ハイウェイ下(脚本)
〇電器街
雑多な物音や人の臭いが嫌いな彼が、わざわざ交通量の多い都心の片隅に縄張りを移したのは、何をおいても食糧不足からであった。
獣「腹減った・・・」
郊外の住宅地に比べれば、都会の街はありつける食糧に幾分余裕があるのだが、代わりに命の危険が増した。
昨夜も食糧を求めて歩いていた仲間の一匹が、道の真ん中で横たわって動かなくなっているのが発見された。
獣「どこへ行っても、幅を利かせているのは人と車よ」
獣「特にこの辺りの道路は群れを成して、でかい顔をして走り回っているからね」
獣「悪いことは言わないから、ウロウロしないことね」
獣「いずれは僕たちも車にはねられて、あのように動かなくなるのかな」
何度も同じ光景を目の当たりにしてきた彼も、嘆息してやまなかった。
やがて、都会の道路にも嫌気がさしてきた彼は、いつしか空を見上げることが多くなっていた。
獣「食料は最低限生きていけるだけで良い、人も車もいない天国のような新天地がどこかにないだろうか」
もの思いにふけっていると、ふと生意気なカラスどもの会話が耳に入った。
カラス男「空に近い道路に人は入れない」
カラス女「夜は車もいやしない」
カラス男「自由に入れるのはカラスだけ」
身体能力に優れた彼にとって、着地したカラスを捕獲することなど造作もないことだった。
命が惜しいカラスは、彼に今の話を詳らかに語って聞かせるほかなかった。
カラスの話を要約すればこうだ。
カラス男「「空に近い道路」は翼を持つ者だけが入ることを許された特別な場所」
獣「そこへ行くには?」
カラス男「ある地点まで行けば、地上からも入ることができる「坂道」がある」
カラス女「やめときなさい。坂の上は人が番をしていて、固く行く手を阻んでいる」
獣「今更、人の手にかかるような自分ではない」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
動物の世界も厳しいですね。食べ物を求めて彷徨い続けるしか無いのでしょうか。人間と動物が共存できる環境が必要です。ストーリーからその警告を受けました。
ラストまさかの新天地となってしまい、少し悲しかったです。動物としても、人間としても、きっとこのような最期を迎える人はいるのだろうなあと感じました。
そのまま読んでも、何かしらの比喩として読んでも楽しめる作品ですね。作中の空気感もひしひしと伝わってきて、引き込まれるようでした。