〇教室
　　念願のクラス担任になって、早三か月。
　　クラスの１人。
　　白井くんは新学期早々、不登校になってしまった。

〇一戸建て
前田　歩美「初めての家庭訪問が不登校支援とは・・・」
前田　歩美「はあ・・・本当ついてないなぁ・・・」
前田　歩美「そもそも、なんで私が担任になった途端に不登校になるのよ・・・私に対するいじめなの？」
前田　歩美「はあ・・・」
　　気が重い。
　　だけど、ここで引き返すわけにも行かないし・・・。
前田　歩美「白井くんってどんな子なのかな・・・不良とかだった嫌だなぁ・・・」
　　意を決して、呼び出しボタンを手をかける。
　　──ピンポーン
インターフォンの声「・・・はい」
前田　歩美「こんにちは わたしく、大輔くんの担任を務めさせていただいております、前田と言います」
前田　歩美「大輔くんいらっしゃいますか？」
インターフォンの声「・・・」
インターフォンの声「先生？」
前田　歩美「もしかして白井くん？」
インターフォンの声「何しに来たの？」
前田　歩美「お休みしている間のプリントを届けにきたのよ」
インターフォンの声「・・・」
前田　歩美「それにほら、せっかく担任になったのに一度も白井くんとお話したことないし・・・」
インターフォンの声「・・・」
前田　歩美「良かったらお話したいなー、なんて・・・」
インターフォンの声「・・・」
前田　歩美「し、白井くーん？」
インターフォンの声「・・・どうぞ」
　　どうやらお邪魔してもいいらしい。

〇一階の廊下
前田　歩美「おじゃまします」
　　そっと玄関に入る。
　　と、そこにはとんでもないイケメンがいた。
白井　大輔「・・・あんたが担任？」
前田　歩美「そ、そうよ。前田歩美です。よろしくね、白井くん」
白井　大輔「ふぅん？」
　　ふぅん、って・・・。
前田　歩美「ええと、ご両親は??」
白井　大輔「いない」
前田　歩美「お出かけ中？」
白井　大輔「まあ、そんなとこ」
白井　大輔「で。何の用？ 学校へ来いって話ならお断りだよ」
前田　歩美「うっ・・・・！」
　　言う前に断られてしまった・・・！
前田　歩美「な、なんで学校に来たくないのかな？ 理由とかあるの？」
白井　大輔「・・・」
白井　大輔「学校は怖いから・・・」
前田　歩美「えぇ？　な、なんで？」
白井　大輔「みんな俺を怖がるんだ」
白井　大輔「だから、怖い」
白井　大輔「友達も出来ないし・・・」
白井　大輔「だから、学校は行きたくない」
　　開いた口が塞がらないとはこのことだ。
　　まさか、そんな子供みたいな理由で・・・
　　いや、この子はきっと・・・
前田　歩美「・・・じゃあ、友達が出来たら学校に来る？」
白井　大輔「え？」
前田　歩美「先生が友達第一号ってことで・・・だめ、かな？」
白井　大輔「・・・本当に？」
前田　歩美「私で、良かったらだけど」
　　そう言うと、白井くんは。
白井　大輔「・・・」
　　初めて笑顔を見せてくれた。
白井　大輔「へへっ、そっかぁ」
白井　大輔「じゃあさ、先生！」
　　と、突然腕を取られ、引き寄せられる。
　　触れられた手が思ったより大きくて、どきりとした。
白井　大輔「これから俺と遊ぼうよ！」
前田　歩美「・・・」
前田　歩美「え”っ!?」

〇明るいリビング
白井　大輔「じゃ、俺の番ね！」
前田　歩美「・・・」
白井　大輔「うーん・・・どれにしようかなーっと・・・」
　　まるで無邪気な子供のような目だ。
　　きらきらと光る瞳は私には眩し過ぎる。
白井　大輔「こっち？　いや、こっちかな？」
　　突然に遊ぼう、なんて。
　　何事かと思えば。
　　私たちは向い合せになって、
　　ババ抜きを興じていた。
白井　大輔「よし！　こっちだ！」
　　えい、っと私の手札からカードを一枚引き抜いていく、白井くん。
　　それだけの動作に心底楽しそうだ。
白井　大輔「おっ、揃ったー！　あと２枚！」
前田　歩美「・・・よかったね」
白井　大輔「へへっ。次、先生の番だよ！」
前田　歩美「うーん・・・じゃあ・・・」
　　白井くんの手札に１枚に触れてみる。
白井　大輔「むっ」
前田　歩美「・・・いや、こっちかな」
白井　大輔「あっ！」
前田　歩美「・・・」
　　なんというか、分かりやすい子だなぁ。
　　っていうか、２人だけのババ抜きでよくそこまで盛り上がれるよね。
　　本当にこの子は、純粋な子なのだ。
前田　歩美「ん、こっち」
　　分かりやすく顔をしかめた方のカードを引き抜く。
白井　大輔「あぁ！」
白井　大輔「また取られたぁ！」
前田　歩美「ふふ、はい、私の勝ちね」
白井　大輔「うわーっ、悔しい！」
白井　大輔「ね、先生！　もう１回！　もう１回やろう！」
前田　歩美「えぇ？　またぁ？」
白井　大輔「もちろん！　俺が勝つまでやる！」
前田　歩美「えぇー・・・」
白井　大輔「ほら、先生！　カード配って！」
前田　歩美「はいはい。じゃあ、あと１回ね」

〇一階の廊下
前田　歩美「じゃあ、私そろそろ帰るわね」
白井　大輔「・・・うん」
前田　歩美「そんな寂しそうな顔しないでよ」
白井　大輔「だって・・・」
白井　大輔「せっかくだから飯も食って行ってよ」
前田　歩美「そういうわけには・・・」
白井　大輔「・・・」
白井　大輔「学校・・・」
前田　歩美「え？」
白井　大輔「学校、行けばまた会える？」
前田　歩美「・・・そうね」
前田　歩美「だけど、白井くん」
前田　歩美「さっきは学校に来てって言っちゃったけど、無理はしなくていいのよ」
白井　大輔「・・・」
前田　歩美「君は君のペースでいいと思うわ」
白井　大輔「行かなくて、いいの？」
前田　歩美「そりゃあ、私は先生だから 先生としては来てほしいけど・・・」
前田　歩美「でも、無理強いはしたくない」
前田　歩美「すぐには無理だけど、たまになら家庭訪問しに来れるから・・・」
白井　大輔「・・・じゃあ、俺行くよ」
前田　歩美「え？」
白井　大輔「学校、行くよ」
前田　歩美「えっ!?」
前田　歩美「いやいや！ 無理はしなくていいって言ったでしょ？」
白井　大輔「でも、俺が学校に行くと先生は嬉しいんだよな？」
前田　歩美「そ、そりゃあ、まあ・・・」
白井　大輔「なら、行くよ！」
白井　大輔「俺さ、なんか先生が喜んでくれるなら、嬉しいんだっ」
白井　大輔「先生がいれば学校も楽しそうだし！」
前田　歩美「白井くん・・・」
白井　大輔「へへっ、なんかドキドキすんな」
前田　歩美「そうね・・・って」
前田　歩美「え？」
白井　大輔「すげえ、ドキドキする」
白井　大輔「俺、先生のこと好きかもしんない」
前田　歩美「・・・」
前田　歩美「はっ!?」
前田　歩美「そ、それはあれかな？ 雛の刷り込み的な？　勘違いみたいな？」
白井　大輔「んなことないよ」
前田　歩美「し、白井くん・・・？」
白井　大輔「だって俺、今先生のことおいしそうって思ってる」
前田　歩美「ど、どういう意味？」
白井　大輔「ちゅーしたい、ってこと！」
前田　歩美「!!!!!?????」
前田　歩美「な、なにを言って・・・！」
白井　大輔「ははっ、なんもしないよ。今は」
白井　大輔「でもさ」
　　突然、先ほどまでそこにあった無邪気さが身を潜め
前田　歩美「っ・・・！」
　　私は思わず目を逸らした。
白井　大輔「ねえ、先生？」
前田　歩美「は、はい！」
白井　大輔「これから、覚悟してね？」
　　そう言って、
　　白井くんはにやりと笑う。
白井　大輔「俺、本気だから」