ブレイン・マシン・インターフェース

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春山家の日常(脚本)

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〇女の子の一人部屋
  AM6:30
「・・・陽南」
「陽南,朝だよ」
春山 陽南「んん・・・??」
「陽南,もう起きないと遅刻するよ」
春山 陽南「ハッ!?」
「陽南,おはよう! 早くしないと遅刻するよ!」
春山 陽南「ちょっと,お父さん! 私のスマホに入らないでって, 何度言ったら分かるの!?」

〇SNSの画面
  陽南のスマホ画面内
春山 光一「いや~ゴメン,ゴメン」
春山 光一「なかなか起きてこないから, 遅刻しないか心配になったんだ」

〇研究開発室
  脳神経領域の技術開発は,20世紀初頭から進められてきた。
  その成果の一つが,脳と機械を繋ぐ機器。
  ブレイン・マシン・インターフェース
  通称,BMIだ。
  BMIの進歩により,人間は『意識』を外部接続できるようになった。

〇国際会議場
  そして,政府は重篤な病気やケガにより死が避けられない人の,人格を保護する法案を可決した。
  それが『人格的生命保護法』だ。
  脳が無事であれば,それをシェルターで保護し、残りの人生をVR空間で生きられるよになった。
  私の父も,脳だけになった人間の一人だ。
  しかし,父はVR空間ではなく,私たちと暮らしている──

〇おしゃれなリビングダイニング
春山 陽南「お母さん!!!」
春山 陽南「また,お父さんが私のスマホに入ってきたんだけど!!!」
春山 葉子「あなたが時間通りに起きないからでしょ! 陽介はとっくに起きてるのよ!」
春山 陽介「お姉ちゃん遅いよ 高校生なんだから一人で起きなきゃ」
春山 陽南「勉強してて寝るのが少し遅くなったの! 小学生と一緒にしないで!」
春山 光一「まぁまぁ,みんな落ち着いて!」
春山 光一「僕が悪かったんだ。 素直に謝るよ」
春山 陽南「!!!!!!」
春山 陽南「急にロボットの音声で話しかけないでよ! ビックリするでしょ!」
春山 光一「仕方ないだろ コレじゃないと動けないんだから」
春山 葉子「いつものことでしょ! さぁ,早くご飯食べて学校に行きなさい」
春山 葉子「お母さんはもう仕事に行くからね!」
春山 陽南「もう!!」

〇シックな玄関
春山 陽南「じゃあ,学校行くね」
春山 光一「いってらっしゃい」
春山 陽介「お父さん! 帰ったら今日もゲームやろうね!」
春山 光一「あぁ,昨日のクエストの続きだな」
春山 陽南「お父さんとゲームばっかしてないで,勉強もしなさいよ」
春山 陽介「分かってるよ! うるさいな~」
春山 陽南「じゃあ,いってきま~す」
春山 光一「あっ! 陽南!」
春山 陽南「な,なに!?」
春山 光一「ちょっと右足がかゆい感じがするんだ 少しだけ掻いてもらえないかな?」
春山 陽南「はぁ? それロボットじゃん」
春山 陽南「何でロボットの足がかゆくなるの?」
春山 光一「そうだけど,急にかゆくなったから掻いてほしいんだ」
春山 陽介「僕が掻いてあげる!」
春山 陽介「お父さんどう? 気持ちいい?」
春山 光一「ありがとう陽介 かゆみが治まったよ」
春山 陽介「良かったね!」
春山 陽南「なにやってんだか・・・」

〇教室
  私立白蘭女子校
灯「陽南,おはよう」
春山 陽南「灯,おはよう・・・」
灯「なんで,朝からそんなに疲れた感じなの?」
春山 陽南「お父さんのせいよ」
灯「あぁ,いつものやつね」
春山 陽南「朝から訳の分からないこと言うし ホントに困るよ」
灯「訳の分からないこと?」
春山 陽南「足がかゆいんだって 足ないのに」
灯「陽南・・・ それ,笑えないわ」
春山 陽南「BMIで操作してるんだから, かゆくなるわけないじゃん」
灯「う~ん」
灯「だったら,川島先生に聞いてみたら?」
春山 陽南「生物教師の?」
灯「うん 色んな科学技術に詳しいらしいよ」
灯「噂では,科学的にモテる方法とかも教えてくれるんだって」
春山 陽南「どんな質問してんだか」
春山 陽南「でも,そんなに色々と詳しいなら聞いてみようかな」

〇総合病院
  首都医科大学病院

〇病院の診察室
  脳神経外科 第2診察室
春山 葉子「ふぅ~ 今日も患者さんが多かったわね」
花田「お疲れ様です 春山先生」
春山 葉子「あぁ,花田先生 お疲れ様」
花田「今日も,光一さんのとこに行くんですか?」
春山 葉子「まぁね,毎日見てないと心配だから」
春山 葉子「それじゃあ,何かあったら電話して」

〇大きい研究施設
  首都医科大学付属
  先進医療センター

〇実験ルーム
  同施設内
  ブレイン・シェルター
春山 葉子「・・・」
春山 葉子「今日も異常はなし」
春山 葉子「・・・」
「何か思い悩んでいるようだね」
春山 葉子「え!?」
春山 葉子「コウ君,いたの?」
「いたの?って」
「君の目の前に,僕の脳はあるじゃないか」
春山 葉子「いや,そうだけど・・・」
「分かってるよ」
「ちょっと意地悪してみただけさ」
春山 葉子「もう! 相変わらず,子どもみたいなこと言うんだから!」
「相変わらず・・・か」
春山 葉子「え?」
「ねぇ葉子ちゃん 僕は昔と変わってないかな?」
春山 葉子「えぇ いつものコウ君だと思うけど・・・」
「それなら,良かった」
春山 葉子「何か異変を感じるの!?」
「そうじゃないけど」
「最近,僕は僕のままでいられてるのかな?って思うことがあるんだ」
春山 葉子「コウ君・・・」
「まさか,自分が脳だけになって生きてるなんて想像もしてなかったから」
「例え身体が無くなっても,僕は僕のままでいたいんだ・・・」
春山 葉子「・・・」
「ちょっと,暗くさせちゃったね」
「でもね,また皆と一緒にいられることには感謝しているんだ」
春山 葉子「本当に?」
「本当だよ」
「陽南との口喧嘩も,陽介とのゲームも,葉子ちゃんとのおしゃべりも,僕にとってはかけがえのないことなんだ」
「これも全部,葉子ちゃんが僕の脳を保護してくれたからだよ」
「だから,ありがとう」
春山 葉子「コウ君・・・」

〇理科室
  実験教室
春山 陽南「失礼します」
川島先生「何かな?」
川島先生「おや? 君は・・・」
春山 陽南「あの,2年の春山です」
川島先生「あぁ,知っているよ」
春山 陽南「え!?」
川島先生「君のお父さんは,BMIをとても高度に使いこなす興味深い人物だからね」
春山 陽南「実は・・・ その父のことでお聞きしたいことがあって」
川島先生「私にかい?」
春山 陽南「はい 川島先生は色々な科学技術に詳しいと聞いたので・・・」
川島先生「単なる趣味だよ」
川島先生「それで,聞きたいことというのは?」
春山 陽南「今朝,父が変なこと言ったんです」
川島先生「変なこと?」
春山 陽南「足がかゆいから掻いてくれって」
春山 陽南「身体はもうないのに」
川島先生「ふむ・・・」
川島先生「おそらく,幻肢(げんし)の一種だろう」
春山 陽南「幻肢?」
川島先生「あぁ,身体の一部を欠損したり,手足が切断された者に起きる症状の一つだ」
川島先生「確かに君のお父さんの身体は無い しかし,脳には体の記憶が残っているんだ」
春山 陽南「身体の記憶・・・」
川島先生「そう,幻肢は身体の記憶が作り出した幻のようなものだ」
川島先生「脳と身体というのは単純に分断できるものではないんだよ」
川島先生「私は,“脳こそが人間”という考えに異を唱えている」
川島先生「例えば,人間に近い動物にチンパンジーがいるね」
春山 陽南「はい」
川島先生「チンパンジーは,鏡を見てそれが自分だと認識できる数少ない動物なんだ」
春山 陽南「知らなかった」
川島先生「それを踏まえての実験だ」
川島先生「産まれたばかりのチンパンジーを,他をチンパンジーと接触させずに育てた」
川島先生「すると,どうなるか?」
春山 陽南「どうなるんですか?」
川島先生「一人で育ったチンパンジーは,自分という認識がなく,自分と他者という認識もなかったというのだ」
川島先生「つまり,他者との接触がないと,自分と他者という認識も形成されないというわけだ」
春山 陽南「え!?」
春山 陽南「じゃあ,身体のない父も同じようになってしまうのですか?」
川島先生「それは安直に考えすぎだ」
春山 陽南「す,すいません」
川島先生「ただ,「脳さえあればよい」という考えは疑う必要があるな」
川島先生「人間が生きていく上で,他者との繋がりというの必要不可欠なんだ」
川島先生「もしかすると,君のお父さんは,必死でコミュニケーションをとろうとしているのではないだろうか?」
春山 陽南「あっ!!!」
春山 陽南「確かにそうかもしれません」
春山 陽南「私,お父さんの気持ちを全然考えてなかったと思います」
川島先生「高校生なんて,それが普通だよ」
川島先生「でも,何か大切なことに気づけたなら喜ばしいことだね」
春山 陽南「先生,ありがとうございました!」

〇おしゃれなリビングダイニング
  春山家

〇仮想空間
  VRゲーム空間
陽介(アバター)「今日もクエスト達成できたね」
春山 光一「陽介も,だいぶレベルアップしたね」
陽南(アバター)「ちょっと二人とも,私も入るわよ」
陽介(アバター)「お姉ちゃん!?」
陽南(アバター)「な,なによ そんなに驚くこと?」
陽介(アバター)「だって, 朝はゲームばっかりするなって・・・」
陽南(アバター)「勉強の合間に息抜きも必要なの」
春山 光一「まぁまぁ,何でもいいじゃなか」
春山 光一「お父さんは,二人と遊べるのはすごく嬉しいよ」
陽南(アバター)「ってか,お父さん」
陽南(アバター)「なんで,ゲーム内もいつもと同じ姿なの?」
春山 光一「これが一番,お父さんだって分かるだろ?」
陽介(アバター)「僕は,この格好が一番好きだよ!」
陽南(アバター)「まぁ,別に私も嫌ではないわ・・・」
陽南(アバター)「それで,これからどうするの?」
春山 光一「せっかく三人そろったから,少し高難度のクエストに行こうか?」
陽介(アバター)「賛成!」
陽南(アバター)「いいけど プレイするの久々だから難し過ぎるのはやめてよ」
春山 光一「お父さんが一緒だから大丈夫だよ!」
陽介(アバター)「そうそう お父さんはLv.999だから心配ないよ!」
陽南(アバター)「チートキャラじゃない・・・ さすがITエンジニアね」
陽南(アバター)「じゃあ,ちゃんと私のこと守ってよね」
陽南(アバター)「お・と・う・さ・ん」
春山 光一「あぁ,もちろんだよ!」

コメント

  • ちょっと先の未来で本当に起こるかもしれないあたりが興味をそそられます。意識だけの存在になってまで生き続けられるのは、夢があるし別れも経験せずにいられるかもしれないけど、人としての幸せを味わうことは難しいよなぁ...と考えさせられました。

  • 脳だけの状態の場合、脳にも必要な睡眠や栄養補給はどうなるのかな。科学や医学を駆使してそれらを維持できても精神の安定は肉体の秩序に与る部分が多いと思うので、以前の人格は保てないような気がします・・・。チンパンジーや幻肢の引用も興味深いですね。

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