読切(脚本)
〇森の中のオフィス(看板無し)
市街地の喧騒から離れた一角にその建物は存在する──・・・。
依頼人「ここが、『幡探偵事務所』・・・」
「ご依頼ですか?」
萩原美郷「驚かせてしまって、すみません。幡探偵事務所の助手をしています、萩原です」
依頼人「あの・・・その・・・」
萩原美郷「よろしければ、なかでお話をお聞かせください。さあ、どうぞ」
〇応接室
萩原美郷「所長、お客様ですよ」
萩原美郷「・・・あれ、所長?」
ガタガタ! バタン!! ガシャン!!
依頼人「すごい音がしましたけど・・・」
萩原美郷「ちょっと見てくるので、ここでお待ち下さい・・・!」
〇研究所の中
萩原美郷「所長・・・! 幡所長!!」
想像していた通り、奥の仕事部屋はひどい状態になっていた。
本棚から落ちて散らばった本、倒れた梯子、割れたコーヒーカップ、汚れた書類──・・・。
萩原美郷(ちょっと目を離すと、すぐこれなんだから・・・!)
幡 護「あっ、美郷ちゃん!」
幡 護「ご・・・ごめん。本棚の整理をしようとしたら、ちょっと失敗しちゃって・・・」
萩原美郷「所長、お客様がお待ちです! ここは私がやっておきますから、早く行ってください!」
幡 護「え、お客さん!? 分かった、行ってくる」
萩原美郷(全く・・・)
床を片付けながら、私は溜息を吐いた。
そう──この探偵事務所の所長・幡護は、知力、体力、財力全てに優れているが、欠点が一つだけある。
それは、致命的に生活力がないことだ。
萩原美郷(この事務所だって、私がいなきゃどうなっていたことか・・・)
萩原美郷「ん? 何だろう、これ・・・」
書類を片付けていた私は、一枚の紙に目を留めた。
そこには──、
萩原美郷「えっ!? これって──」
〇応接室
幡 護「それでは、ご依頼の件は、こちらにお任せください」
依頼人「はい、よろしくお願いします」
幡 護「美郷ちゃん、ちょうど今、お客さん帰ったよ」
萩原美郷「・・・・・・」
幡 護「美郷ちゃん?」
萩原美郷「あ、はい・・・何ですか、所長」
幡 護「どうしたの? 元気ないよ」
萩原美郷「そんなことありませんよ。・・・私、ちょっと買い物に行ってきます」
幡 護「・・・?」
〇開けた交差点
買い物を終えると、空はもう夕焼けに染まっていた。
萩原美郷「遅くなっちゃったなぁ・・・」
探偵事務所へと帰る足取りが重い原因は、もちろん、仕事部屋を片付けていたときに見つけてしまった『あれ』だ。
萩原美郷(まさか所長が人を雇う気でいるなんて・・・)
仕事部屋で見つけた求人広告。
まだ作りかけではあったものの、どうやら所長は求人を出すつもりでいるらしい。
萩原美郷(所長の家はお金持ちだけど、あの事務所自体に他に人を雇う余裕があるわけじゃないし・・・)
萩原美郷(つまり、私はクビ──?)
目頭が熱くなり、涙で視界が滲んだ。
〇応接室
幡 護「あ、お帰り!美郷ちゃん」
幡 護「遅いから心配したよ・・・って」
幡 護「ど、どうしたの!?」
萩原美郷「ひどいです・・・所長〜」
萩原美郷「何にも言わずに、私をクビにするなんて・・・っ」
幡 護「クビ!?」
幡 護「一体どういうことかな、美郷ちゃん」
幡 護「一から話して聞かせてくれる?」
萩原美郷「実は、さっき──・・・」
私は、仕事部屋で見たことについて話した。
幡 護「求人広告・・・」
幡 護「ああ、あれか!」
幡 護「あれは、違うよ!」
萩原美郷「違う・・・?」
幡 護「あれは、ここのじゃなくて、僕の家のハウスキーパー募集の広告だよ」
萩原美郷「え・・・」
萩原美郷「え〜〜〜〜!!」
幡 護「悲しいことに、またハウスキーパーが僕のあまりの生活力のなさに愛想を尽かして辞めてしまってね・・・」
萩原美郷「また辞めたんですか? 一体何人目ですか!? じゃあ、新しい人を雇わないと・・・!!」
萩原美郷「所長は一人じゃ生きていけないんですから・・・!!」
萩原美郷「・・・けど、良かった~♪ 私、クビじゃないんですね!」
幡 護「僕が美郷ちゃんをクビにするはずがないよ」
幡 護「だから、美郷ちゃんは僕が一人じゃ生きられないって言ったけど、僕は絶対に一人にはならないんだ」
萩原美郷「?」
幡 護「いつでも僕の側には美郷ちゃんがいてくれる」
萩原美郷「所長・・・」
萩原美郷「側にいるのは当たり前です。 私は、所長の優秀なただ一人の助手ですから!」
萩原美郷「・・・あっ、そういえば、私、ケーキ買ってきたんですよ! お茶にしましょう♪」
私は、スキップし出しそうな軽い足取りで給湯室へと向かった。
幡 護「『助手』だからか・・・」
幡 護「まあ、いいか・・・今はまだそれで」
美郷の勘違いからの、所長の気持ちにぐっと来ました!
もう、美郷ちゃん、所長のところに永久就職しちゃえ!と内心思ってしまいました~(笑)
いつか二人が結ばれるといいなぁ……
私がそうというわけじゃないけど、疲れが溜まってなにか癒しがほしいなあというときに読みたいストーリーだなあと思いました。目には見えないけど、人を好きと思う気持ちはどんなものよりいい空気があります。
これからの二人の関係にドキドキです!
生活力がない人って、男女関わらず一定数いますよね。
いっそのこと、彼女に家に来てもらえば…と思いましたが、今はまだ…なんですよね。