ファーストキスはあなたと

上坂凛

読切(脚本)

ファーストキスはあなたと

上坂凛

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〇映画館の入場口
  よく晴れた日曜日──。
  私は映画館の前で陽斗(はると)くんを待っていた。
結(久しぶりのデート、楽しみだなあ。いつ以来だろう)
  うきうきしながら待っていると、
陽斗「結(ゆい)!」
  陽斗くんが駆け寄ってきて、突然私に抱きついた。
結「は、陽斗くん!? どうしたの急に・・・」
陽斗「ごめんごめん、久しぶりに会えたから嬉しくて」
結「もう・・・ 周りの人に気づかれちゃうよ?」
陽斗「平気だって、意外とバレないから」
  そう言う陽斗くんは人気急上昇中の若手俳優で、最近は少しずつ脇役からメインの役を演じるようになっていた。
  私は彼がデビューする前──中学2年生の時の同級生で、
  高校もたまたま同じ学校になり、幸せなことに2ヶ月前からお付き合いをしている。
結(陽斗くんに会えて嬉しいけど・・・)
結(あのことは、どうすればいいんだろう・・・)

〇女の子の一人部屋
  昨日の夜──
結「え!? 月9!?」
  陽斗くんが来年連続ドラマに出演することが事務所のサイトで発表され、私は思わず声を上げてしまった。
  少女漫画が原作のドラマで、主人公の恋人役と書かれている。
結「あのキャラを陽斗くんがやるんだ! 月9なんてすごいな~」
  その少女漫画は人気の作品で、私も読んだことがあった。
結「──え、でも・・・!」
結「抱きしめたり、キスしたりするってことだよね・・・」
結(演技だとしても、陽斗くんが他の人とキスするなんて嫌だ・・・)
結(それに── まだ陽斗くんとキスしたことないのに・・・)

〇映画館の入場口
結(──でも、ドラマに出ないでなんて言えるわけないし・・・)
結(ああ、もう・・・ なんでこんなことになっちゃったんだろう・・・)
陽斗「結、映画を観終わったら行きたい所があるんだけど、いい?」
結「うん。どこに行くの?」
陽斗「それは、着いてからのお楽しみ!」

〇遊園地
  ──映画を観終わった後、陽斗くんに連れられてやってきたのは、
  ショッピングモールのそばにある観覧車の下だった。
結「あ、ここは・・・」
  初めて二人で出かけた日──
  この観覧車に乗っている時に、陽斗くんが告白してくれた。
陽斗「うん。また一緒に乗りたくてさ」
陽斗「その前に、話したいことがあるんだ」
  こちらに向き直った陽斗くんは、真剣な表情をしていた。
陽斗「実は、来年メインの役で恋愛ドラマに出ることになったんだ」
結「え? それって・・・少女漫画が原作の?」
陽斗「あれ、なんで知ってるの?」
結「えっと、昨日事務所のサイトで発表されてたよ」
陽斗「なんだ、そうだったんだ」
結「月9でメインの役ってすごいよね。 おめ──」
  言いかけて、私は口ごもってしまった。
結(おめでとうって言いたいのに・・・言えないよ・・・!)
陽斗「大丈夫!?」
  涙がこぼれる中、陽斗くんが私の頭をそっと撫でてくれる。
陽斗「どうしたの? なんでも言っていいよ」
結「ごめんっ・・・!」
結「陽斗くんはお仕事頑張ってるのに、 他の人と・・・キスするなんて、嫌だって思っちゃって・・・!」
  ──その瞬間、私は陽斗くんの大きな体に抱きしめられていた。
陽斗「ごめん・・・やっぱり嫌だよな。 本当にごめん」
陽斗「もしかしたら、悲しませちゃうかもって思ってたんだ」
結(私のこと考えてくれてたんだ・・・)
陽斗「けど、だからこそ伝えたかったんだ。 俺の気持ちを」
  陽斗くんは腕を離し、私の目を真っ直ぐに見つめる。
陽斗「俺はもっと仕事を頑張っていきたいから、ドラマも精一杯やろうと思う」
陽斗「でも・・・本当は他の人とキスしたくない。 ファーストキスは、結とじゃなきゃ嫌だ」
結「っ! 陽斗くん・・・」
陽斗「だって、俺のヒロインは結だけだから」
結「うっ、うっ・・・!」
陽斗「ほら、もう泣かないで。大丈夫だから」
結「うん・・ ・ ありがとうっ・・・!」

〇観覧車のゴンドラ
  それから──
  私たちは手を繋いで観覧車に乗り、隣の席に座った。
  告白された時は向き合って座っていたから、隣に座るのは今日が初めてだった。
陽斗「わっ、やっぱり綺麗だな~」
結「ね、また乗れて──」
結「っ!」
  陽斗くんの声に振り向くと、肩がぶつかってしまった。
結「ご、ごめん!」
陽斗「いや、俺も・・・」
  私は恥ずかしくなって、視線を外に向ける。
結(思っていたよりも距離が近くて、ドキドキする・・・)
  陽斗くんも同じ気持ちだったのか、私たちは黙ってしまった。
陽斗「・・・・・・」
陽斗「結」
陽斗「キス、していい?」
結「っ!」
  ささやくような声にドキッとして、胸の鼓動が速くなっていく。
結「う、うん・・・」
  私はうなずいて、目を閉じた。

〇黒
  陽斗くんが私のあごに手をそえる。
結(どうしよう、すごく緊張する・・・)
結(・・・・・・)
結「──ま、待って!」

〇観覧車のゴンドラ
  あまりの緊張に、私は目を開けて離れてしまった。
結「・・・あれ?」
  反応がないと思ったら、陽斗くんの顔が真っ赤になっていた。
陽斗「ご、ごめん! 緊張してすぐにできなくて・・・」
陽斗「ああ、もう、恥ずかしいな俺・・・!」
結「アハハッ。良かった、陽斗くんも緊張してたんだ」
陽斗「そりゃ、ね・・・」
  陽斗くんは頬を赤らめたまま、私の手をぎゅっと握る。
  そしてもう片方の手で、私の頬に優しくふれた。
陽斗「こんなにドキドキするのは、結が特別だからだよ」
陽斗「大好きだ」
  陽斗くんの真っ直ぐな瞳に吸い込まれるうちに、私はキスをしていた。
  やわらかい唇。繋いだ手のぬくもり・・・。
  全てから、陽斗くんの気持ちが伝わってくる。
結(──私も、大好きだよ)

コメント

  • 応援したいけど、キスは嫌だっていう、複雑な結ちゃんの気持ちが痛いくらいに伝わってきました。
    演技じゃない、本物のファーストキスができて良かったです(^^)
    甘酸っぱい恋のお話に、胸がキュンキュンしました!
    きっと陽斗は売れっ子俳優になっても、結ちゃんのことを一途に愛し続けるんだろうなぁ。二人の幸せを願ってます✨

  • こんなに素直に気持ちを伝えられて、それもお互いがお互いのことを真剣に考えてて、読んでいてとてもドキドキしてしまいました!
    演技とは言え、嫌なものは嫌ですよねえ…。

  • 素敵な素敵なファーストキスだと心から思えました。とても繊細な描写で、二人の息づかいさえ聞こえてくるようでした。これから訪れるであろう困難にも、二人一緒に乗り越えていってほしいですね。

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