アンタレスの怪人

苺ノ愛須

怪人(脚本)

アンタレスの怪人

苺ノ愛須

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アンタレスの怪人
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〇研究施設の廊下(T字路)
  ──某研究施設。
  炎が渦巻き、サイレンはけたたましく鳴り響く。それは阿鼻叫喚の地獄と呼ぶに相応しい有様であった。
研究員「は、早く本部に連絡しろ!まさかセキュリティを破られるなんて・・・・・・!」
研究員「防壁、作動完了しました! これでしばらくは──」
  ベキッ!!ベキベキッ!!
研究員「しばらくは・・・・・・」
  バキャアッ!!
「グオオオオオオオンッ!!」
研究員「うわぁぁぁぁッ!!」

〇炎
???「ぐっ・・・・・・」
  満身創痍の体を引きずりながら、炎上する施設を後にした男が一人。
???「まだだ・・・・・・俺はまだ・・・・・・」
  その男の名は──

〇おしゃれなリビングダイニング
  ──二週間後。
光野 和子「ダカツさ〜ん」
光野 和子「ちょっといいかしら〜?」
  はーい。
  今行きまーす
ダカツ「御用ですか?」
  ダカツは洗濯物でいっぱいになった籠を置いた。
光野 和子「ちょっとお使いを頼まれて欲しくって。 ごめんなさいね?お仕事ばかりで・・・・・・」
ダカツ「いえ、居候の身ですから。 それでどちらまで?」
光野 和子「助かるわぁ。 えっとねぇ──」

〇一軒家の玄関扉
  ガチャリ。
「あっ」
光野 雄太「・・・・・・なんだよ」
ダカツ「・・・・・・お帰り、雄太くん。 学校は楽しかったかい?」
光野 雄太「お前にゃ関係ないだろ。 出掛けるならさっさと行けよ」
光野 雄太「それっきりでも、俺は別にいいけどな」
ダカツ「・・・・・・いってきます」
  ・・・・・・
光野 雄太「・・・・・・何が「いってきます」だ」
光野 雄太「ここは、俺の家だろ」

〇おしゃれなリビングダイニング
  ・・・・・・
光野 雄太(二週間前、俺の日常に異物が混じった)
光野 雄太(家の前で倒れていたこの男を、母さんが拾い上げたのだ)
光野 雄太(最初は病院に連れていこうとしたけど、こいつは身分証の一つも持っておらず、結局うちで看病することになった)
光野 雄太(回復した男はダカツと名乗ると、いつの間にか居候になり、当たり前みたいな面をして父さんの部屋で寝ている)
光野 雄太(母さんは「父さんに似ている」なんて言ってたが、冗談じゃない)
光野 雄太(誰がどう見たって怪しいだろ、こんな奴)
ダカツ「──どうしたんだい?雄太くん。 箸が進んでいないようだが」
光野 和子「駄目よ、雄太。もうお兄ちゃんなんだからトマトもちゃんと食べないと」
光野 雄太「そんなんじゃ──」
光野 雄太「・・・・・・いや、ダカツが食べろよ。居候なんだし」
光野 和子「ちょっと雄太──」
ダカツ「すまない、雄太くん。助けてあげたい気持ちは山々だが、好き嫌いはやはり良くない」
ダカツ「今度美味しく食べれる料理を──」
光野 雄太「いいよ、どうでも」
  雄太はトマトをひょいと口に運んだ。
ダカツ「そ、そうか・・・・・・」
「・・・・・・」
光野 和子「今日は晴れてて、一段とお星様が綺麗ねぇ」
「・・・・・・は?」
光野 和子「雄太、あんた昔よくお父さんと天体観測行ってたでしょ?せっかくだしダカツさんと見に行ったらどうかしら?」
光野 雄太「いや、俺は──」
光野 和子「行ってたきたら?」
光野 雄太「・・・・・・」

〇山の展望台(鍵無し)
  ──展望台。
光野 雄太「何が悲しくてお前なんかと・・・・・・」
ダカツ「まぁまぁ、せっかく来たんだし楽しもうよ。 お父さんとはよくここに?」
光野 雄太「父さんは天文学者だったからな。 俺も星を見るのは好きだった」

〇山の展望台(鍵無し)
  ── 一年前。
光野 一星「見えるかい?雄太。 あれが蠍座。私とお前の星座だ」
  父さん、あの赤い星は何?
光野 一星「あぁ、あれはアンタレスと言ってね──」

〇山の展望台(鍵無し)
光野 雄太「・・・・・・父さんが死んでから、一年ぶりか」
ダカツ「・・・・・・ごめん。良くないことを聞いた」
光野 雄太「・・・・・・」
光野 雄太「俺はお前が気に食わない」
光野 雄太「もし本当に俺のことを心配してるなら、何も言わず出ていってくれ」
光野 雄太「お前の食う飯も、ベッドも、星空も・・・・・・全部父さんのものなんだよ」
ダカツ「・・・・・・」
ダカツ「とりあえず、家までは送るよ。こんな時間だからさ」
光野 雄太「・・・・・・好きにしろ」

〇山道
  ・・・・・・
  ドッ・・・・・・ドッ・・・・・・
  ドッドッドッドッドッ!!
ダカツ「──ッ!?」
  放たれた異様な殺気に気づいた時、考えるよりも先にダカツの体は動いていた。
  薮から飛び出したナニかを、彼は雄太を抱えて間一髪回避した。
光野 雄太「イテテ・・・・・・何すん──!?」
光野 雄太「何だ・・・・・・ありゃ・・・・・・」
  舞い上がる落ち葉を切り裂き、その姿を見せたのは──
怪物2「ガォォォォォンッ!!」
  世にも恐ろしい、怪物であった。
  スッ・・・・・・
光野 雄太「ダ、ダカツ・・・・・・?」
ダカツ「できれば君にこの姿は見せたくなかった」
ダカツ「だが・・・・・・!」
  微かな月明かりに照らされた彼の姿が、メキメキと音を立て変容していく。そして──
ダカツ(変身態)「雄太は、俺が護る!」
光野 雄太「ダカツが・・・・・・か、怪物・・・・・・!?」
怪物2「グルゥゥゥゥアァァァァッ!!」
  それは生存本能。
  生きるために命をかける、矛盾を孕んだ獣の闘志がぶつかり合う。
怪物2「ガウァッ!!」
  狼のような怪物の強み、それは俊敏性にあった。両脚のバネのような筋肉が生み出す驚異的なスピードがダカツを翻弄する。
  そして怪物の鋭い爪がダカツの体をじわじわと削り取っていくのである。
光野 雄太「ダカツ!」
ダカツ(変身態)「!!」
  雄太の声に呼応するように、ダカツは怪物の攻撃を躱す。
  そして怪物の腕を掴むと、その勢いのまま投げ飛ばした。
怪物2「グェッ!?」
  太い木の幹に背中から叩きつけられた怪物は、その衝撃に思わず動きが止まる。
  その一瞬の隙をダカツは見逃さなかった。
  彼の手から鋭い手刀が放たれると、それは怪物を木の幹ごと真っ二つに切り裂いた。
怪物2「グギャァァァッ!!」
  断末魔と共に、怪物の肢体は爆発四散した。

〇山道
光野 雄太「やった、のか・・・・・・?」
  いやぁ、お見事お見事
ダカツ(変身態)「!?」
???「噂の『成功例』は伊達じゃないらしい」
  奥の暗闇からぬっと姿を現したのは、スーツ姿の一見柔和そうな男だった。ただし──
  その右手で、怪物の骸を引き摺ってさえいなければ。
  男は怪物をダカツ達に向かって投げ捨てると──
???「駆除しがいがありそうだ」
  黄金に輝く怪物に、姿を変えた。
ダカツ(変身態)「ッ!?」
  有無を言わさず、連戦の火蓋は切って落とされた。
ダカツ(変身態)(コイツ、強いッ・・・・・・!)
ダカツ(変身態)「貴様、『組織』のエージェントか!」
正義(変身態)「蜂条正義と呼んでください。 君ら人工生命体と違って、れっきとした改造”人間“なのでね」
  ダカツの攻撃を華麗に捌きながら、一方で正義は適格にカウンターを叩き込んでいく。
ダカツ(変身態)「ぐはっ・・・・・・!!」
正義(変身態)「二分 四十二秒。 最長記録更新です。やはり貴方は強い」
正義(変身態)「次は──人に生まれてくるといい」
  強烈な一撃が、ダカツを吹き飛ばす
ダカツ(変身態)「ぐわぁぁぁぁッ!!」
  打ち上げられた彼の体は、崖下へと落ちていった。
光野 雄太「ダカツぅぅぅぅッ!!」
  雄太の叫びが、夜の森に虚しく木霊する。
正義(変身態)「君がアレの飼い主かな?」
光野 雄太「俺も、殺すのか・・・・・・!?」
蜂条 正義「・・・・・・私は人は殺さない」
蜂条 正義「早くお家に帰りなさい」
光野 雄太「ッ!?」
  雄太は一目散に逃げ出した。
蜂条 正義「・・・・・・」
  ピッ
蜂条 正義「私だ。日の出と共に崖下を捜索する。 人員を集めておけ」
蜂条 正義「・・・・・・追い詰められた獣は、何をしでかすかわからない」

〇黒
ダカツ「ここは、どこだ・・・・・・?」
ダカツ「ぐっ・・・・・・俺は雄太を・・・・・・!」
  抗うな・・・・・・
ダカツ「ッ!?誰だ!?」
  己を偽るから貴様は負ける・・・・・・
ダカツ「何を言って──」
  解放しろ。己の──本能を!
ダカツ「まさか、貴様は・・・・・・!?」
ダカツ「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」

〇おしゃれなリビングダイニング
  ダッダッダッ
光野 和子「おかえりなさ・・・・・・あら?」
光野 和子「・・・・・・荒療治すぎたかしら」

〇男の子の一人部屋
光野 雄太「俺、見捨てちまった・・・・・・」
光野 雄太「ダカツ、護ってくれたのに・・・・・・」
光野 雄太(・・・・・・!)
光野 雄太(何、気にしてんだよ)
光野 雄太(あんな奴、いなくなればいいって思ってただろ)
光野 雄太(異物が消えて、俺の日常は元に戻る。 それでいいじゃんか)
光野 雄太(異物・・・・・・)
光野 雄太「──ッ!?」

〇山の展望台(鍵無し)
  父さん、あの赤い星は何?
光野 一星「あぁ、あれはアンタレスと言ってね──」
光野 一星「蠍座の心臓なんだよ」
  心臓?でも、なんかちょっと変・・・・・・
光野 一星「確かにアンタレスは他の星とは少し違う」
光野 一星「──それでも輝いてる。 私は、それこそが重要だと思うな」

〇男の子の一人部屋
光野 雄太「──お前は」
光野 雄太「お前は、アンタレスだったんだな」

〇山中の滝
  ──翌日、早朝。
光野 雄太(生きてろよ、ダカツ・・・・・・!)
  ギャァァァァッ!!
光野 雄太「悲鳴!?まさか──」
ダカツ(変身態)「グルゥゥゥゥアァァァァッ!!」
兵士「ひッ!」
光野 雄太「ダカツ!!・・・・・・暴走してるのか!?」
光野 雄太「・・・・・・今度は、俺の番だ!」
  雄太は果敢にも駆け出すと、ダカツの脚にしがみ付いた。
  ダカツは雄太に右の拳を振り下ろそうとするが、左手がそれをすんでのところで止めた。
ダカツ(変身態)「ガッ、アァ?」
光野 雄太「ごめんダカツ!俺が悪かった!」
光野 雄太「父さんとの思い出が消えるんじゃないかって怖かったんだ!」
光野 雄太「でも目を背けてたのは俺で、お前が思い出させてくれたんだよ!」
光野 雄太「お前も、元のお前に戻ってくれぇぇぇぇッ!!」
ダカツ(変身態)「ガッ・・・・・・ユ・・・・・・」
ダカツ「雄・・・・・・太・・・・・・」
  ドサッ・・・・・・
光野 雄太「ダカツ!!」
  ほう、暴走状態を沈めますか
光野 雄太「ッ!?」
蜂条 正義「ただの駆除作業だと思っていましたが、思わぬ成果がありましたね」
光野 雄太「出やがったな・・・・・・!」
蜂条 正義「少年と実験体を連行しろ」
「はっ!」
光野 雄太「クソッ!離せ!ダカツ!ダカツぅぅぅッ!」

〇黒
  ブロロロロ・・・・・・
  音が聞こえる。
  血の味と匂いがする。
  振動が肌を伝う。
  目を覚ませと。
  雄太を護れと心が叫ぶ!!
ダカツ「──変身ッ!!」

〇車内
  ──トンネル内。
蜂条 正義「・・・・・・往生際の悪い」
  ピッ
蜂条 正義「実験体の乗ってる車両を撃て」
光野 雄太「人は殺さないんじゃねぇのかよ!」
蜂条 正義「私はね」

〇炎
  後続の武装車両がミサイルを放ち、ダカツの乗っていた最後尾の車両が粉々に吹き飛ぶ。

〇暗いトンネル
  炎の海からダカツは立ち上がった。
  蒼い瞳は、本能を超えた絆の証。
  彼は迷わず駆け出した。
  トンネル内を己の脚で爆走する彼を、バイクに跨った兵士たちが迎え撃つ。
ダカツ(変身態)「邪魔だッ!!」
  しかし力の差は歴然。
  彼はそれらを一瞬で片付けた。
武装車両「ギャリリリリッ」
  行く道を阻むように、武装車両とダカツが対峙する。
  ダダダダダダッ!!
  ダカツは機関砲を蛇行で躱しながら距離を詰め、高く跳び上がった。
ダカツ(変身態)「雄太ぁぁぁぁッ!!」
  彼の跳び蹴りは鋼鉄の車体を大きく凹ませ、微かに浮かんだそれは轟音とともに地面を転げ回った。
  ダカツの脚は、止まらない。

〇廃倉庫
  トンネルを抜けた先頭車両とダカツが辿り着いたのは、廃倉庫であった。
  正義は雄太を連れると、倉庫の中に入っていった。

〇廃墟の倉庫
ダカツ(変身態)「ここまでだ、蜂条!」
蜂条 正義「ここまで・・・・・・?」
蜂条 正義「怪物風情が・・・・・・私に意見するなァッ!!」
正義(変身態)「少年を救ってどうする!?それで人間様に媚びたつもりかァ!?何をしようが本質は変わらねぇんだよ!!」
正義(変身態)「人心に躓き、社会に弾かれる! それが怪物の末路だ!」
ダカツ(変身態)「・・・・・・愚かだ」
正義(変身態)「何ィ?」
ダカツ(変身態)「貴様は人の本当の強さを知らない」
ダカツ(変身態)「俺は、貴様には負けない!」
ダカツ(変身態)「うぉぉぉぉッ!!」
  両者の渾身の一撃がぶつかり合う。
  因縁を制したのは──。
蜂条 正義「・・・・・・正しいのは私だ。 ここは、人の世なのだから」
  ドサッ・・・・・・
ダカツ(変身態)「なら──」
ダカツ「俺のことは”怪人“と呼んでくれ」
光野 雄太「ダカツ!」
ダカツ「雄太!」
光野 雄太「帰ろう、俺たちの家に」
ダカツ「・・・・・・あぁ!」

〇空
  THE END

コメント

  • 彼は身をもって【強さ】というものは決して肉体的なことではないと雄太君に教えることができましたね。傷ついた心でありながらもそれを最後には理解した雄太君も素晴らしいです。

  • 怪人は人の心を取り戻し、少年は成長していく、そんな物語だと思って読み進めました。
    秀逸だったのは「日常の異物」だったものがやがて「アンタレス」だと気付く過程。
    この2つの対比は素晴らしいです。

  • 二人の間に芽生えた絆がすごくよかったです。
    お父さんの思い出が上書きされる気持ちはなんとなくわかります。
    でも、ちゃんとそれを自覚して理解した少年はしっかりしています。

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