夕暮れの約束

天瀬サキ

読切(脚本)

夕暮れの約束

天瀬サキ

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〇公園の砂場
  むかし、むかし
  とても大切な友達がいた
  毎日のように学校で遊び、公園で遊び
  来る日も来る日も一緒に過ごした
  でも、その子はお家の都合で、隣町に引っ越すことになってしまった
「大丈夫だよ、泣かないで」
  一緒に遊ぶ最後の日
  どうしても別れたくなくて、公園にうずくまる私をあやしてくれた優しい手
「・・・・・・やだっ」
  私はどうしても素直になれなくて、頬を膨らませてプイッとそっぽを向いてしまう
「隣町なんて電車で一駅だよ。またすぐ会えるよ」
  そう言って彼は泣いている私の頬を伝う涙を拭ってくれた
「次に、君と会えたら伝えたいことがあるんだ」
「そうしたら僕は────」

〇女の子の一人部屋
「ん・・・・・・」
小田 美咲「ふぁあ・・・・・・」
小田 美咲「懐かしい夢、見ちゃったな・・・・・・」
  あれから彼とは会っていない
  最初の1、2年は会いたくてしょうがなかった
  でも、別の友人たちと仲良くなるにつれて彼との約束は薄れていった
  今でもこうして時々夢を見る
小田 美咲「最後、なんて言ってたんだっけ・・・・・・」
小田 美咲「・・・・・・起きよう」
  夢のことは忘れることにして、私は学校へ行く準備に取り掛かった

〇大学の広場
「あれっ、」
青山 春人「もしかして美咲ちゃん・・・・・・?」
  大学構内をいつも通り歩いていると、見知らぬ男性に声を掛けられた
青山 春人「やっぱりそうだ! 本当に久しぶり。元気そうでよかった」
  まるで知り合いのように話しかけてきた目の前の男性に、困惑してしまう
青山 春人「あれ・・・・・・ もしかして覚えてない・・・・・・?」
青山 春人「青山 春人って言います ほら、昔よく一緒に遊んだ」
小田 美咲「えっ・・・・・・!」
  言われてみれば、優しげな雰囲気、顔つきは彼が大人になった姿を彷彿させた
小田 美咲「は、るとくん・・・・・・なの?」
青山 春人「よかった、思い出してくれた?」
小田 美咲「うん・・・・・・うん!」
  あまりの懐かしさに、彼に飛びつかんばかりにはしゃいでしまう
青山 春人「同じ大学に通ってたなんて知らなかったな」
「春人ー!次の講義遅れるぞー!」
青山 春人「ああ!今行く!」
青山 春人「ごめん、もう行かなくちゃ」
青山 春人「また、後で──」

〇レトロ喫茶
青山 春人「お待たせ」
小田 美咲「春人くん!」
青山 春人「ごめんね、待ったよね」
小田 美咲「ううん、全然」
  あれから、私と春人くんは大学近くの喫茶店で合流した
  会えなかった数年間が嘘のように、あの頃と同じように自然と話せた
  楽しい時間はあっという間で──
青山 春人「っと、いけない・・・結構遅くなっちゃったかな?」
  壁に掛かっていた時計に目をやれば、まだ5時を少し過ぎたところだった
青山 春人「これから君と行きたいところがあるんだけど、まだ時間大丈夫?」
小田 美咲「うん、大丈夫だけれど・・・・・・ どこへ行くの?」
青山 春人「それは秘密── と言ってもすぐ近くだから安心して」

〇住宅地の坂道
青山 春人「またこうして君と並んで歩けるなんてなあ」
小田 美咲「小学生のとき以来かな?」
  ふわふわと春のそよ風みたいに笑う姿は昔からまったくと言ってよい程に変わらない
  春人くんは背が伸びてすっかり大人の男の人のようだった
  子どもの頃は私の方が背が高かったから、見上げる視線が新鮮だ
青山 春人「・・・・・・それにしても懐かしいなあ」
  ふとした瞬間に手の甲が触れてしまった
青山 春人「あっ、ごめん」
青山 春人「・・・・・・」
青山 春人「あ、あのさ・・・・・・」
青山 春人「もし、君が嫌でなければでいいんだけど・・・・・・」
青山 春人「手を繋いでも、いいかな・・・・・・」
小田 美咲「・・・・・・うん」
  ゆっくりと指と指が絡み合う。男の人の節ばった手が、私を大きく包み込んだ
  幼い頃繋いだ手とは似ても似つかないそれは、それでもどこか安心する温度だった

〇公園の砂場
小田 美咲「わあ、懐かしい・・・・・・」
青山 春人「全然変わってないね」
  到着したのは、昔、最後に別れた公園だ
  近くに住んでいるとはいえ、この数年、足を伸ばすことはなかった
青山 春人「よくさ、ブランコに乗って遊んだりしたよね」
青山 春人「ほら、行こう」
  繋がったままの春人くんの手に引かれて、ブランコにゆっくりと座る
青山 春人「──あのね、」
  春人くんは言いづらそうに言葉を紡ぎ始めた
青山 春人「君は覚えていないかもしれないけど、僕、君に伝えたいことがあってわざわざここまで連れてきたんだ」
青山 春人「君のことが、好きなんだ」
青山 春人「ずっとずっと昔から── 君しか見えなかった」
青山 春人「──やっと言えた」
青山 春人「今日久しぶりに会って、急に告白されても困るよね・・・・・・ごめん」
青山 春人「それでも、どうしても、今日君に伝えたかったんだ」
  すっと、硬く握られていた手が解けて春人くんは立ち上がった
青山 春人「さ、帰ろう 家の近くまで送っていくよ」
小田 美咲「っ待って──!」
小田 美咲「春人くん、私も、私も好きだよ!」
青山 春人「──!」
小田 美咲「昔の約束、思い出したよ・・・・・・『君に僕の想いを伝えたいんだ』」
小田 美咲「そう言っていたよね」
小田 美咲「だから私も気持ち、伝えてみた」
青山 春人「──ふふっ」
青山 春人「君には敵わないな──」
青山 春人「えっと・・・・・・」
青山 春人「君のことが好きです よかったら僕と、付き合ってくれませんか?」
小田 美咲「もちろん!」
  幼い頃、たくさん一緒に遊んだ公園でまたこうして昔みたいに笑い合えるなんて、思ってもみなかった
  手を繋いで2人歩く帰り道
  笑顔溢れる幸せな時間は、まだ始まったばかり────

コメント

  • 長い間お互いのことを大切に思い続けていたなんて、本当に素敵な純愛だなと思いました。自分の過去をよく知っている人って、なぜだかそれだけで安心感がありますよね。これからますます楽しい思い出が増えていくことでしょう。

  • 離れ離れになった幼馴染との再会、そして告白って、王道的恋愛ストーリーで大好きです。読んでいて笑顔になるステキな物語ですね。

  • 大事な人に対する強く真摯な想いって、持ち続ける事で光が見えることってあるんですね。この二人はお互いが同じように引き合わさせれたようで、確かめ合った瞬間こちらまで嬉しくなりました。

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