天下布武木下、テンダネス石川(脚本)
〇体育館の舞台
校長「であるからして、新入生諸君につきましては──」
木下 信千代「ごぎがががぎご(おなかがいたい) うるせええええ響くんだよおお」
〇保健室
木下 信千代「ぐすっぐすっ たとゐ入学式でも痛みは容赦してくれぬのだ」
木下 信千代「えぐっえぐっ えぐいたいよおおぉ」
石川くん「大丈夫? ほら、涙拭きなよ」
木下 信千代「先客いたの!?」
石川くん「な、馴れ馴れしくてごめん! うるさくて眠れないから(小声)」
木下 信千代「私の涙を見たな──!!」
石川くん「こほこほ だ、だめなの?」
木下 信千代「生かしてはおかぬ!!」
石川くん「ひっ・・・ 許してよ、涙を見られるのがそんなに嫌だなんて思わなかったんだ」
石川くん「ちょっとした自慢だけどぼく、生まれてから一度も泣いたことがなくて」
木下 信千代「泣き虫と小馬鹿にされてきた私の気持ちがわからないってのか お前はどうやって生まれてきたんだよおおぉお」
石川くん「ラマーズ法を使いこなしたのさ☆」
石川くん「笑顔の方が、似合うよ」
木下 信千代「私の涙は私のものだろ 勝手に拭いてんじゃねえええ」
〇教室
涙を見た者は生かしておけない
そんな掟を持っているわけではないが、
石川くんを泣かせる決意をした!!!!
がしかし──
木下 信千代「3日連続で保健室登校とはね」
〇保健室
コンコン
ガラッ
木下 信千代「石川はじめくん!! 1学期中に貴様を泣かせてやる」
木下 信千代「寝てるのに気付かず喧嘩売ってしまった」
木下 信千代「やっぱきれいな顔してるねえ」
木下 信千代(顔に落書きしたら泣くかな)
石川くん「木下さん、ぼくは悲しき玩具じゃないんだよ」
木下 信千代「失敗した! なぜだ、寝首を掻いたはず──」
石川くん「強いて言うなら邪気、かな」
木下 信千代「入学式の日の無邪気な涙が信じられないっての!?」
〇学校の下駄箱
石川くん「またラブレターか。断って傷つけるの、いやだよ・・・」
石川くん「そして靴がない」
木下 信千代「フフ。雨の日に靴がない。大層不安だろうな」
石川くん「たったいま原因がわかって安心したよ」
木下 信千代「ほら、ぬく〜いスニーカーだよ 感動的でしょ?」
石川くん「いや──泥だらけじゃん! 大丈夫? 服、貸そうか?」
木下 信千代「泥に塗れて敵に情けをかけられて わしのプライドに泥を塗るとなぜわからぬのじゃ」
石川くん「そんなキャラだっけ・・・」
〇家庭科室
木下 信千代「今日の調理実習は天ぷらということでね 鯛を持参しましたよ」
クラスメイト「悪いことは言わないから、石川くん」
クラスメイト「木下さんとは関わらないで。身体に障るよ」
石川くん「常人ではないよね でも」
石川くん「あんな人、初めてなんだよ。ぼくは木下さんのぐいぐい来るところがきらいじゃ──」
木下 信千代「天ぷらの熱さで泣け!!」
石川くん「あっつぁ!!!!」
木下 信千代「あっっっつゥ!!」
石川くん「きらいじゃなくない・・・」
〇教室
木下 信千代「にんげん〜五十年〜♪」
石川くん「木下さん! 何やってるの早く逃げなきゃ!」
木下 信千代「ちょっと舞をね」
石川くん「げほ、げほ。出るよ!」
木下 信千代「お主が泣くというなら逃げよう どうする? 涙に人命がかかっているぞ」
石川くん「まさか、ぼくを泣かせるために火を・・・?」
木下 信千代「ちがわーい!! なあにナチュラルに人を放火犯にしとるか」
石川くん「いいから出ようよ!! 手を取って、ほら」
木下 信千代「気安く手握ってんじゃねー! うう、煙で目が霞むよおぉ」
木下 信千代「がくっ」
石川くん「木下さん!? 木下さん!! ぼくが、助けるからね!」
〇田舎の学校
先生「教室が燃えてしまったので今日から青空教室です」
木下 信千代「青、空・・・?」
木下 信千代「石川くん、しゃがんで何してるの? まさか、泣いてるのか???」
石川くん「これ」
木下 信千代「一握の砂? それがなに?」
石川くん「虫が雨で溺れちゃうから、守ってるんだ」
木下 信千代「普段雨が降ったら虫はどうしてると思ってるの?守られるほどヤワじゃないよ!エゴだよそれは やーいやーい」
先生「木下さん。あとで職員室」
木下 信千代「私はただ泣かせたかっただけなのにー!」
石川くん「マトモじゃないよ でも、ごめんね──」
木下 信千代「庇いやがった ぢぐしょう、この屈辱は忘れん」
石川くん「ゴホッゴホッ がはッ」
木下 信千代「エゴで虫庇うから風邪引いたんだ〜 え?」
木下 信千代「先生!! 石川くんが喀血しました!!」
〇病室のベッド
コンコン
ガラガラ
木下 信千代「たのもー」
石川くん「お見舞い来てくれたんだ」
木下 信千代「その〜、やっぱり火事から助けてくれたときのダメージが君の比叡山を焼き討ちしたのかなーみたいな」
石川くん「肺をお寺で例える人初めて見た」
木下 信千代「ゴメンね」
石川くん「いいけど天ぷらも謝ってね」
〇病室のベッド
石川くん「停電?」
木下 信千代「ンハぁッピバースデートゥーユ〜」
〇病室のベッド
石川くん「誕生日知ってたんだ」
木下 信千代「毒殺はしないよ 毒殺は」
石川くん「ん? 急に不安になってきたな」
木下 信千代「サプラーイズ! どうせ誰も来ないだろうから、嬉し泣きしちゃうんじゃな〜い?」
石川くん「あれ、さっきクラス”みんな”でお見舞いに・・・」
石川くん「あっごめ」
木下 信千代「うおおおおおう」
石川くん「ありがとうね」
〇教室
木下 信千代「うげ、机の中に前の天ぷらの残り入ってる。 この机使う人かわいそ〜」
石川くん「・・・」
木下 信千代「意味ありげに黙っちゃってどうしたの? 泣くんか? 泣くんか? お?」
石川くん「最近、ちょっかい掛けてこないよね」
木下 信千代「ことごとく失敗したからさ〜 人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し、 泣くまで待とうかと」
石川くん「もう、何もしないってこと?」
木下 信千代「噛みしめられると流石の私も罪悪感あるな 座して待つよ」
石川くん「そっか」
木下 信千代「えっ?」
木下 信千代「先生!! 石川くんが泣きました!!」
先生「木下さんが泣かせたんでしょ(根拠なき確信)」
木下 信千代「わっわ私が!? 遂に!? 天下布武!?」
石川くん「天下取ってないよ ただ──」
石川くん「さみしくなっちゃった」
木下 信千代「席替えで泣かれるなんて・・・人生初だ」
石川くん「人生初の涙が席替えだなんて」
木下 信千代「次に私の隣になる人も泣くのかな」
石川くん「泣くだろうね苦痛だから」
石川くん「借りパクしてたハンカチ顔に投げつける? 普通」
木下 信千代「そこは申し訳ない。この前雑巾にしたし」
石川くん「人生二度目の涙が来そう やっぱりきみの隣の人、かわいそうだよ」
木下 信千代「うるせーな」
石川くん「だから次も、ぼくが隣にいる」
そうはならんでしょ
木下さんのワードセンスが最高です。幼稚な行動と対照的な言語能力の高さが不思議なギャップを生み出して、とても魅力的に感じます。クラスみんなでお見舞いに来てたのに木下さんだけはぶかれてるのは可哀想ですが、そんな可哀想な木下さんを見てるとちょっとゾクゾクします。つまり何が言いたいかというと、木下さんは私のツボにどストライクです。
木下さんも変人だけど、実は波長があっちゃってる石川くんもかなりの変人だとみました。さみしくてないちゃうとかかわいすぎる。かまってもらって案外嬉しかったのかな。
楽しい作品でした!
教室が燃えちゃったから青空授業って、そういう場合ではないのでは!?とツッコミを入れてしまいました。笑
ラストでキュンしてる彼女がかわいかったです!