恋人はもう終わり

夜市千景

恋人たちの終わり(脚本)

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夜市千景

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〇桜並木(提灯あり)
  カノアとリノが迎える三回目の春。
  二人は春になると毎年足を運ぶ、
  花見の名所として有名な公園へ来ていた。
ルルサキ カノア「今年も綺麗に咲いたな。リノと花見にくると、春がきたって感じる」
アリスガワ リノ「私もだよ。でもこんなにきれいなのに、あっという間に散っちゃうのが寂しい」
ルルサキ カノア「そこが桜のいいところでもある。一年中咲いてたら、きっと誰も見向きもしないんだろうな。花見って行事自体なかったかもしれない」
アリスガワ リノ「諸行無常だね」
ルルサキ カノア「そうだな。おっ去年はなかったけど、今年は出店出てる。みにいくか」
アリスガワ リノ「わあ、たこ焼きにクレープ。チョコバナナにりんごあめもあるよ。懐かしい!」
ルルサキ カノア「去年やらなかったせいか、今年は出店が多いな」
アリスガワ リノ「たくさんありすぎてどれにしようか悩んじゃう」
ルルサキ カノア「なら気になるやつ全部買うか。食べきれなかったら冷蔵庫に入れて明日食べればいいし」
アリスガワ リノ「よし、大人買い決定!」
  数分後
アリスガワ リノ「これぞ大人の特権だね。学生にはできない大人の嗜み。大人って最高」
ルルサキ カノア「確かにこどもはできないな。荷物持つよ」
アリスガワ リノ「どれも軽いから大丈夫だよ。これ全部渡したらカノアの腕が折れちゃう」
ルルサキ カノア「俺の腕は枯れ枝か。そんなんじゃ折れねえよ。買い物の時もそうだけど、リノは遠慮しすぎ。もっと頼ってくれてもいいんじゃねえ?」
アリスガワ リノ「カノアちゃん、みない間にすっかり大人になって・・・・・・!」
ルルサキ カノア「誰目線だよ。茶化してもごまかされないからな」
アリスガワ リノ「分かった、善処する」
ルルサキ カノア「そう言って三年経ったんだけどな。まあ気長に待つよ。せっかくだし、どれか食べてくか?」
アリスガワ リノ「うん! チョコバナナにする。あそこのベンチで食べよう」
ルルサキ カノア「少し時間空いたけど、チョコ溶けてないか?」
アリスガワ リノ「大丈夫。今日は涼しいし」
ルルサキ カノア「なら良かった」
アリスガワ リノ「はい、これカノアのぶん」
ルルサキ カノア「俺のまで買ってくれたんだ、ありがとう。黄緑色のチョコがかかってるけど、これ何味?」
アリスガワ リノ「抹茶だって。私はふつうのやつ。一口食べる?」
ルルサキ カノア「おう、んじゃ一口。・・・・・・うん、甘すぎなくて美味いな。俺のも味見するか?」
アリスガワ リノ「するする。んー・・・・・・さっぱりした甘さだね。これも美味しい」
  二人の間をうららかな春風が通り抜ける。
  風に揺られ、花びらが一つ
  カノアの髪に舞い落ちた。
アリスガワ リノ「カノア、前髪に花びらついてるよ」
ルルサキ カノア「どこ? このへん?」
アリスガワ リノ「もうちょっと右。うーん、あと三ミリ」
ルルサキ カノア「細かいな。取って」
  カノアが静かにリノに顔を寄せる。
  遠くから「おとながちゅーしてるー」
  というこどもの声が聞こえてくる。
  リノは無性に恥ずかしくなり
  急いで花びらを取った。
ルルサキ カノア「ありがとう。風がきもちいいな」
アリスガワ リノ「っ・・・・・・!」
  息をするように指を絡められ、
  リノの胸は付き合い始めの
  頃のように高鳴った。
  そっと力を込めると、緩く握り返される。
  三年。長いようで短い月日を
  ともに歩んできた。
  そろそろ、と先を見てしまうのは
  三十路ゆえの焦りだろうか。
  今までカノアから結婚という言葉が
  出たことはない。
  きっとまだ意識してないだけで、
  そのうちそ自然と話してくれるよね。
  何度も何度もそう自分に
  言い聞かせ続けてきた。
  けれどその一方で、カノアはリノと
  結婚するつもりはないのではないか
  と疑ってしまう自分もいた。
  カノアを心から信じきれない自分が、
  踏み込む勇気がない臆病な自分が、
  リノはなによりも嫌で許せなかった。
ルルサキ カノア「リノ、どうかしたのか?」
アリスガワ リノ「ううん、なんでもない」
ルルサキ カノア「そんなに口に入れて大丈夫か? あー、だから言っただろ。慌てなくていいから、ゆっくり食べな。ほらティッシュ」
アリスガワ リノ「ありがとう」
ルルサキ カノア「・・・・・・」
アリスガワ リノ「・・・・・・」
アリスガワ リノ「今幽霊が通ったね」
ルルサキ カノア「なんで急に幽霊が出てくるんだ?」
アリスガワ リノ「よく言わない? みんながしーんてなるのは幽霊が通ったからだって」
ルルサキ カノア「初めて聞いた。そんな考え方もあるんだな」
  眼下の街並みを見下ろすカノアの横顔は、
  微笑んではいるもののどこか浮かない。
  それはリノがカノアとの未来について
  思い悩んでいたさきほどの表情と
  よく似ていた。
ルルサキ カノア「・・・・・・リノ、大事な話があるんだ」
  やがてこちらを向いたカノアは、
  これまで見たことがないくらい真剣な
  顔と眼差しをしていた。
アリスガワ リノ「うん。なに?」
ルルサキ カノア「その・・・・・・・・・・・・俺達、もう恋人でいるのやめにしないか?」
アリスガワ リノ「えっ・・・・・・?」
アリスガワ リノ(それはつまり、別れたいっていうこと? やっぱりカノアは私と結婚する気なかったんだ)
  最悪の予想が的中し、リノの視界が
  蜃気楼のようにゆらゆらと揺れ始める。
  するとカノアが「こっち向いて」とリノの
  頬に手をそえ、優しく視線を合わせた。
ルルサキ カノア「話は最後まで聞いて。俺達、もう恋人でいるのやめにしないか? 今日からは、家族になろう」
アリスガワ リノ「それって・・・・・・」
ルルサキ カノア「アリスガワリノさん。 俺と、結婚してください!!」
アリスガワ リノ「はいっよろしくお願いします!」
ルルサキ カノア「よっしゃああああ!!!!」
  二人を祝福するように、桜吹雪が舞う。
  どこからともなく聞こえた拍手は
  次第に大きくなってゆく。
  二人はなりやまぬ拍手と桜吹雪の下で、
  幸せをかみしめるように目を合わせ
  どちらからともなく微笑み合うのだった。

コメント

  • 季節を感じるのは風景だけではなく思い出もありますよね。
    特にこんな幸せな記憶は、ずっとこの季節になると思い出すんだろうなぁとほっこりしながら読ませて頂きました。

  • プロポーズの場面は、感情移入して、幸せな気持ちにならずにはいられませんでした。年齢のこともそうだし、リノちゃんと同じように悩んだこともあったので、最後の展開が嬉しすぎてほろっとしました。

  • リノちゃんがその年齢で思い悩むのとても共感できました。好きだからこそ踏み込めないっていうのも、よくわかります。でもそんな控え目な彼女だからこそ、慎重派であろう彼も家族になることをえらんだのでしょうね。終わりがとくに美しかったです。

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