エピソード1(脚本)
〇平屋の一戸建て
とある田舎の一軒家。
ここが、ボクの家だ。
じいちゃんのそのまたじいちゃんの代からある家だそうで、広いことだけが自慢だ。
安村玲司「~♪」
ボクは母さんに買ってもらったばかりの
真っ白なお絵描き帳に
大好きなものをたくさん描いてた。
その時。
ブロロロロ…
エンジン音が聞こえた。
窓から外を見ると、
真っ白なセダンが一台入ってきた。
その車の持ち主を、ボクはもちろん知ってる。
安村玲司「叔父さん帰ってきた!」
ボクは握っていたクレヨンを放り投げて
一目散に玄関へと向かった。
〇広い玄関(絵画無し)
安村瑛一「よいしょっと…」
安村瑛一「ただいま、姉さん母さん」
安村玲子「おかえり。 今回はずいぶん長い旅だったね。」
安村瑛一「まあね。 欧州をグルっと。 いい作品が描けそうだよ。」
安村ミソノ「あんたねぇ 作品だかなんだか知らんけど そろそろ落ち着いて身を固めて・・・」
安村玲司「叔父さんおかえりっ!!」
安村瑛一「おー玲司! 元気だったか」
安村瑛一「重くなったなぁ、お前!」
安村玲司「叔父さん、 今度はどれくらいいるの?」
安村瑛一「そうだなぁ ひと月はいるかな」
安村玲司「やったぁ! じゃあいっぱいお話し聞かせてね!」
安村瑛一「よーし、じゃあ部屋で聞かせてやろう。 実はな、叔父さんすごいモノを手に入れたんだ・・・」
安村玲子「もう、荷物ほったらかしで・・・」
安村ミソノ「玲司があの子に懐くのはいいけど 妙な影響受けないかねぇ」
安村玲子「大丈夫よ。 玲司は医者になりたいって言ってたし。 しっかりしてるから。」
部屋から玲司と瑛一の笑い声が聞こえる・・・
安村玲子「・・・多分ね。」
〇平屋の一戸建て
──翌日
安村瑛一「・・・よっと、これで全部かな」
安村玲子「何もそんなに急がなくても・・・ 昨日帰ってきたばかりじゃないの。」
安村瑛一「悪いな。 やっと結果が出そうなんだ。 絶対逃がしたくないからさ。 軌道に乗れたらしばらく帰って来れないかも。」
安村玲司「叔父さん・・・」
安村瑛一「玲司・・・」
安村瑛一「玲司、これ何だかわかるか?」
そう言って叔父さんがボクに見せたのは
どこにでもありそうな、
ちょっと汚れた万年筆だった。
安村玲司「・・・? もしかして、昨日言ってたやつ?」
安村瑛一「そうだ。 これはな、夢を叶える魔法の万年筆なんだ。 俺はもう叶えてもらったから、今度はお前にやる。」
安村瑛一「俺のパワーも入ってるぞ。」
安村瑛一「お前の夢、応援してる。 頑張れよ。」
叔父さんはそう言うと、ボクに拳を差し出してきた。
その拳の意味を、ボクは知ってる。
安村玲司「まかせとけ!」
ボクたちは勢いよく
グータッチした。
〇田舎の一人部屋
あれから何年経っただろう。
ボクはすっかり大きくなって、
こうして机に向かって書類を書いている。
都会の大きな医大への入学願書。
記入する手にも力がこもるってものだ。
安村玲司「・・・よし、あとは署名だな。」
安村玲司「・・・・・・・・・」
ふとそこで、ペン立てが視界に入った。
いつも使っているマーカーペンなんかと一緒に一本、ひどく古ぼけた万年筆。
ボクはその万年筆を手に取った。
安村玲司「・・・よし。」
安村玲司「万年筆様、叔父さん・・・ どうかよろしくお願いします」
万年筆をおでこに付けて
そう呟いてから、
ボクは丁寧な手つきで署名した。
いつもより、キレイに書けた気がする。
ペン立ての隣に置いてある写真立てには、
賞状を手にした叔父さんとあの頃のボクが笑顔で写っている写真。
〇散らばる写真
安村瑛一「お前の夢、応援してる」
安村玲司「絶対、叶えようぜ!」
安村玲司「ああ・・・ まかせとけ!」
親戚の叔父さんといってもみんな彼の様な存在になり得るとはかぎらないし、その分こうして甥っ子が幼い時の思い出を大切に胸にしまっていることがとても素敵に思えました。
どこか懐かしさを感じる作品でした。
誰しも心に故郷があるものですが、少年はそこから旅立とうとしてて、そこで万年筆が出てくるあたりがすごくドラマティックでした。
面白かったです!
ヨーロッパでは年代物の万年筆を引き継ぐというエピソードは耳にしたことあるのですが、本作のような”想い”が込められた継承って素敵ですよね。