態の深刻さを理解し、春香の顔が青ざめた。
国王デービス三世「そなたらの中で昨夜聖剣を抜いたのは誰か? 名乗り出よ!」
  王の声が奥の間に響き渡った。

〇洋館の玄関ホール
  召喚者たちは静まり返って声もない。深刻な事態に圧倒されていた。
国王デービス三世「どうした? 名乗り出よ!」
  国王は重ねて呼びかけた。
  それでも静寂が続き、召喚者たちは顔を見合わせたり下を向いて震えるばかりで、名乗り出る者がいなかった。
国王デービス三世「ならば全員に罪を問うぞ!」
  王の大音声に被せるように、涼やかな声がその場に響いた。
男の影「僕が抜いた」
  クラス全員の顔が声の主を振り向く。姿勢正しく手を上げていたのは、もう一人のクラス委員吉野清太郎であった。
福水春香「吉野君──」
吉野清太郎「すまない、春香。昨日の測定で僕のステータスがトップだったんでね」
吉野清太郎「勇者と認められるのは確実だと思って、聖剣を抜いてみたんだ」
宰相ユベリウス「なぜそのように軽率な真似を?」
  宰相が不審そうに尋ねた。
吉野清太郎「いざ勇者に認定された後で、聖剣が抜けなかったら困るじゃないですか? 予行演習のつもりでした」
宰相ユベリウス「聖剣とは――勇者とは、そのようなものではないというに」
  宰相は清太郎の言葉に頭を抱えた。
福水春香「吉野君、あなた──」
吉野清太郎「本当に済まない。全部僕の過ちだ。国王陛下、罰を与えるのは僕一人にしていただきたい」
国王デービス三世「もうよい。すべては終わった話である。国法に則って裁くがよい・・・・・・」
  国王は力なく言い渡すと、すべてを宰相に委ね奥の間を去った。
  王の姿がなくなり扉が閉ざされると、宰相は改めて生徒たちに向き直った。
宰相ユベリウス「王のお言葉である。サンマリノ国法によって処断を言い渡す」
  宰相は清太郎の前に立った。
宰相ユベリウス「セイタロウ・ヨシノ、お前を不敬罪により国外追放とする」
宰相ユベリウス「以後サンマリノ国内に立ち入らば、即刻死罪。見つけ次第切り捨て御免とする」
福水春香「そんな!」
  思わず声を発した春香は、自分の口を手で押さえた。
宰相ユベリウス「その他の者は本件に関わりなし。よって、お構いなしとする!」
  じろりと春香を見据えながら、宰相は宣告した。
宰相ユベリウス「セイタロウ・ヨシノはただいまこの時を以て罪人とみなす。手枷縄付きにして、城門まで連行せよ!」
  清太郎は手枷を掛けられ、近衛兵に連行されようとしていた。
  その時、肩を震わせていた春香が清太郎に駆け寄った。
吉野清太郎「春香──」
福水春香「一分だけ、一分だけ話をさせてください!」
  春香は宰相へ必死に呼びかけた。その眼には何があろうと引き下がらぬ覚悟があった。
宰相ユベリウス「――一分だけだ。手短にせよ」
  宰相は顔をそらすと、近衛兵を下がらせた。
  額を寄せるような距離で、春香は清太郎に話しかけた。
福水春香「吉野君。あなた罪を被るつもりね?」
吉野清太郎「――! 何も言うな。誰かが追放されるなら僕が行くべきだ」
  ステータスが一番高い自分なら、王国の庇護を離れても生きていける。清太郎はそう考えた。
  春香は涙をぬぐい、唇を嚙みしめた。
福水春香「英雄気取りなの? それで誰かを救えるつもり?」
吉野清太郎「分からないよ。でも、これを見過ごして勇者になんかなれないじゃないか。僕はこうするしかないんだ」
  寂し気に春香は微笑んだ。
福水春香「そう。もう何も言わないわ。落ち着いたら連絡をちょうだいね」
吉野清太郎「ああ。命を大切にしろよ。春香は人のことに夢中になりすぎるからな」
福水春香「セイ君に言われたくないわ」
  どちらともなく手を重ねて、そして離した。
宰相ユベリウス「――時間だ」
  宰相の合図で、近衛兵が清太郎を引き立てていった。
  吉野!
  清太郎!
  クラスメイトから呼ぶ声が上がったが、清太郎は前を見詰めたまま歩みを停めなかった。
吉野清太郎「うん?」
  ふと気づけば、何もない空中から金粉のような細かい光が清太郎の頭上に降りかかっている。
  おお、これは!
  
  祝福だ!
  
  女神ミランダの祝福が降りた!
  近衛兵の間にどよめきが起きる。宰相の顔を見て指示を得ようとする者もいた。
宰相ユベリウス「静まれ! 既に国法による裁きは決まった。その者は勇者ではない。連れ去れい!」
  よく見る者がいれば、宰相の唇が細かく震えていることに気づいたろうか?
  国法と神の恩寵との狭間に立たされた身に、どのような思いが去来したことか――。

〇洋館の廊下
男の影((やっべー。やっちまったよ、これ。どうしよう・・・・・・))
  一様に顔色の悪い生徒たちの中で、一段と青ざめた顔があった。額には汗が浮き、膝が震えている。
田村勇気((俺だよなあ。聖剣腐らせちまったの。 だって、見張りもいないんだもの。))
田村勇気((聖剣だぜ?  これが抜けたら勇者誕生だあって思うじゃない?))
  クラスの中でも目立たない、モブ扱いの筆頭田村勇気であった。
田村勇気((それにしても吉野パねえな。身代わりになるか、普通? どんだけ男気あんだよ。))
田村勇気((俺にそれだけの男気があれば、「実は僕です!」って名乗り出るんだろうが・・・・・・。))
田村勇気((無理無理! 一人で国外追放なんかされたら、三日で野垂れ死ぬわ))
  悪いとは思いつつ、吉野の行動に救われた思いの田村であった。
  宰相に解散を命じられた一同は、ぞろぞろとまた居室へと移動する。
福水春香「――あなたね?」
  斜め前を歩いていた春香が、唇を動かさず田村に囁いた。不意を突かれた田村は、ごまかす事もできない。
田村勇気「・・・・・・うん」
福水春香「もう終わったことだし、吉野君の意思だから誰にも言わない。ただ、これだけは覚えておいて」
  囁き声だというのに、春香の言葉には命がけの迫力があった。
福水春香「吉野君は勇者を辞めないわ。きっといつか魔王を倒す。そのとき彼を助けるのは、あなたとわたしよ」
田村勇気「えっ? 俺?」
福水春香「逃がさないわ。わたしと一緒に訓練を受けてもらう」
  これは決定事項、という春香の言い方であった。
  クラスで一番の美少女である春香と行動を共にできると言えば大多数の男子は舞い上がるであろうが、田村には重い現実であった。
  何しろ、勇者を追放させた元凶という秘密を掴まれているのだ。
田村勇気「俺なんかで務まるだろうか?」
  せめてもの抵抗に田村は実力不足を訴えてみた。
福水春香「勇者になれなんて言わない。勇者パーティの一員として働ける力を身につけて」
田村勇気「何をさせる気だ?」
  田村のステータスにはチートもなければ、飛び抜けた特長もなかった。
  しいて言えば、生命力や耐性が平均より上であるくらいか。
  つまり打たれ強い。
  魔法は水と土の属性を持っていたが、魔力は並以下で戦いの役には立たないと言われた。
  それに対して春香のステータスは攻撃魔法に偏っていた。
  火と雷に適性があり、魔力も膨大。遠距離戦ではエースになれる逸材であった。
田村勇気「言っとくが運動はからっきしだぞ」
  これは言い訳ではなく事実だ。瞬発力、持続力ともに「中の下」。
  それが田村という男だった。
福水春香「あなたにエースになれとは言わない。なってもらいたいのはサポーターよ」
田村勇気「サポーター?」
福水春香「そう。吉野君やわたしが攻撃に専念できるように支援してほしいの」
  昨日一日で分かったことだが、この世界には回復魔法もアイテムボックスもない。
  戦いは「削り合い」なのだ。
福水春香「田村君の役目の一つはポーター。アイテムボックスがないので、これ以上ないくらい重要な役割よ」
福水春香「消耗品やポーションが切れたら、パーティは全滅すると思って」
  軍事作戦の要諦は兵站線である。物資が切れれば戦えない。
  数えきれない死体がその事実を証明してきた。
福水春香「あなた学科の成績は良いじゃない。薬師の勉強をして回復ポーションの作り方を覚えて。武器や防具のメンテナンスもお願い」
田村勇気「それでサポーターか」
  裏方であるが、軍として考えれば極めて重要な機能である。
福水春香「それとね――」
田村勇気「まだやることがあるのか?」
福水春香「あるわ。食料よ」
田村勇気「食料ぐらい、国から出してもらえるだろう?」
福水春香「素材をそのまま食べるつもりならね? あなたには料理を覚えてもらう」
田村勇気「お前がやったらいいじゃないか、料理くらい」
  春香のこめかみにピシッと音を立てて血管が走った。
福水春香「”料理くらい”ですって? 私には無理よ」
  才色兼備の春香であったが、元来ざっくりとした性格で繊細な調理には向いていなかった。
  トライしたこともあるが、”黒い塊”とか”茶色のねばねば”しか作れない。
福水春香「あとは裁縫ね」
田村勇気「俺はおふくろか?」
福水春香「旅をすれば服も傷むわ。裸で戦う訳に行かないでしょう?」
  現実は過酷だ。魔王を倒す前に、日々を生きていかねばならない。
福水春香「とっても大切なのがお金の管理よ」
田村勇気「俺をお嫁さんにする気か!」
福水春香「自慢じゃないけど、わたしは浪費家よ」
  家が豊かな春香は小遣いというものを知らない。あれが欲しいと言えば買ってもらえるからだ。
  それに対して、田村は倹約家だ。
  なぜそうなったかは悲しくて言えない。
福水春香「最後に一番大切なことを言っておくわ」
  これ以上何があるというのか? ごくりと唾を呑んで、田村は身構えた。
福水春香「分かったでしょうけど、わたしはかなり腹黒いの。でもそれを知っているのはあなただけ」
福水春香「吉野君にばらしたら――殺すわ」
福水春香「一番苦しい死に方で」
田村勇気「絶対言いません!」
  田村は思った。こいつ、魔王より怖いんじゃないかと。
  セイタロウ、ハルカ、そしてユウキの三人組は伝説の勇者パーティとして語り継がれることになった。
  魔王討伐の日々の想い出を後年尋ねらると、ユウキはいつもこう答えたらしい。
田村勇気「きつくはなかったけれど、いつもドキドキしていたなあ。――よく生き残れたもんだ」
  ユウキは引退後家政科学校を開校し、名門としてたくさんの貴族子女教育に貢献したそうである。
  == おわり ==

コメント

  • 一番勇気のない人間の名前が勇気とか。作者さんも趣味が悪いなあ。でも敵を倒すには勇気だけじゃなくてお袋の知恵袋や嫁の手料理も大事だよって魔王より怖い春香がこれでもかというほどに説明してくれて、最後に成功者になったユウキ。フランス料理を食べに入った店で肉じゃがが出てきたような、でもま、美味しいから全てよし、みたいな物語でした。

  • 田村君が『こいつ魔王より・・』という前に私も、実はこいつが魔王か!?と思ってしまいました。結局のところ、聖剣運うんぬんより春香がほぼ国王級に成長する流れになって、腑に落ちませんが・・・!

  • 浪費家で料理や裁縫ができない春香ですが人を使うことについては才能がありますね。勇気は春香に弱みを握られて結局生きていくしかないのか。

コメントをもっと見る(4件)

成分キーワード

ページTOPへ